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平成30年度税制改正のポイント

税務・確定申告

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2018年1月 9日

平成30年度税制改正のポイント

昨年12月、平成30年度税制改正大綱が発表されました。今回注目されたのは、所得課税の見直しです。高収入の会社員に対する所得増税が強調されていますが、細かく見ていくと個人事業主であるアパート・マンションオーナーにとって増税の可能性がある改正内容となっています。また、あまり報道されていませんが、今回の税制改正で相続における小規模宅地等の特例の要件が厳格化されました。この改正は相続において大きな影響が出ます。その他、アパート経営や相続など、土地オーナーが注目すべき税制改正のポイントを整理します。

高所得者は会社員だけでなく、個人事業主も増税

働き方の多様化により、様々な業界でフリーランス・個人事業主が増加しています。しかし、個人事業主には会社員にある給与所得控除がありません。そのため、この格差を是正するために、給与所得控除と所得税の基礎控除が改正になります。具体的には次の通りです。

・年収850万円以下の会社員の給与所得控除は一律10万円引き下げ。(増税)
・基礎控除は一律10万円引き上げ。38万円から48万円に。(減税)
※このため、年収850万円以下の会社員には、影響がありません。

・年収が850万円を超えると給与所得控除は195万円で上限に。(増税)
給与所得控除は年収が上がるにつれ増えていきますが、これまで年収1,000万円超で控除額は上限の220万円でしたので25万円引き下げられることになります。つまり、年収850万円超の会社員は増税になります(22歳以下の子どもや介護が必要な人がいる場合を除く)。

個人事業主は、所得税の基礎控除が引き上げられますので減税となりますが、以下の場合は増税です。
・基礎控除は、所得が2,400万円を超えると32万円に、2,450万円を超えたら16万円に、2,500万円を超えたら控除なしになります。
つまり、所得が2,400万円を超えるアパート・マンションオーナーにとっては、基礎控除が減額される分増税となります。

公的年金等控除も控除額が引き下げられます。基礎控除が10万円引き上げられますので、それにあわせて公的年金等の控除額は一律10万円引き下げられます。
影響があるのは不動産収入など、年金以外の年間所得が1,000万円を超え2,000万円以下の場合は控除額が10万円引き下げられ、2,000万円を超えると20万円がそれぞれ引き下げられます。
これについても、高所得の年金受給者は増税になります。

これらの改正は平成32年分(2020年)以後の所得税から適用されます(住民税は平成33年度分以後)。

青色申告特別控除が55万円に引き下げ、電子申告で10万円引き上げ

青色申告のメリットの一つに青色申告特別控除65万円がありましたが、控除額が55万円に引き下げられます。
ただし、青色申告特別控除を65万円にする要件も用意されています。その要件は、総勘定元帳などの帳簿を電子帳簿で行い保存するか、または確定申告を電子申告(e-Tax)するかのいずれかを満たした場合です。
いずれも、事前の申請やソフト、機器類の準備などが必要です。これで電子申告も浸透するかもしれませんが、パソコンに不慣れなオーナーにとっては、いささかハードルが高いかもしれません。
この改正は平成32年分(2020年)以後の適用になります。

30万円未満の少額減価償却資産の損金算入の特例は延長

30万円未満の設備投資(減価償却資産)であれば、一括して必要経費にできる特例は2年間延長され、平成32年3月31日までになりました。青色申告をしていることが要件になります。

相続における小規模宅地等の特例の要件厳格化、賃貸住宅は3年しばり

小規模宅地等の特例は、土地の相続税評価額が大きく減額となるだけに、土地オーナーにとっては重要な特例制度です。おさらいすると、自宅の土地は330m2まで80%減額、賃貸住宅等の土地は200m2まで50%減額、事業用の土地は400m2まで80%減額というものです。適用させるにはいくつかの要件がありますが、今回の改正で自宅と賃貸住宅の土地の要件が厳しくなりました。

被相続人が住んでいた自宅の土地で評価減を受ける場合は、原則、その宅地を取得する相続人は配偶者か同居している親族に限られます。しかし、同居していない親族、主に独立した子どもでも相続開始前3年以内に、本人または配偶者の持ち家ではなく賃貸住宅に住んでいれば適用されました。しかし、これを不正に適用させるケースが増えているようです。

例えば、自宅から独立し持ち家に住んでいる子どもが、事前に自分の子ども(被相続人から見ると孫)に自宅を生前贈与し、一緒に住んでいるのにもかかわらず、登記上自身の持ち家ではないと見せかけるケースなどです。
これにより、改正では相続開始前3年以内に3親等内の親族等が所有する家に居住したことがある場合、または相続開始時に持ち家を過去に所有していたことがある場合は、対象から除外されることになりました。

もう一つの改正が賃貸住宅の土地の要件です。
一般に、子ども世帯は持ち家で独立し自宅に小規模宅地等の特例を適用させるのは難しくなっています。その場合でも、賃貸住宅があれば貸付事業用地の特例を適用させ、相続評価を大きく減額させることができます。それだけに、こちらも不正に適用させるケースがあります。
相続の節税対策としては、現金を不動産に替えるだけでも大きな節税効果がありますが、さらに大きな効果を得るために、一時的に現金でアパートを一棟買いして小規模宅地の特例を適用させ、相続が終わったらすぐに売却してしまうケースです。この特例制度は、そもそも事業を引き継ぎやすくするために配慮されたもので、節税目的で利用されては意味がありません。

そこで、一時的に活用するのを防ぐため、3年間のしばりが設けられました。相続開始前3年以内に賃貸住宅経営を開始した土地は、この特例では除外されることになりました。言い換えると、賃貸住宅を建てても3年以内に相続が発生すると、この特例は適用できないということになります。ただし、3年以上前から事業的規模で賃貸経営をしているオーナーが賃貸住宅を建て替えたり、新築した場合を除きます。

この改正は、平成30年4月1日以後に開始した賃貸住宅の土地で、相続が発生した場合に適用されます。

また、要件が緩和されたものもあります。被相続人が介護施設等に入所して住まなくなった自宅については、被相続人が住んでいたものとして特例の対象に含まれることになりました。

空き家対策で、土地の相続登記に対する登録免許税の免税

この改正は空き家対策として新設された特例です。
空き家問題の一つは、その土地建物の所有者が分からないことが多いということです。つまり、土地を相続したものの登記変更をせずに、その相続人も亡くなりそのままになっているというようなケースです。
改正では、土地を相続した人が相続未登記のまま亡くなった場合、その人の相続人が平成30年4月1日から33年3月31日までの間に、その亡くなった人を登記名義人とするために必要な登録免許税を免税とします。また、市街化区域以外の土地で登記時の土地の評価額が10万円以下のときは、登録免許税が免税となります(平成33年3月31日まで)。

その他の税制改正 -特例延長、新税など-

■マイホームの買換えに係る特例制度、2年間延長

自宅を買換えた際に納める譲渡所得税のうち、自宅の買換えに充てた金額まで納税が繰り延べられる特例制度が、次の要件を加えた上で2年間延長されます。買換える家屋が中古住宅で耐火建築物以外の場合は、築25年以内のものに限定(耐震基準を満たしていれば可)。平成31年12月31日まで。

■マイホームの買換え等による譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例制度、2年間延長

自宅の買換えや売却で譲渡損が生じた場合に、他の所得と損益通算と繰越控除ができる制度が、現行のまま2年間延長されます。平成31年12月31日まで。

■新築住宅に係る固定資産税の減額措置、2年間延長

新築住宅のうち、一般の住宅は3年間、中高層のマンションは5年間、固定資産税が2分の1になる減額措置が、現行のまま2年間延長されます。平成32年3月31日まで。

■認定長期優良住宅、認定低炭素住宅の特例制度、2年間延長

認定長期優良住宅を取得した場合の登録免許税、不動産取得税、固定資産税の優遇措置が、現行のまま2年間延長されます。平成32年3月31日まで。
また、認定低炭素住宅の所有権保存登記の軽減措置が2年間延長されます。平成32年3月31日まで。

■リフォーム(耐震・バリアフリー・省エネ)した場合の固定資産税の減額措置延長

耐震改修した場合、固定資産税が1年間2分の1になる特例措置が2年間延長されます。平成32年3月31日まで。
バリアフリー・省エネ改修した場合、固定資産税が1年間3分の1になる特例措置が、床面積の上限を280m2以下に制限した上で2年間延長されます。平成32年3月31日まで。賃貸住宅は不可。

■不動産取得税の軽減措置、延長

宅地の取得に係る不動産取得税の課税標準を2分の1とする軽減措置が、現行制度のまま3年間延長されます。平成33年3月31日まで。
住宅及び土地の取得に係る不動産取得税の税率を3%にする軽減措置が、現行制度のまま3年間延長されます。平成33年3月31日まで。
住宅用土地を取得した場合に係る不動産取得税の減額措置について、土地取得後の住宅新築までの年数を3年にする特例措置が、現行制度のまま2年間延長されます。平成32年3月31日まで。

■耐震改修を行った中古住宅の敷地に係る不動産取得税の軽減措置

新耐震基準に適合しない中古住宅を購入し、入居前に新耐震基準に適合させるための改修を行った住宅の土地について、住宅と同様の軽減措置が講じられます。平成32年3月31日まで。

■印紙税の軽減措置、2年間延長

不動産の譲渡に係る契約書印紙税の軽減措置が、現行のまま2年間延長されます。平成32年3月31日まで。

相続対策としての土地活用は、さらなる計画性が必要に

今回の改正で、一般的に注目を浴びたのは、個人所得課税の見直しでした。
政府は、人生100年時代を見据えた「一億総活躍社会」を作り上げるためには、働き方改革が必要だとしています。その後押しとして、今回の個人所得課税が見直されました。「給与所得控除・公的年金等控除から基礎控除への振替」です。今後も、"所得再分配機能の回復や税負担のあり方の観点から、引き続き見直しを継続していく"、としています。今回の改正では、会社員に限らず大規模なアパート・マンションオーナーのような高所得者層にとっては増税です。今後も大きな負担を強いられるかもしれません。

アパート・マンションオーナーにとって、今回の税制改正で最も大きな影響があるのは、相続における「小規模宅地等の特例の要件厳格化」だと思われます。
昨今の家族形態を踏まえると、子どもは持ち家で独立するケースが多く、自宅の土地で特例を適用させるのは難しいのが現状です。そこで、自宅を賃貸併用住宅に建替えるなどの対策がとられてきました。また、遊休地の土地活用として賃貸住宅を建てるのは相続対策の定番です。
今回の改正では、事業的規模で賃貸業を行っていない者が賃貸住宅の土地に小規模宅地の特例を適用させるには、建築後3年経ってからになります。
自宅を含めた不動産について、より計画的な相続対策が必要となってきます。

そしてもう一つアパート・マンションオーナーにとって忘れてはならないのは、消費税の税率10%への増税です。今回の税制改正大綱でも"消費税の税率10%への引き上げを平成31年10月1日に確実に実施する"とあります。
賃貸経営では、新たな賃貸住宅を建築したり、リフォームしたりする際には消費税がかかり、その後の収支に大きな影響を及ぼします。
消費税10%が適用されるのを回避するには、増税の半年前の平成31年3月31日までに、建築会社と請負契約をすませるなどの対応が必要になってきます。税制改正の動向をしっかりと把握することはもちろん、これまで以上に計画的な土地活用が求められるでしょう。


※今回のマンスリーレポートは平成30年度税制改正大綱に基づいて作成しています。正式には今後の審議を経て決定されます。場合によっては、内容が変更になる可能性もありますのでご注意ください。

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