学会セミナー記録集
第23回日本緩和医療学会学術大会ランチョンセミナー3 2018年6月15日(金)
緩和ケアにおける腹水濾過濃縮再静注法(CART)の役割

講演2
CARTのエビデンスを構築する
演者:横道 直佑 先生
(聖隷三方原病院 ホスピス科)
はじめに
現在のCARTの位置付けは、保険適用があるがエビデンスがない宙ぶらりんな状態で、腹水貯留患者を目の前にしてCARTを勧めるべきか苦慮します。また、CARTの場合、コストと手間という問題があります。しかしながら、実際CART施行の成績からCARTが持っているポテンシャルは高く、悪性腹水に対する世界の標準治療になる可能性も考えられます。本日はCARTのエビデンス構築について実際のデータを交えてご報告します。
CARTの比較試験を行う上での課題

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症状を評価する際に用いる患者報告アウトカム(Patient-Report Outcome:PRO)とは、面接や自己記入式質問票等、または日誌を介して患者から直接得られる情報のことです。近年、抗がん剤治療の開発にはPROが不可欠になっています。大事なのは対象に特異的なPROを用いることですが、これまで腹水研究の課題として、腹水特異的なPROはありませんでした。
この問題を解決するため我々は、Edmonton Symptom Assessment Systemの日本語版を作成し、信頼性、妥当性を検証して、2015年に論文掲載されました。同時に、ESAS-Ascites Modification(ESAS-AM)の日本語版の検証も行い、こちらも論文掲載され使用可能になりました。今後、腹水の研究に用いるPROは、この簡便な腹水特異的な指標であるESAS-AMが中心になると思われます。
効果検証のプロセス
CARTの効果を検証するためのプロセスを示します。まず、予備試験として、CARTの効果と安全性を包括的に評価し、RCTの価値があるかを評価します。可能性がある場合、「緩和的排液+戻す」vs「緩和的排液」と、「全腹水排液+戻す」vs「全腹水排液」の2つの流れで、それぞれパイロットRCTを行って多施設RCTと進めていく必要があります。現在、予備試験が終了し、「緩和的排液+戻す」 vs 「緩和的排液」のパイロット試験を行っているところです。
CARTの効果を検証するためのプロセスを示します。まず、予備試験として、CARTの効果と安全性を包括的に評価し、RCTの価値があるかを評価します。可能性がある場合、「緩和的排液+戻す」vs「緩和的排液」と、「全腹水排液+戻す」vs「全腹水排液」の2つの流れで、それぞれパイロットRCTを行って多施設RCTと進めていく必要があります。現在、予備試験が終了し、「緩和的排液+戻す」 vs 「緩和的排液」のパイロット試験を行っているところです。
予備試験:後ろ向きコホート研究
Hanada R,Yokomichi N,et al. Efficacy and safety of reinfusion of concentrated ascitic fluid for malignant ascites : a concept-proof study. Supportive Care in Cancer 2018 26 : 1489-1497
悪性腹水に対するCARTの有効性と安全性を包括的に評価する位置付けで、RCTの予備試験を行いました。
対象は2013年4月から2015年3月にCARTを施行した51例(104回)です。CARTは「全腹水排液+戻す」で対照群はありません。
主要評価項目として、次の腹腔穿刺までの時間と症状の強さ。副次評価項目として有害事象と次の腹腔穿刺までの時間に影響する因子を評価しました。
悪性腹水に対するCARTの有効性と安全性を包括的に評価する位置付けで、RCTの予備試験を行いました。
対象は2013年4月から2015年3月にCARTを施行した51例(104回)です。CARTは「全腹水排液+戻す」で対照群はありません。
主要評価項目として、次の腹腔穿刺までの時間と症状の強さ。副次評価項目として有害事象と次の腹腔穿刺までの時間に影響する因子を評価しました。
患者背景

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年齢は中央値が64歳で、性別は女性が61%。CART1回施行例が約7割でした。腹水の排液量は約6,000mL、濾過濃縮腹水量は約760mL、濃縮率は8倍でした。血性腹水が約4割含まれていました。
次の腹水穿刺までの時間( n=104)
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次の穿刺までの期間は中央値で27日でした。全腹水排液を行った後の腹腔穿刺間隔は約10~14日と報告されて1 )~3 )おり、単純に比較はできませんがCARTは穿刺間隔を2倍に延ばす可能性があるということが示唆されました。
1) Heiss MM, et al. Int J Cancer. 2010
2) Jatoi A, et al. Oncology. 2012
3) Ross GJ, et al. Am J Roentgenol. 1989
症状の強さ(NRS)の変化(n=104)
腹腔穿刺を早める因子(n=104)
予備試験のまとめ
パイロットRCT
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予備試験の結果、RCTの価値がありそうだと判断出来たため、RCTが本当に実施可能か検討すること、エンドポイントの妥当性を再評価すること、必要症例数を見積もること等を目的としてパイロットRCTを開始しました。
デザインは、Fast-trackランダム化比較試験(悪性腹水がある患者をランダムにCARTと腹腔穿刺に割り当て、2回目の治療は反対側の治療を行う。比較するのは1回目の治療だけ)を行っています。聖隷三方原病院ホスピス病棟に入院中の難治性悪性腹水患者20名を対象とし、介入はCART「緩和的排液+戻す」で、対照が腹腔穿刺(緩和的排液のみ)です。
本パイロットRCT終了後は、多施設RCTを行う予定です。課題として、盲検化が困難なことや、「全腹水排液+戻す」 vs 「全腹水排液」も行わないと結論できないことが挙がります。費用対効果の検証も必要です。今後可能なことを1つずつ行っていくことが大事だと考えています。
まとめ
- 悪性腹水に対するCARTのエビデンスは決定的に不足している→CARTの位置づけが宙ぶらりん
- 比較試験が必要→PICOをしっかり考える
- 比較試験は、以下の2つが必要→「緩和的排液+戻す」 vs 「緩和的排液」 「全腹水排液+戻す」 vs 「全腹水排液」
- 腹水の研究に用いる症状評価尺度は、ESAS-AMが中心になる
- 予備試験より
- CARTは腹腔穿刺単独に比べて、腹腔穿刺間隔を2倍に延長する可能性がある
- CARTは症状の強さを有意に改善するが、長期の症状改善効果は今後要検討
- CARTの副作用は血圧低下と発熱のみで安全に施行可能
- 現在、多施設RCTの実施可能性を評価するためにパイロットRCTを実施中である。世界の標準治療を目指して、できることからコツコツと