アベノミクスへの期待感により景気回復の兆しが見られていますが、不動産市場にもその期待感は表れています。公示地価や路線価も下げ止まりの傾向を見せ、分譲マンション市場やJリートといった不動産投資市場も活況を呈しているようです。そうなると、賃貸オーナーとしては、家賃相場の回復が気になるところです。7月に、住宅新報社から東京圏の家賃調査(今年3月1日時点)の結果が発表されました。家賃相場にも回復の兆しが見られるのか、詳しく見てみることにしましょう。
景気回復の兆しは、不動産市場にも表れています。まず、その傾向が見てとれたのが不動産関連株や不動産投資信託のJリートの株価です。東証リート指数は、昨年の6月から徐々に上昇しはじめ、政権交代が決定した昨年末から一気に上昇を加速させました。Jリートの本業は不動産賃貸事業ですが、景気や金融市場の短期的な変動に影響を受けずに、安定した収益が確保できることが魅力で、投資家からは人気の高い商品です。
さらに、今年1〜5月にJリートが購入した不動産は、1兆円を超えたとのことです。これは、2012年の約8000億をすでに上回ったことになります。公示地価に下げ止まりの傾向が見られ、景気回復期待が高まったせいで、不動産価格は今が底値と、投資家たちが実物不動産の購入に走ったようです。
Jリートの運用対象の約51%はオフィスビルですが、やはり景気動向に連動するのがオフィス市場です。「不動産業業況等調査 (土地総合研究所) 」によるとこの4月では「ビル賃貸業」の現在の経営状況はまだ−18.0ポイントとマイナスですが、“3カ月後の経営状況の見通し”は4.0ポイントとプラスに転じています。
また、分譲マンション市況も消費税の駆け込み需要などで、活況を呈しています。不動産経済研究所の調査によりますと2013年の上半期、首都圏の新規供給戸数は対前年同期比17.1%増、1戸当たりの平均価格は4,736万円で4.8%増です。近畿圏も、販売戸数は、前年同期比9.5%増、1戸あたり価格は3,532万円で1.8%増となりました。
景気回復期待は不動産市場にも好影響。分譲マンションは好調、オフィス需要も改善の兆し。
7月に、住宅新報社が年2回(3月、9月)実施している家賃調査結果(今年の3月1日時点)が発表されました。
東京圏の賃貸マンションの平均家賃は、前回調査比で1LDK〜2DKが−0.08%でほぼ横ばい、ワンルームについては0.13%、2LDK〜3DKは0.19%と、わずかながら上昇しました。これは9期ぶりの上昇ということです。
9期前とは、2008年のリーマンショックの時です。それまでは、家賃相場も他の景気動向と同じで回復傾向を示していました。しかし、リーマンショック以降、下落に転じています。東日本大震災の影響は、家賃相場にさほど影響はありませんでしたが、下落傾向は続いていました。それが、今回の調査ではエリアによっては上昇も見られ、底を打ったとの見方もできます。
すでに、不動産投資、オフィス、分譲マンションといった市場では、活況を呈しているようですが、景気回復はまだ個人の所得増加にまでは及ばず、家賃への影響もまだ先だと見られていました。しかし、住宅新報によると「古い物件でもリフォームがしっかり行われているものが増えていることや、景気回復傾向が見られることで、家賃に若干の影響が出たことなどが推測される」とあります。まだ楽観的にはなれませんが、ひとまずは家賃相場も落ち着きを取り戻したようです。
■東京圏の賃貸マンション平均家賃 (2013年3月1日時点・住宅新報社調べ)
|
ワンルーム |
1LDK〜2LDK |
2LDK〜3DK |
||||||
下限 |
平均 |
上限 |
下限 |
平均 |
上限 |
下限 |
平均 |
上限 |
|
家賃 |
60,783 |
70,357 |
79,931 |
90,743 |
105,349 |
119,954 |
114,274 |
132,220 |
150,183 |
前回比 |
−0.02 |
0.13 |
0.24 |
0.25 |
−0.08 |
−0.33 |
0.24 |
0.19 |
0.16 |
単位:上段/円、下段/%
東京圏の賃貸マンション家賃相場で下げ止まりの傾向。
次にエリア別に家賃動向を見ていきます。
まずは都心。分譲も賃貸もこれまで価格の下落が続いていたこともあり、都心回帰が進んでいました。東京都心ではワンルームの下限家賃が83,182円で−1.1%、上限家賃が115,727円で1.4%上昇と、上限下限の差が大きくなり二極化が見られます。
続いて人気の城南、城西エリア。城南エリアはワンルームで下限家賃70,789円で1.1%、上限家賃91,632円で0.9%と、ともに上昇しています。城西エリアはワンルームがほぼ横ばい、1LDK〜2DKが上限下限ともに0.2%の上昇でした。
また、豊島区や練馬区の城北エリアもワンルーム、1LDK〜2DKともに上限下限はそれぞれ0.2%から1.4%の上昇と堅調でした。
最近の傾向として、都心や人気エリアの堅調に比べ東京都下の不調が報じられることが多かったのですが、今回の調査では東京都下のワンルーム、1LDK〜2DKともに上限が−0.2%でしたが、下限は上昇しており、大きな落ち込みはありませんでした。
公示地価で大きな上昇を示した神奈川県川崎エリアですが、上限下限まちまちの結果が出ました。ワンルームの下限家賃は61,222円で−0.5%でしたが、上限は82,222円で0.7%上昇。1LDK〜2DKは下限家賃が88,333円で0.9%上昇しました。
また、下落が大きかったエリアは埼玉県の川口、さいたま市を含む東部中央エリアの1LDK〜2DKで、下限家賃が66,000円で−1.9%、上限家賃が84,364円で−1.6%でした。しかし、埼玉県西部エリアの1LDK〜2DKは下限が変わらず、上限は2.7%も上昇しています。
どのエリアも家賃相場は微減微増があるが、総じて横ばいかやや上昇傾向が見てとれる。
では、さらにポイントを絞って、人気駅の家賃を見てみます。
話題のスカイツリー効果で地価も上昇している「押上駅」は、ワンルームの上限家賃が−5%、1LDK〜2DKの上限家賃も−8.3%と下落してしまいました。やや過熱感があったのかもしれません。
同様に地価が上昇している「川崎駅」はワンルームの下限が4%下がったものの、1LDK〜2DKの下限は5.6%上昇。そして、2LDK〜3DKのファミリー物件では上限が2%上昇し、依然、高家賃をキープしています。川崎はこの数年再開発が続き、街自体が活気を帯びています。
「北千住駅」も地価が上昇したエリアです。西口の再開発に続き、東口は大学等の誘致活動が積極的に行われ、新しいまちづくりが展開されています。ワンルーム家賃は65,000円〜80,000円とすでに学生には高めの価格帯となっています。1LDK〜2DKは、85,000円〜110,000円と、社会人や新婚ニーズにほどよい家賃でほぼ横ばいの状況です。
「武蔵小杉駅」は、高層マンションが乱立してすっかり街は様変わりし、数年間再開発が続いているエリアです。家賃はワンルームの上限が5.6%上昇、1LDK〜2DKの下限が10%も上昇しています。
住みたい街ランキングで常に上位にいる「吉祥寺駅」はワンルームの上限が−3.2%となりましたが、68,000〜90,000円、1LDK〜2DKは、115,000〜145,000円と高家賃をキープ。より都心に近い「荻窪駅」「中野駅」より高い家賃相場となっています。
もともと家賃が高めの人気エリアにおいても、堅調な様子が見て取れた今回の家賃調査。この回復が本物なのか、今後も続いていくのか、慎重に見極めていくべきでしょう。
■人気駅の家賃 (2013年3月1日時点・住宅新報社調べ)
ワンルーム |
1LDK〜2DK |
2LDK〜3DK |
||||
下限 |
上限 |
下限 |
上限 |
下限 |
上限 |
|
押上 |
68,000 |
76,000 |
85,000 |
110,000 |
120,000 |
140,000 |
川崎 |
65,000 |
90,000 |
95,000 |
130,000 |
120,000 |
150,000 |
北千住 |
65,000 |
80,000 |
85,000 |
110,000 |
120,000 |
145,000 |
武蔵小杉 |
70,000 |
95,000 |
110,000 |
150,000 |
120,000 |
170,000 |
吉祥寺 |
68,000 |
90,000 |
115,000 |
145,000 |
150,000 |
210,000 |
(単位:円)
人気のエリアの家賃相場は、平均的には横ばいで推移し、一部上昇も見られる。今後の動向に注目。