賃貸物件でのトラブルを未然に防ぐための国土交通省によるガイドライン「賃貸住宅標準契約書」の改訂版が2012年2月10日に発表されました。主な改訂点は、退去時の原状回復費用を明確にすること、反社会的勢力の排除に関わる事項が加えられたことです。2011年8月に発表された「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」をさらに充実させた「賃貸住宅標準契約書」について説明します。
改訂の大きなポイントの一つが「原状回復の費用分担」を明確化したことです。契約時に賃貸オーナー、入居者双方の費用分担を明らかにすることで、退去時のトラブルを防ぐことに役立ちます。すでに賃貸経営をしている場合は、お使いの契約書と標準契約書の内容を比較し、異なる部分は標準契約書の内容に沿って改訂することでトラブルの未然防止につながるでしょう。国土交通省発表の『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』では、「借り主の通常の居住、使用による物件の破損、損耗」は賃貸住宅オーナーの負担となっており、「借り主の故意や過失などによる物件の破損、損耗」は入居者の負担と明確に規定されています。
例えば、冷蔵庫の後ろの壁の黒ずみはオーナー負担、冷蔵庫下に付いたサビを放置した跡は入居者負担となります。また、カーペットに残る家具の跡はオーナー負担、不注意で付けたフローリングの傷は入居者負担となります。これまでは、すべての汚損をクリーニング費用として敷金から差し引いていた金額が、一部はオーナー負担になるので、資金繰りも含めた早めの対策が必要です。また、共益費・敷金の性質を明らかにし、敷金については、退去時に基本的に無利子で返還すること、滞納家賃等を差し引く際には、その内訳を入居者に明示することになりました。このガイドラインに従うことで、原状回復の費用分担によるトラブルがかなり軽減できそうです。
もう一つのポイントとなるのが、反社会勢力の排除を明確にしたことです。今回の改訂では、あらかじめ契約当事者が反社会勢力でない旨を相互に確認することなどが明文化されています。
また、これまで頭を悩ませてきた入居者の迷惑行為、例えばテレビ、ステレオ等を大音量で聞くことや乱暴な言動などで付近の住民に不安を覚えさせるような行動については、オーナーが禁止・制限できるようになりました。入居者がペットを飼う際は書面によるオーナーの承諾、新たな同居人を住まわせる場合にはオーナーへの事前通知も明文化されています。さらに、オーナーからの契約解除手続きについても明示されており、オーナーの貸主としての権利も、きちんと保証される内容になっています。
標準契約書は、その使用が法令で義務付けられているものではありません。これはあくまでもガイドラインであり、国土交通省が推奨するものです。しかし、この契約書の内容がすでに広くインターネット等を通じて広まっていることや、国土交通省が地方公共団体、関係業界等に対し通知および通達を行うことにより普及に努めていくことから、このガイドラインが賃貸借契約書のスタンダードとなっていくと考えられます。いずれにしても、合理的な賃貸借契約を結び、オーナーと入居者の間の信頼関係を構築することが一番大切なことです。お互いの信頼が、トラブルの未然防止につながるのです。