入居者が支払い済みの更新料の返還を求めていた訴訟で、最高裁は「更新料は有効」の判決を下しました。今後のアパート経営に大きな影響を及ぼすと思われていただけに、業界全体が注目していた判決です。今回はそのポイントと今後の影響について解説します
約4年にわたり、紛争が続いていた「更新料問題」に2011年7月15日、最高裁が更新料は「有効」との判決を下しました。今回の判決は3件の訴訟の上告審判決でした。
まず、訴訟の内容を振り返ってみます。3件の内訳は京都2件と滋賀1件です。問題の更新料の額は、(1) 2年ごとに家賃の2カ月(家賃5.2万円)、(2) 1年ごとに家賃の2カ月(家賃3.8万円)、(3) 1年ごとに10万円(家賃4.5万円)です。入居者は、この更新料は消費者に一方的に不利益を押しつける契約だとして、払い済みの更新料の返還を求めていました。地裁では、2件が有効、1件が無効。高裁では、1件が有効、2件が無効となっていましたが、今回の最高裁では全件「有効」との統一判断を下しました。
賃貸借契約は商習慣によるところが多いのは周知の通りです。関東の賃貸オーナーから見ると、2年ごとでも更新料2カ月は高いような気もしますが、京都 では少なくありません。一方、大阪・兵庫、北海道、四国では更新料はないケースがほとんどです。今回の裁判の争点は、この“1年ごとに家賃2カ月の更新料”が高すぎるかどうかでした。
1年ごとに家賃2カ月分の更新料は高すぎない、と最高裁は判決。
今回の判決の鍵を握っていたのが、消費者契約法第10条です。これは、いくら契約書を交わしてもそこに書かれている契約内容が、消費者の利益を一方的に害する場合は無効であると定めたものです。
賃貸借契約に限らず、日常生活ではリフォームや高額商品などで契約を交わします。しかし、悪徳な商法や詐欺などが多発したため、消費者を保護することを 目的に平成12年にできた法律です。商品やサービスを売る業者は、当然その道の専門家です。それに対して消費者は全くの素人。専門用語ばかりで書かれた契約書の内容を理解するのは至難の業です。特に高齢者などで内容も理解しないままに契約することもあるでしょう。そこで、契約書を交わした後でも消費者契約法により、消費者に一方的に不利な内容の場合は、無効にできるというものです。
賃貸借契約も同じ事です。更新料問題の前に、同じような訴訟がありました。敷金の特約や敷引きの紛争です。このケースでも消費者契約法違反かどうかが問われました。ちなみに、敷金に関しても2011年の3月と7月の2件の訴訟で、最高裁は、契約書は「有効」の判決を下しています。
契約書を交わしても、消費者に一方的に不利な内容であれば、消費者契約法で無効になる。
今回の判決は「更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らして高額すぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法違反ではない」と、1年で家賃2カ月分の更新料も認めました。もちろん、これは前述したように京都の商習慣も鑑みての判決と思われます。
また、今回の判決で見て取れるのが、「契約自由の原則」が重視されたことです。これは、民法上に定められた原則で、当事者は合意によって自由に契約ができるという原則です。入居者は、「契約時に情報や交渉力に格差があり、締結せざるを得ない状況に置かれていた」と主張していましたが、更新料の商習慣は広く知られ、賃貸借契約書に「一義的かつ具体的」に記載され、入居者とオーナーの間に合意が成立していたと最高裁は判断したということです。この点については、先の敷金訴訟と同様の見解です。
また、今回更新料有効の判決とともに、更新料を滞納していた入居者に滞納更新料及び遅延損害金の支払いも命じています。
もし、今回「無効」判決が出ていたら、あちらこちらで返還騒動が起き、大混乱になるのではと危惧されていただけに、業界関係者は安堵しているようです。
「契約自由の原則」が重視され、更新料有効の判決が下された。
今回の判決を受け、今後の更新料はどうなるのでしょうか? いくら1年で家賃の2カ月でも有効と認められたとはいえ、更新料を上げることはできないでしょう。実際、京都では2009年9月に地裁で無効判決が出てから、更新料は値下げ傾向にあり、中には更新料ゼロで競争力をつけるケースもあります。
つまり、借り手市場の昨今では、更新料は市場が決めるということです。これは敷金や今後話題になると思われる礼金についても同じ事です。
そして、賃料を含めたトラブルの防止策として期待されているのが、2010年から始まった「めやす賃料」表示です。日本賃貸住宅管理協会が普及に努めています。これは、家賃以外の共益費、礼金、敷金、更新料等の4年間分を合計し、1カ月あたりの金額にしたもの。今は商習慣も含め礼金、敷金などは物件によってばらつきがあり、入居者にとっては分かりづらいものです。「めやす賃料」があれば、全国どこでも同じ基準で判断できますので、今後、急速に普及するかもしれません。
今後、更新料をいくらに設定するかは市場に委ねるしかない。また、同じ基準で判断できる「めやす賃料」の普及も進む。