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学会セミナー記録集

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第70回日本産科婦人科学会学術講演会ランチョンセミナー26 2018年5月12日(土)

婦人科腫瘍における腹水濾過濃縮再静注法(CART)の UP TO DATE

梶山 広明 先生

講演1

がん性腹水管理のベストプラクティスを考える
~CART市販後調査の結果を踏まえて~

梶山 広明 先生
名古屋大学大学院医学系研究科 産婦人科

はじめに

近年、がん患者の増加に伴い、がん性腹膜炎による悪性腹水管理に腹水濾過濃縮再静注法(CART:cell-free and concentrated ascites reinfusion therapy) が用いられる機会が増えてきました。このような状況のなかで、難治性がん性腹水(胸水)に対するCARTの市販後調査結果が報告されました。今回は、腹水産生メカニズム、腹水貯留の臨床的管理、当科におけるCART市販後調査結果、および婦人科腫瘍に対する緩和的化学療法とCART併用の実際についてご報告いたします。

がん性腹膜炎による悪性腹水は、腹膜の環境変化に起因しています。

各臓器と腹膜の位置関係(水平断)

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  • 腹膜には、①腹腔や内臓の表面を覆う保護機能②腹腔内漿液による腹部臓器間の摩擦緩衝③生理活性物質の分泌・代謝④腹水中に含まれるマクロファージや殺菌性補体による免疫反応の場⑤感染時の防御的機能などがあります。
  • 腹膜は、体表面積に匹敵する総面積(1.7~2.0m2)を持つ、体内で最大表面積を誇る臓器です。
腹膜の中皮細胞層と結合組織層の模式図

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  • 腹膜は1層の中皮細胞層と腹膜下結合組織層から構成されており、中皮細胞と腹膜下結合組織層は基底膜により分かれています。腹膜下結合組織層には多数の毛細血管やリンパ管が分布しています。
  • 中皮細胞間の間隙付近に腹膜下リンパ管が開口している部分があり、体液をリンパ管から循環系に戻す構造になっています。
  • 基底膜から腹膜下毛細血管までの箇所は腹膜血液関門と呼ばれ、腹膜下毛細血管の透過性が亢進すると腹水貯留が生じます。
  • がん性腹膜炎では、腹膜下毛細血管の透過性亢進、広範な腹膜癒着による吸収能低下、がん性リンパ管炎やがん細胞浸潤によるリンパ系の閉塞、悪液質による低蛋白血症、臓器およびリンパ節転移による門脈・静脈系の還流障害などさまざまな要因で悪性腹水が腹腔内に貯留します。
  • 悪性の卵巣がん等では、腹水中のVEGF 量が増加しています。がん細胞から産生される様々なサイトカイン等によって中皮細胞がCAMに変化し、CAMが過剰なVEGFを産生することによって毛細血管の透過性亢進を介し、腹水貯留をきたします。

CAM(cancer-associated mesothelial cell)とは、がん細胞から産生される様々なサイトカインの作用により、腹膜中皮細胞が間葉系形質を獲得した細胞

悪性腹水の管理法[CARTは、悪性腹水管理法のひとつとしてガイドラインで推奨されています]

悪性腹水の管理法には、以下のような方法があります。

  • 輸液量の制限(500~1,000mL/日)
  • 抗炎症剤(ステロイド)や制吐剤(オクトレオチド)を併用
  • 利尿薬としては、スピロノラクトンの使用頻度が高く、フロセミドなどのループ利尿薬を併用
  • 腹水ドレナージは、腹腔内の体液貯留を経皮的に穿刺し腹水の排除を行う方法。効果は一過性
  • 腹腔静脈シャントは、腹腔から皮下を経由して鎖骨下静脈に腹水を還流する方法。合併症としてシャント閉塞あり
  • CARTは、腹水(または胸水)を採取し、細菌やがん細胞を取り除きアルブミンなどの有効成分が濃縮された腹水を点滴でもどす方法。全身状態を良好に保ちながら、化学療法を開始・継続できる有効な治療法

腹水による苦痛の緩和を目的に、腹水貯留に対して利尿薬投与、腹水ドレナージ、腹腔静脈シャント、およびCARTが、日本婦人科腫瘍学会「卵巣がん治療ガイドライン2015年版」で推奨されています。

全国及び当科における製造販売業者自主的な市販後調査結果です。

目的と概要

目的: 使用実態下における胸水・腹水濾過濃縮再静注用システムAHF®-MOW®/UPを使用したCARTの実施状況、安全性および有効性に関する情報、その他の適正使用を把握する。

対象: 全国22施設で、難治性腹水に対しCARTを実施した患者「147例・356回」、うちがん症例「128例・300回」。この中に、名古屋大学医学部附属病院 産婦人科で、難治性腹水のためCARTを実施した患者「11例・25回」が含まれる。

調査実施期間:2014年1月~2015年1月

患者背景

患者背景

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有効性

血清総蛋白・アルブミン値

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  • 血清総蛋白・アルブミン値
    当院産婦人科症例において、再静注後の血清総蛋白・アルブミン値は、CART前に比べ、いずれも有意に増加しました(血清総蛋白 前:5.9 ± 0.5g/dL、後:6.6 ±0.9g/dL、p<0.001、血清アルブミン値 前:2.9±0.6g/dL、後:3.2±0.7g/dL、p<0.001)。

緑:名古屋大学医学部附属病院 産婦人科(24回)
黒:全国

PS・食事摂取量

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  • PS・食事摂取量
    当院産婦人科症例において、PSは維持され、食事摂取量は改善傾向がみられたものの、有意な変化ではありませんでした(PS 前:1.8±0.9、後:1.8±0.9、p=1.000、食事摂取量 前:45.8±33.6%、後:56.9±31.0%、p=0.301)。

食事摂取量 : 夕食の摂取量とし0、25、50、75、100(%) の5段階で評価
EOCG PS : Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status

緑:名古屋大学医学部附属病院 産婦人科(24回/18回)
黒:全国

24時間尿量

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  • 24時間尿量
    当産婦人科症例において、再静注終了1日後の24時間尿量は、CART前と比べ有意に増加しました(前:835±563mL、後:1,606±753mL、p<0.001)。

緑:名古屋大学医学部附属病院 産婦人科(9回)
黒:全国

安全性

24時間尿量

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  • 体温
    当院産婦人科症例において、再静注終了後の体温は、再静注前と比べ有意な上昇が認められました(p<0.001)が、終了1日後には再静注前の体温に下がりました(p=0.533)。
  • 副作用
    全国の副作用発現率は22.8%、婦人科がんでは30.2%、主な副作用は悪寒・発熱などで、すべて非重篤、軽快の転帰でした。当院産婦人科症例において、副作用発現率は45.5%(5例/11例)、主な副作用は発熱、悪寒で、すべて非重篤・回復または軽快の転帰でした。
    * 当院産婦人科では発熱予防のためのステロイドの前投与は行わず、発熱時にNSAIDsを投与しています。

緑:名古屋大学医学部附属病院 産婦人科(22回)
黒:全国(186回)

 

「血清総蛋白」、「血清アルブミン値」、「PS」、「食事摂取量」、「24時間尿量」、「体温の推移」 グラフ中のp値はいずれも全国データのものです。

抗がん剤の併用

抗がん剤の併用

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● 抗がん剤の併用
婦人科がんは、他の臓器がんと比べ高い併用率でした。
併用された抗がん剤の種類から、終末期に近い段階までの長期に渡り併用されていたことが推察されます。

婦人科がんにおいて緩和的化学療法の有用性が示されています。

緩和的化学療法が適応となる婦人科領域の例

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  • 進行または再発卵巣がんに起因する腹水貯留は、頻回の腹水穿刺などの処置を要し、患者のQOLを著しく低下させる症状です。腹水コントロールを目的とした緩和的化学療法は、終末期における患者のQOL改善に貢献する可能性があります。
  • 化学療法を行った終末期患者の50%以上が気分が良くなり、60% 以上で寿命が延長すると考えていることが報告されています。

Doyle C, J Clin Oncol 2001

  • プラチナ製剤抵抗性の進行または再発卵巣がんにより死亡した患者55例のうち、緩和的化学療法を実施した22例(Chemo group)では緩和ケアのみを実施した18例(BSC group)と比較して、再発以降の予後の延長が認められています。

Tsubamoto H et al. J Obstet Gynaecol Res 2014; 40: 1399-1406.

緩和的化学療法とCARTの併用が患者QOLに寄与した再発卵巣がんの1例

<講演終了後、参考資料として提示いただいた症例>

CARTの身体症状に及ぼす効果

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症例:
再発卵巣がん、60歳代女性

病歴:
婦人科検診にて骨盤内腫瘍を指摘され当院へ紹介受診となり、両側付属器摘 出術、腹膜播種巣切除術を施行した。漿液性がんⅢC2期と診断され、術後化 学療法を追加して一時寛解となった。 しかしその後再発し、下記レジメンをサルベージ化学療法として行った。

既往化学療法:
パクリタキセル(180mg/m2)+カルボプラチン(AUC 5.0) 7サイクル(初回化学療法)
↓リポソーム化ドキソルビシン(50mg/m2) 4サイクル
↓ドセタキセル(70mg/m2) 6サイクル
↓ゲムシタビン(1,000mg/m2) 5サイクル
↓ネダプラチン(100mg/m2) 5サイクル
↓イリノテカン(150mg/m2) 6サイクル
↓パクリタキセル(180mg/m2)+カルボプラチン(AUC 5.0) 5サイクル

臨床経過:
治療開始後2年7ヵ月で腹水貯留に伴う腹部膨満感および食思不振が出現したため、腹水コントロールを目的として緩和的化学療法とCARTの併用を開始した。

● パクリタキセル・ベバシズマブ併用による緩和的化学療法とCARTの併用により、卵巣がん末期患者の腹水貯留は改善傾向を示しました。緩和的化学療法3サイクル終了1ヵ月経過後に発症した誤嚥性肺炎に伴い日常生活動作の急激な低下を認め、ホスピスへの入所を希望されましたが、転院調整中もCARTを実施したことにより、腹部膨満に伴う食欲不振はなく精神的QOLは保たれていました。

まとめ

  • 難治性腹水はがん患者のQOLを低下させる重大な合併症であり、個々の患者における最善の治療を的確な評価の下に選択していくことが重要です。
  • CARTは腹水中の細菌・がん細胞・血球成分などを除去し、アルブミンや免疫グロブリンなどの有用な物質を濃縮した自己腹水を再静注投与する治療法です。
  • CARTは、血清総蛋白、アルブミン値を有意に上昇させ、血漿浸透圧の上昇により尿量増加に寄与しました。副作用として発熱があげられます。
  • 緩和的化学療法とCARTのコンビネーション治療がQOL改善に一役を担う可能性があります。

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