中空糸型透析器
旭中空糸型ダイアライザーAPS-EA
APS-EA
旭ホローファイバー人工腎臓APS
APS-SA
旭中空糸型ダイアライザーAPS-MA
APS-MA
旭ホローファイバー人工腎臓APS
APS-UA
旭ビタブレンVPS-VA
VPS-VA
旭ビタブレン(VPS-HA)
VPS-HA
血液透析濾過器
ヴィエラ V-RA
V-RA
旭中空糸型血液透析濾過器ABH-PA
ABH-PA
旭中空糸型血液透析濾過器ABH-LA
ABH-LA
透析関連製品
過酢酸系透析装置専用除菌洗浄剤
ステラケア
過酢酸系透析装置専用除菌洗浄剤
ステラケアCA
塩素系透析装置専用除菌洗浄剤
プロソルブ
透析装置カプラ専用洗浄剤
カプラケア
透析用水検査
ノンアルコール除菌ワイパー
ソフライト除菌Ⅱ
炭酸足浴料
ASケア
微粒子除去フィルター
微ET
持続緩徐式血液濾過器
持続緩徐式血液濾過器
エクセルフロー
持続緩徐式血液濾過器
キュアフローA
多用途血液処理用装置
多用途血液処理用装置
血液浄化装置 ACH-Σ
浄化器
膜型血漿分離器
プラズマフローOP
膜型血漿分離器
エバキュアープラス
膜型血漿成分分離器
カスケードフローEC
選択式血漿成分吸着器
イムソーバ / イムソーバTR
選択式血漿成分吸着器
プラソーバBRS
吸着型血液浄化器
ヘモソーバCHS
多用途血液処理用装置
多用途血液処理用装置
血液浄化装置 ACH-Σ
腹水濾過器
腹水濾過器 / 腹水濃縮器
腹水ろ過器AHF-MO / 腹水濃縮器AHF-UF
多用途血液処理用装置
多用途血液処理用装置
血液浄化装置 ACH-Σ
多用途血液処理用装置
血液浄化装置 プラソートμ
多用途血液処理用装置
血液濾過用装置 ADP-01
血液成分分離キット / 血液成分分離用装置
クリオシールディスポーザブルキット / クリオシール CS-1
保存前の白血球除去用血液バッグシステム, 自己血貯血用
セパセルインテグラCA
多用途血液処理用装置
血液浄化装置 ACH-Σ
多用途血液処理用装置
血液浄化装置 プラソートμ
多用途血液処理用装置
血液濾過用装置 ADP-01

腹水濾過濃縮再静注法(CART)

Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy

QOL向上につながる婦人科悪性腹水治療

第63回日本婦人科腫瘍学会学術講演会 ランチョンセミナー10
~ 腹水濾過濃縮再静注法(CART)のエビデンス構築に向けて ~

座 長

鈴木 直 先生

聖マリアンナ医科大学 産婦人科学

講 演 1

久慈 志保 先生

聖マリアンナ医科大学 産婦人科学

講 演 2

堀 謙輔 先生

関西ろうさい病院 産婦人科

はじめに

近年、卵巣がん、卵管癌、腹膜癌の治療・診断には新しい薬剤や検査法が次々に導入され、目覚ましい進歩をとげています。一方、がん患者さんの悪性腹水はQOL低下を招き治療に難渋するケースはいまだ多くみられます。腹水濾過濃縮再静注法(CART)は患者さんの全身状態を良好に保ちながら、化学療法を開始・継続できる有効な治療法として実施される機会が増えてきました。悪性腹水治療に対するCARTのエビデンスを構築すること、また患者さんのQOLに視点を置いた評価をどのように実施していくかが今後の大きな課題となっています。
本日は、患者さんのQOL向上につながる婦人科悪性腹水治療というテーマのもと、施設の治療方針、自験例のご紹介から本邦におけるCARTのエビデンス構築と発出に向けた内容で、お二人の演者の先生からご講演を賜りたいと思います。

鈴木 直 先生

講演1
悪性腹水症に対する腹水濾過濃縮再静注法(CART)の基本と今後の展開
ー婦人科悪性腫瘍を対象にー

久慈 志保 先生 聖マリアンナ医科大学 産婦人科学

CART(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)とは?

CARTは、がん患者さんに腹部膨満感、便秘、呼吸困難などの身体的苦痛を与え、QOLを低下させる重大な合併症である悪性腹水を改善し、全身状態を良好に保ちながら、化学療法を開始・継続できる有効な治療法です。

CARTでは、まず、腹水(又は胸水)を採取して腹水濾過器により、腹水(又は胸水)中の細菌、がん細胞、血球成分などを除去します。次に、腹水濃縮器で除水し、アルブミンや免疫グロブリンなどの蛋白質を濃縮します。この濾過・濃縮した自己腹水を再静注投与します。

CARTの適用禁忌は腹水(又は胸水)中にエンドトキシンが検出された患者さんおよび骨髄移植後等における免疫不全患者さんです。婦人科の症例として細菌性腹膜炎、出血傾向・消化管出血、溶血が認められた患者さんには適応を慎重にしたほうがよいと考えます。

腹水濾過濃縮再静注法

Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy; CART

CARTは保険収載されている治療です。手術の部で算定されるため患者さんが入院されていても出来高算定になり患者さんに請求されます。一方、腹腔穿刺にアルブミン製剤を点滴した場合、人血清アルブミン(アルブミン製剤)25% 50mLが1本約5,000円です。使用実態下における腹水ろ過器 AHFーMOと腹水濃縮器 AHFーUPの製造販売業者自主的な市販後調査1)によりますと、婦人科悪性腫瘍の場合、1回のCARTではおおよそ25%アルブミン製剤約4本分のアルブミンが回収できると報告されています。同量のアルブミン製剤を使用する場合、約20,000円かかります。別途腹腔穿刺が230点(2,300円)で、材料費が約500円かかります。入院中は包括支払い方式なので、約22,800円がすべて病院の負担となります(当施設における一例)。

CARTは保険収載されている(入院していても出来高算定)

特定保険医療材料名称材料価格手術料
腹水濾過器、
濃縮再静注用濃縮器
63,700円
(回路含む)
胸水・腹水濾過
濃縮再静注法
4,990点
(厚生労働省告示第六十一号・令和2年3月5日)
(厚生労働省告示第五十七号・令和2年3月5日)

【診療報酬算定方法に伴う実施上の留意事項について】

●K635 胸水・腹水濾過濃縮再静注法

一連の治療過程中、第1回目の実施日に、1回に限り算定する。なお、一連の治療期間は2週間を目安とし、治療上の必要があって初回実施後2週間を経過して実施した場合は改めて所定点数を算定する。 (保医発0305第1号・令和2年3月5日)

【包括評価制度(DPC)における診療報酬算定について】

「K635 胸水・腹水濾過濃縮再静注法」は、手術の部で算定されます。手術の部で算定する特定保険医療材料及び手術料は出来高による算定が可能ですので、CARTにかかる材料価格、手術料は、出来高で算定が可能です。


<腹腔穿刺にアルブミン製剤を点滴したらいくら?>
(入院中は包括支払い方式)

  • 人血清アルブミン 25%50mL:約5,000円
  • J010 腹腔穿刺(人工気腹、洗浄、注入および排液を含む。):230点
  • 材料費:約500円

1回のCARTで
約45gのアルブミンを回収

25%アルブミン製剤約4本分

聖マリアンナ医科大学での CART実施状況

当院では2019年8月1日~2021年6月30日の期間中に91回のCARTが実施されました。最も多いのは産婦人科の43回、次いで乳腺外科の32回でした。
月に4回程度のCARTが実施されており、CARTをオーダーしてから再静注するまで、さまざまな診療科や医療スタッフが関わりますが、スムーズに実施されています。

当科で2015年5月~2021年6月にCARTを行った症例の治療時期を調査しました。その結果、緩和治療中が約半数と多かったのですが、初回治療前、術中、治療中にも実施されていることがわかりました。

初回治療前の患者さん11例および緩和治療中の患者さん29例について、CART前後の血中データの変化を検討しました。
CART後のヘモグロビン値は初回治療前、緩和治療中いずれもCART前と比較し有意に減少しました(p=0.016, p=0.012)が、臨床的に意味のある変化ではありませんでした。
CART後のアルブミン(Alb)値は初回治療前、緩和治療中のいずれもCART前値に戻っていました。
CART後のクレアチニン(Cr)値およびeGFR値は、初回治療前、緩和治療中のいずれもCART前値と比較し有意に改善しました(Cr値:p=0.004, p=0.008、eGFR値:p=0.002, p=0.011)。

CART前後の血液データの変化

68歳、卵巣がんⅣA期のhigh-grade serousで初回治療前にCARTを行った症例を提示します。
穿刺排液した原腹水量は3,800mL、濾過濃縮後腹水は380mLでした。
Hb値は穿刺排液後減少しましたが、CART後には大きな変化は見られませんでした。
Alb値は穿刺排液後減少しましたが、CART後元の値に戻りました。
Cr値やeGFR値は穿刺排液後に改善がみられ、CART後より改善を認めました。

仮にこの患者さんにCART前と、CART後に化学療法を行った場合、どれぐらい薬物投与量に差が出るか、カルバート式に当てはめてみたところ、カルボプラチンの投与量で約20%の差が出ました。
次の課題はCART後改善が認められた血液データがどのくらいの期間持続するかです。

68歳 卵巣がんIVA期 高異型度漿液性癌 初回治療前CART実施例

原腹水 3,800mL

濾過濃縮後腹水 380mL

① 穿刺前:CART前
② 穿刺翌朝:穿刺排液後
③ 再静注翌日:CART後
3ポイントで測定

カルバート式(AUC=6)
44.7 → 418mg/body
57.7 → 496mg/body

CART後血液データの改善が認められた!
維持期間は…?

これまで報告されているCARTに関するエビデンス

1) 臨床検査値と腎機能

使用実態下における腹水ろ過器 AHFーMOと腹水濃縮器 AHFーUPの製造販売業者自主的な市販後調査結果より、婦人科系、消化器系、肝臓系のがん性腹水へのCART施行の結果、血清アルブミン値、24時間尿量の有意な改善が認められました1)。婦人科系の悪性腫瘍では、約3,000mLの腹水が採取され、約600mLの濾過濃縮後腹水が得られました。濾過濃縮後腹水に約80gの蛋白質、約45gのアルブミンが含まれていることから、CARTによって約600mLの7.5%アルブミン液ができるといえます。

進行卵巣がん29例を対象にCARTを47回施行した結果、アルブミン値、尿量、腎血流量に関して有意な改善が報告されています2)

胃がんと大腸がん30例でCARTに続き化学療法が行われた患者さんを対象に、アルブミン値、クレアチニン値の維持期間を検討した結果、アルブミン値はCART後に有意に改善し、その後4週間維持されました。クレアチニン値は、CART後、有意に低下しその後4週間改善が維持されました3)。対象は胃がん、大腸がんによる腹水患者さんなので予後が悪く、Time to treatment failureが、胃がんで2ヵ月、大腸がんで6ヵ月、Overall survivalは3.5~5.8ヵ月ですが、同じような検討を比較的状態のよい卵巣がんの患者さんで行った場合の結果が待たれます。

<アルブミンてなに? ~抗がん剤との関係>

アルブミンは分子量66,000の物質で、血漿蛋白の中で最も量が多い蛋白質です。体重60kgの成人では240〜300gのアルブミンが存在していますので、例えばCARTでアルブミンを45g回収した場合、全身に分布する約6分の1のアルブミンが回収できたことになります。

アルブミンは膠質浸透圧の維持に深く関わっており、膠質浸透圧の約80%を担っています。また、微量元素や脂肪酸、酵素、ホルモン、薬など、水に溶けにくい薬剤とも結合することができ、目的地に運搬する役割があります。

アルブミンとは?

  • 分子量:66,000
  • 血漿蛋白の中で最も量が多い蛋白質
  • 体重60kgの成人では、240~300gのアルブミンが存在
  • 肝臓で作られ ➡ 血管内外で働き ➡ 筋肉や皮膚で分解
  • 半減期:14~18日間

はたらき:

①水分を保持し、血液を正常に循環させるための膠質浸透圧の維持
②微量元素や、脂肪酸、酵素、ホルモン、薬などと結合し、目的地に運搬

抗がん剤とアルブミンの関係ですが、多くの薬物は、血中では一定の割合でアルブミンを中心とした蛋白質と結合し、実際には蛋白質と結合していない遊離型の薬物のみが血管外に移行し、薬理作用を発揮します。シスプラチンやパクリタキセルは蛋白結合率が高いので、アルブミンの血中濃度が低い場合、遊離型の分率が高くなり、薬の作用が増強し、副作用発現率が増加することが示唆されます。実際に低アルブミンの患者さんでは、シスプラチンで腎毒性増強、エトポシドで好中球減少が生じることが報告されています。

2) 症状緩和とQOL

卵巣がん、腹膜癌患者さん31例を対象に、CARTによる症状緩和およびQOLの改善効果が検討されています。症状スコアの全体平均は、CART前の2.6からCART24時間後の1.9へと改善されており、いくつかの項目では有意な改善が見られたことが報告されています。一方、生活の支障に関するスコア全体の平均は、CART前の4.8からCART24時間後の3.0へと改善されており、「生活を楽しむ」「日常生活の全般的活動」「歩行」「情緒」「対人関係」および「仕事・家事」のすべての項目が有意に改善しています4)

単発の腹水穿刺では、「腹部膨満感」や「息切れ」などの症状は改善しましたが、QOLの改善までには至っていないことが報告されています5)

卵巣がんの悪性腹水症に対するCART実施状況 JGOGアンケート結果より

2020年8月12日~9月15日に、婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG)参加施設を対象に、卵巣がん、卵管癌、腹膜癌患者さんの術前化学療法前の悪性腹水に対する対応状況についてアンケート調査を行い、181施設中112施設(61.9%)より回答をいただきました。

「直近1年間に初回腫瘍減量手術(PDS: Primary Debulking Surgery)、試験開腹、または術前化学療法(NAC: neoadjuvant chemotherapy)を行う前の卵巣がん患者さんに、CART、または単発の腹水穿刺を行ったか」という質問に対して、112施設中104施設(92.9%)が「ある」と回答しました。対応法の内訳は、55施設(49.1%)が単発の腹水穿刺のみで対応、49施設(43.8%)はCARTのみまたはCARTか腹水穿刺のどちらかを実施したという結果でした。
婦人科腫瘍専門のほとんどの施設で、緩和ケア治療を受けている患者さんだけでなく、初回治療開始前の患者さんにもCARTや腹水穿刺が行われていること、さらに、約半数の施設でCARTが比較的積極的に実施されていることが示されました。

直近1年間にPDS、試験開腹、またはNACを行う前の患者にCART、または単発の腹水穿刺を行ったか

直近1年間で腹水穿刺は行ったが、CARTを行わなかった55施設に対して、その理由を質問したところ、「CARTを施行できる体制があるが、その日は使えなかった」、「CARTの有効性がわからない」、「CARTまではやろうと思わなかった」等の理由が挙がりました。
CARTの有効性については、多くのケースコントロールスタディから、CARTによるアルブミン値の維持、クレアチニン値の改善、腹部症状の軽減等の効果が報告されていますが、CART市場が日本に限られていること、コントロールアームを置いた比較試験が行われていないこと等により、高いレベルのエビデンスが得られていないのが現状です。

腹水穿刺は行ったがCARTを行わなかった理由は?

腹水穿刺排液量は、緩和医療学会編集「がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2017年版」に「日本人への安全な量は明らかになっていない。1~3Lについては安全に施行できると判断した。」の記載にとどまり、各施設の基準に委ねられているのが現実です。
「初めて腹水穿刺を行う場合の1回あたりの腹水排液量は?」の質問に対し、単発腹水穿刺の場合には、症例によると回答した施設が最も多く、次に多いのが2Lという基準を設けている施設で、全量排液している施設は非常に少数であることが分かりました。一方、CARTを行う場合、全量排液している施設が最も多い結果でした。

初めて腹水穿刺をする場合、原則としている1回あたりの腹水排液量

今後のエビデンス構築に向けて ~CARTにおけるQOL評価~

悪性腹水治療におけるQOL評価法については、さまざまな議論があり難しい問題です。私たちは日々、EBM(Evidence-based Medicine)に基づいた医療を患者さんに提供していると思います。しかしEBMとは生存期間延長に主眼が置かれた臨床試験の結果をEBMとしていることが多いのが現状です。最近ではEBMに身体症状、精神的な問題、社会生活、経済的な問題、スピリチュアルな問題などを含む患者さん視点のQOLを加味した価値に基づく医療、すなわちVBM(Value-based Medicine)に基づいた患者立脚型アウトカムであるPRO(Patient-reported Outcome)の概念と、その評価が重要になっています。PROは「臨床家その他だれの解釈も介さず、患者から直接得られた、患者の健康状態に関するあらゆる報告」と定義されており、最近では、PROをスコア化したものが臨床試験の評価項目に置かれることが増えてきました。

このような背景の中、私たちはJGOGの支持・緩和医療委員会でCARTの有効性を検討する計画をしています。CQとしては、「CARTはQOLを改善するか」「CARTはその後の化学療法に影響を与えるか」など、少し壮大なCQを立てて検討を開始しています。

「EBM」から「VBM」へ

どんなエビデンスがあれば患者さんにとって本当によいのか?

CARTによって血中のアルブミン値が維持されること、腎機能が改善されること、身体症状が改善されること等が明らかになってきました。

今後、症状改善の持続期間、単発腹水穿刺と比較した場合の差、卵巣がんの場合はCARTによって再静注されるサイトカインの影響等検討が必要だと考えます。

まとめ~CARTわかっていること、わかっていないこと~

わかっていること
  • アルブミン値の維持
  • クレアチニン値の改善
  • 腎血流量の改善
  • 身体症状の改善
わかっていないこと
  • 持続期間は?
  • 単発腹水穿刺との差は?
  • 卵巣がんの場合サイトカインなどの影響は?

参考文献
1)https://www.asahi-kasei.co.jp/medical/apheresis/cart/pms/ 製造販売業者自主的な市販後調査結果(社内データより)
2)Kawata et al. Int J Clin Oncol 2019, 420-427
3)Nagata et al. Support Care Cancer, 2020, 5861-5869
4)Yamamoto et al. J Obstet Gynecol Res, 2021, 1536-1543
5)Husain et al. Ann Surg Oncol 2010, 461-469

AHFは旭化成メディカル株式会社の登録商標です。

講演2
CARTを用いた悪性腹水を伴う卵巣がん・腹膜癌に対する治療方針

堀 謙輔 先生 関西ろうさい病院 産婦人科

進行卵巣がんに対する手術療法

「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版」では、「ⅡB期以上と考えられる患者に対する初回手術で,骨盤・傍大動脈リンパ節郭清は奨められるか?」というCQに対して、「画像検査および術中の触診と視診により臨床的にリンパ節転移を認めない場合は,骨盤・傍大動脈リンパ節郭清を実施しないことを提案する。(推奨の強さ2 エビデンスレベルB (合意率95%))そして、「画像検査や術中の触診と視診により臨床的にリンパ節転移を認める場合は,肉眼的完全手術が達成できた場合に,骨盤・傍大動脈リンパ節郭清または腫大リンパ節の摘出を実施することを推奨する。(推奨の強さ1 エビデンスレベルB (合意率100%))と記載されています。これは、LION Study1)において、画像上リンパ節の腫れがみられないⅡB期以上の卵巣がん患者さんを、リンパ節を切除または切除しないの2群間に分けて無増悪生存期間(PFS:progression-free survival)と全生存期間(OS:overall survival)を比べたところ差がなかったという結果によるものです。

「進行例に対して,primary debulking surgery(PDS)の代わりに術前化学療法(NAC)+interval debulking surgery(IDS)を行うことは奨められるか?」というCQに対しては、「Optimal surgeryが困難あるいは不可能と予測される進行卵巣癌に対して,NAC+IDSを推奨する。(推奨の強さ1 エビデンスレベルB (合意率100%))と記載されています。ポイントは「Optimal surgeryが困難あるいは不可能と予測される」という点です。

Optimal surgeryの可能性を予測するため(7つのパラメータ:がん性腹膜炎、横隔膜播種、腸管膜播種、大網転移、小腸播種、胃の浸潤、肝転移に0(無)か2(有)のスコアを割り当てる)Fagotti laparoscopic predictive index value(PI)scoreが用いられたSCORPION Trial2)では、PDSとNAC+IDSの比較が行われましたが、PFS、OSのいずれも差が認められませんでした。

現在進行中のTRUST studyではPDSが可能かどうかを判断する基準に「1年間で最低でも36件の進行卵巣がんの初回腫瘍減量手術を行い、かつⅢ期~Ⅳ期患者において50%以上の完全切除を行っている機関しか登録できない」としています。この試験では腹腔内を9分割(+小腸4ヵ所)して、それぞれ腹膜播種をスコア化するPeritoneal Cancer Index(PCI)を用いています。

昨年の報告ではMayo triageのアルゴリズムを用いています。1)アルブミン値が3.5g/dL未満、2)80歳以上、3)75歳から79歳に関しては、PS(Performance Status)が1より大、あるいはⅣ期で遠隔転移がある場合、合併症がある場合のいずれかにあたる場合、PDSはハイリスクとしています3)

進行卵巣がんの手術療法

  • 完全切除が予後に寄与することは間違いないが、PDSとIDSのどちらが勝っているということは、簡単には結論づけられない。
  • 組織型、転移の有無や腹腔内所見だけでなく、施設の外科的切除能力、合併症への対応力、手術待機期間の影響は避けがたく、むしろそれらを十分に考慮したうえで、患者とともに意思決定する必要がある。
    意思決定の材料としても、審査腹腔鏡は有用であると考えられる。
  • 化学療法による抗がん剤曝露前の組織検体によるコンパニオン診断やがんゲノム医療が一般的に利用可能となっており、検体を採取し、適切に保存することはもはや「義務」である。
    IDSを計画する場合は、術前化学療法(NAC)前の開腹術・腹腔鏡手術により、十分な検体量を生検しておくこと、PDSにおいては長時間手術中に、適正に検体を保存し、固定する必要がある。

関西ろうさい病院のⅢ/Ⅳ期卵巣がん治療指針

当院のⅢ/Ⅳ期の卵巣がんに対する治療指針を示します。まずは審査腹腔鏡を行い、PI値が8以上の場合はコンパニオン診断としてIDSを行います。この間にHRD(相同組換え修復異常)検査(my Choice診断)をします。PI値が6未満の場合はPDSを行います。明細胞がんや粘液がんの場合は化学療法に抵抗性がある場合が多いので、PI値が8以上であってもPDSを行う場合があります。その後は下記のような化学療法を行っています。

関西ろうさい病院でのCARTの実践

当院における術中CART、手術中の審査腹腔鏡を行う際のCART実践をご紹介します。
手術中の清潔野で行い、医師、臨床工学技士、看護師などから構成されるチーム医療で行っています。

CART一連の流れ(チーム医療が求められます)

当院では単孔式で、ウンドリトラクター(代表的製品名の一例:ラッププロテクター、EZ-アクセス)を用い、腹部の傷口をできるだけカバーして、気腹による腫瘍細胞が皮下に入り込むのを防ぐ工夫をしています。シリンジは、手が疲れないようにロックタイプのものを使用します。その他、エクステンションチューブ、延長チューブ、5mmのトロッカーを準備します。

準備物品

  • 50mLシリンジ(ロックタイプ)
  • ウンドリトラクター
  • エクステンションチューブ×2本
  • 三方活栓
  • 5mmトロッカー

手術室で腹水を採取し、血液浄化室で濾過濃縮し、病棟で患者に再静注するという、3ヵ所での作業を円滑に行うために手順書を作成しています。CART依頼の流れに沿って、担当する臨床工学技士とその連絡先を、一目でわかるように記載しています。さらに、電子カルテ上にもCARTのオーダーを立てられるように工夫しています。

「腹水貯留バッグ取扱い説明書」は、手術室と病棟に配布しています。
名前シールの記入、シールの腹水貯留バッグへの貼り付け、腹水採取ラインの接続法、腹水採取速度の目安などが詳しく記載されています。

症例1

  • 62歳
  • 主訴;腹部膨満感
  • 既往;帝王切開、左乳房線維腫
  • CT、MRI;子宮頚部に4.2cm大の腫瘤、両側卵巣腫大を指摘
  • 子宮頚部狙い生検;印環細胞型腺がん
  • 審査腹腔鏡目的で入院

MRI T2強調

MRI、T2強調像では、両側の卵巣腫大と子宮頚部に4.2cmの腫瘤がみられました。

腹部CT

CTでは、骨盤の中で腸管と付属器と子宮が一塊になっており、フリーな上腹部に腹水貯留がみられます。婦人科がんで手術が難しい症例には、このようなパターンが多くみられます。

腹腔内所見

豆板状に播種があり、小腸も腫瘍に巻き込んでいました。子宮の奥、骨盤の辺りにも腫瘍が広がっており、スペースはありませんでした。横隔膜にも播種があり時期的にPDSは、難しいと判断しました。

術中腹水穿刺排液

まず腹水貯留バッグと回路をつなぎます。回路間に三方活栓を入れロック付きのシリンジを三方活栓につなぎます。回路の先を腹腔内に入れ腹水貯留バッグ側のクランプを開け、シリンジで腹水を吸引します。

播種の部分を採取したところ、消化器がん、膵がん、卵巣粘液がん、肺がんなどが原発巣の候補となりましたが、明確な原発が不明なためTC療法を開始しました。

病理診断

Adenocarinoma
CK7(大部分+), CK70(少数+), GATA3(核はー), Mammaglobin(ー)
PAX8(ー), p16(ー),CDX2(+), TTF-1(ー), ER(ー)
消化器がん、膵がん、卵巣粘液がん、肺がんなどが原発巣の候補

1回目のCARTは準緊急で夕方近くの手術となったため、術中に採取した腹水の濾過・濃縮および再静注は翌日に実施しました。化学療法後、術後33日目に、腹水再貯留のため2回目のCARTを実施しました。
受診時の総蛋白は6.8g/dL、Alb値は3.7g/dLでした。入院時のAlb値は2.7g/dLに下がりましたが、2回目の化学療法前には3.6g/dLに戻りました。2回のCARTの実施によりアルブミン値の低下を招くことなく化学療法を実施できています。

臨床経過

  • 術中腹水回収;2,250mL 濾過・濃縮および再静注は翌日に施行
    術後に実施した上下部消化管内視鏡検査では、管腔内に腫瘍病変を認めず。
  • 卵巣がんあるいは原発不明がんの化学療法として、TC療法(Paclitaxel 175mg/㎡+CBDCA AUC 6)審査腹腔鏡術後7日に1サイクル目を開始し、退院。
  • 2サイクル以降は外来化学療法。
  • 術後33日目に、腹水再貯留のため、穿刺し、2回目のCART

症例2

  • 69歳
  • 既往;帝王切開
  • 腹水貯留、S状結腸狭窄、血清CA125およびCA19-9高値
  • 造影CT、MRI;卵巣がん・腹膜播種・S状結腸浸潤の疑い
  • 下部消化管内視鏡検査;壁外浸潤による狭窄、腺がん
  • 審査腹腔鏡目的で入院

MRI T2強調

MRI、T2強調像では、両側付属器は軽度腫大で、骨盤内には腹水貯留はなく、高度の癒着が疑われました。

腹部CT

CTでは、大網が腹膜直下まで癒着し、上部に腹水貯留が見られました。

準緊急で夕方近くの手術となり、術中に採取した腹水の濾過・濃縮および再静注は翌日に実施しました。
大網を生検し、high-grade serousのcarcinomaと診断され、本人希望により術後26日目にdose dense TC療法を開始しました。BRCA2遺伝子の変異が確認されたためdose dense TC療法 3サイクル後にIDS(子宮全摘出術(TAH)+両付属器摘出術(BSO)+大網部分切除+虫垂切除+腹膜播種摘出)を行い完全切除になりました。術後にdose dense TC療法 3サイクルを追加した後、olaparib維持療法を開始しました。
術後1日目はAlb値が2.8g/dLまで下がりましたが、CARTの実施により化学療法開始前には3.9g/dLまで戻りました。

臨床経過

術中腹水回収;1,700mL  濾過・濃縮および再静注は翌日に施行
大網を生検し、high grade serous carcinoma
本人希望により、術後26日目に、dose denseTC療法を開始。
BRCA2陽性を確認。
ddTC③サイクル後に、IDS
(TAH+BSO+大網部分切除+虫垂切除+腹膜播種摘出)  完全切除
術後にddTC療法③サイクルを追加したのちに、olaparib維持療法を開始。

まとめ

当科では2018年から現在まで、緩和目的のCARTを実施していましたが、最近では術中にもCARTを実施しています。

当院では、画像診断上、PDSの完遂が困難と考えられ、NAC後にIDSを計画している症例では、積極的に審査腹腔鏡を行い、PDSが可能かどうかを診断するとともに、病理組織診断およびコンパニオン診断やがんゲノム診断用の検体を採取しています。
大量の腹水が貯留している症例では、審査腹腔鏡時に腹水を採取しCARTを実施しています。
審査腹腔鏡では、単孔式でウンドリトラクターを用いることにより、気腹によるimplantationをできるだけ防ぐように留意しています。

2018年~現在
婦人科悪性腫瘍による悪性腹水症例に対するCART

HGSC; High Grade Serous Carcinoma EAG3; Endometrioid carcinoma Grade 3
NAC; Neo Adjuvant Chemotherapy IDS; Interval Debulking Surgery CR; Complete Response

Take Home Message

  • Ⅲ期、Ⅳ期卵巣がんの治療法について、「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版」の出版以降も、さらに新たなエビデンスが創出され、新規の治療および診断法が保険収載されることにより、集学的治療に関する意思決定に審査腹腔鏡の必要性は高まっています。
  • 周術期の低アルブミン血症を防ぐ目的で、審査腹腔鏡手術中に腹水を採取し、CARTを実施する手技自体は難しくなく、安全かつ比較的安価に行うことができます。
  • 従来より、悪性腹水に対する緩和療法としてのCARTの有益性が報告されており、当科でも、日常的に実施しています。
  • 手術室での腹水採取を導入するにあたっては、手術室のスタッフ、臨床工学技士、病棟スタッフなどとの事前協議や手順の明瞭な可視化を行っておくことが必要です。

Q&A

Q1:審査腹腔鏡で腹水を採取し、CARTを行う場合、どのくらいの腹水量があればよいとお考えでしょうか?

A1:理想的には3Lぐらいあればよいと思いますが、当科では先ほどの症例提示のように1,700mL程度でも実施しています。

Q2:術中CARTの意義についていかがお考えでしょうか?

A2:緩和ケアセンター長として、他の診療科領域の緩和ケアの患者さんに関してもCARTによりQOLの改善や血清アルブミン値の低下がみられないという手応えを得ていますので、術中CARTに関しても同様な意義があるのではないかと考えています。

Q3:術中CARTを行う際に、臨床工学技士の方との連携等で留意する点はなんでしょうか?

A3:濾過濃縮を依頼する血液浄化室や透析室の予定を確認することが大事です。当院には透析室があり土曜日も透析を行っているので、金曜日の夕方に腹水採取しても土曜日に濾過・濃縮と再静注ができます。しかし、そうでない施設では、手術の曜日を考慮するなどの工夫が必要になってくるかもしれません。


参考文献
1)Harter P et al. ASCO 2017; Abstract 5500
2)Fagotti A et al. Int J Gynecol Cancer 2020; 0: 1–8. doi: 10.1136/ijgc-2020-001640
3)Narasimhulu DM et.al. Gynecol Oncol 2020; 157(3): 2020: 572-577

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