そこで、これらを整理して、自分の作品や提案の中にどのように盛り込んでいこうかと考えてみました。住宅の基本性能とは、人と人とを繋ぐこと、人と人の間を適度に離すことだと思っています。しかし、戦後日本の住宅はプライバシーを守ろうとして行き過ぎたという認識から、もう一度人と人とをつなぐ装置として住宅を考えたらどんなことができるだろうか、と考えました。
接続の装置としての建築の可能性には、「都市とつながる」「人とつながる」という2つの機能が考えられます。「都市とつながる」方向では外をひきこむ装置として、日本に昔からある土間、京都の町家の通り庭のような、個人の領域でありながら社会にゆるやかに開かれているような場ができないかと考えています。私はこれを「OPEN COMMON」と言っています。
「人とつながる」という方向では、日本では危機的に世帯が小さくなっている中で、子育てや高齢者サポート、介護などを考えるとき、とりあえず世帯を大きくする仕掛けが必要ではないかと思っています。旭化成が提案している二世帯住宅もその一つですし、大きな家に血縁にかかわらず、人が集まってシェアして住んだらどうかというアイデアもあると思います。
「外をひきこむ装置」というと、京都の伝統的な町家の通り庭のように、家族の占有領域でありながら、外部の人が靴を履いたまま比較的入りやすいような例がありますが、集合住宅を設計した時にこのような通り庭のような外をひきこむ装置として、ユニットの脇にタテにバルコニーをつけました。外に面しているのにプライベートな場所、領有化されているのに外部の人が入りやすい「OPEN COMMON」を設けた例です。近所の人や子供がここに入ることで「土間コミュニケーション」が生まれている例が新聞にも紹介されました。
ここは3LDKの間取りなのですが、可動間仕切りにして、入居者の希望に合わせて間取りを変えられるようにしています。入居者の住まい方を調査すると、標準的な3LDKになるような仕切り方だけではなく、より家族数が少ない場合は可動間仕切りをはずして、フラワーアレンジメント教室に使える大空間を確保した例や、家の半分を事務所とするなど、家族の範囲を越え社会に開く住まい方がいくつか発見されています。
元々会社の寮として作られた2棟の建物をコモンルームをもつワンルームマンションとしてリフォームした例です。元々は17�×22戸のワンルームマンションでしたが、1階の部屋は人気がなかったので、3つのコモンルームを作りました。新しいコンセプトのそれらは、みんなが郵便物を取りにくるポストルーム、棚を付けたことによって洗剤など自分たちのものがはみ出していったランドリールーム、それぞれ余った本を持ってきてライブラリースペースになった、小さなキッチンつきのコモンルームとなりました。さらに、住戸の前の手すりに植木鉢をいれられるようにして(棚ガーデン)、みんなで植物を育ててもらうなど、外を引き込みながら、公私の境界をゆるくする仕掛けをいろいろ作りました。徐々に居住者の住みこなしが、建物に表情を与えるようになってきました。このような共有空間が今後どのように活用されていくのか、楽しみです。