9月は防災月間です。東日本大震災からの復興はまだ道半ばですが、震災によるアパート経営上の問題について、法的にはどうなっているのかをQ&A 方式で解説します。災害ではオーナーも入居者も被災者です。法律通りには進まないことも多々ありますが、解決・復興へ向けての参考になれば幸いです。
震災で壊れた外階段を昇っていた入居者がケガを負った場合、オーナーは責任を問われるのでしょうか。
まず、民法では土地の工作物、つまり建物や設備、ブロック塀などについて、安全性を欠いていた場合は、オーナーは被害者に対して損害賠償責任を負うこととされています。いわゆる「瑕疵」があったかどうかです。過去の判例で、「瑕疵」は“予見可能な地震に耐え得る安全性の欠如”という視点で考えます。
では、“予見可能な地震”とはどの程度でしょう。昭和53年の宮城沖地震では、ブロック塀が倒壊し、通行人が死亡した事故について裁判がありました。当時の“予見可能な地震”は震度5程度とされ、現場は震度5以上の揺れがあった可能性が十分にあったこと、震度5の地震に耐え得る安全性を欠いているとはいえないことなどからオーナーの責任は否定されました。
昭和56年以降の新耐震基準は、震度6~7が想定されていますので、この基準をクリアしていれば問題はないと思われます。しかし、老朽化が進み、ひび割れなどがあったのを知っていてメンテナンスを怠っていた場合は、責任を問われることになるでしょう。
予見可能な地震に耐えられないものであった場合、オーナーの責任が問われる可能性があります。
東日本大震災では、多くの方々が避難生活を余儀なくされました。アパートに住んでいた入居者が避難した場合、避難している間の家賃はどうなるのでしょうか?法的には損壊の程度はどうかが問われます。避難の有無ではなく、建物の損壊の状況により判断されるのです。
建物が全壊した場合は、賃貸借契約自体が終了してしまいます。一部損壊やライフラインが止まっている場合は、ケースバイケースです。一部損壊の場合は、その程度に応じて、入居者は家賃の減額請求ができるとされています。
阪神・淡路大震災では、建物の損壊はなかったものの、地震やその後の火災により、ライフラインやエレベーターが止まったケースで、入居者の賃料支払債務がないとの判例が出ています。
また、今回の原発の影響で避難指示が出ているエリアでは、もちろん家賃は取れませんが、自主的に避難している場合は、入居者は家賃を全額支払う義務があります。
建物が損壊し、ライフラインなどが止まっている場合、家賃は取れません。自主避難の場合は、家賃を全額取ることができます。
まず通常、オーナーは震災等に限らず、修繕の義務があります。しかし、これを理由に一方的に家賃を上げることはできません。一方、任意での家賃値上げの交渉は認められ、お互いが納得すれば家賃は値上げできます。
では、大地震により多額の修繕費用がかかった場合はどうでしょうか?この場合は、借地借家法と、もう一つ罹災都市借地借家臨時処理法による判断が求められます。具体的には、支出された費用の額、修繕によってどれほどのアパートの価値が高まったか、区画整理、再開発等によってアパートの借家権の価値が上がったかなどといった諸事情を総合的に判断することになります。
そこで、新家賃が妥当と判断されれば、値上げすることも不可能ではありません。例えば、古い物件であれば、大修繕によってグレードがアップし価値が上がったことになりますが、一部の修繕で地震前と同じ状態に復旧したぐらいでは値上げは難しいでしょう。
大震災等の場合は、オーナーも入居者も被災者です。現実的には家賃の値上げは難しいと思われます。
一定の条件が揃えば、家賃値上げを要求できるし、実現も可能。
これは、老朽アパートの建て替えで、入居者の立ち退き交渉をする時と似ています。つまり、正当事由があるかどうかが問われます。
地震によりアパートが損壊した場合は、その損壊の度合いが判断の基準となります。アパートの損壊が激しく、倒壊の危険性も高いとなれば正当事由が認められる可能性は高いでしょう。つまり、オーナーからの解約の申し入れ、更新の拒絶ができるのです。また、修繕に新築同様の多額の費用がかかる場合も、解約できると考えてよいでしょう。このケースでは、オーナーの利益が優先されます。損壊がひどくない場合は、オーナーに修繕義務があります。
東日本大震災では、避難者の住む仮設住宅の建設が遅れ、民間の賃貸住宅が仮設住宅の代わりに活用されました。アパート等を提供したオーナーは大きな社会貢献を果たしたともいえます。大災害の時は、オーナー、入居者ともに復興に向けて、どう対応するのが最善かを考えることが大切です。
建物の損壊が激しければ、オーナーから賃貸借契約を解約できる。