骨粗鬆症Q&A 原宿リハビリテーション病院 名誉院長 林 泰史 先生
治療・薬について
体を動かすと痛く、脚が悪いので運動もあまりできません 痛いからと動かないでばかりいますと、ますます骨が弱くなり新たな骨折を引き起こすことがあります。坐薬や貼り薬、注射で痛みを抑え、無理のない範囲で立つ時間を長くするなど骨と筋肉に負担をかけましょう。
- 背景
- (広島県:56歳女性)以前はじっとしていても腰と背中が痛みました。今は静かにしていれば痛みはありませんが、30分以上立っていると痛くなるので、昼間はたいてい椅子に座っています。診断では、第3腰椎(ようつい)圧迫骨折と他の骨が2カ所潰れているそうです。運動と日光浴を勧められましたが、脚が悪いので運動ができません。どうしたら良いでしょうか。
56歳という年齢を考えますと、閉経後、急速に骨粗鬆症が進んだと考えられます。
体を動かし始める時や長時間立っている時、歩いた時に痛むのは、骨粗鬆症の特徴です。以前、じっとしていても痛みがあったというのは、圧迫骨折が生じた直後か、骨折からあまり時間が経過していない頃だったためと思われます。
骨の痛みにはカルシトニンの注射が勧められます。週1~2回の通院となりますが、軽い運動の代わりと考えて頑張って通いましょう。また、とりあえず痛みを止めるためには鎮痛剤の坐薬や貼り薬が有効です。コルセットも効果があるので、試してみてはいかがでしょうか。
痛みがあるからといってじっと座ってばかりいますと、かえって骨や筋肉が弱くなります。あまり無理をしないで、1日に何回か日の当たる所で立つなど我慢ができる方法で体を動かしてください。
骨粗鬆症が進むと骨折しやすくなりますので、整形外科を受診して骨の量を調べてもらい必要に応じて骨を強くするために薬による治療についても相談するとよいでしょう。
治療を1年以上続けていますが改善されません 骨粗鬆症の治療をしても、歳と共に減る骨量、測定する度に検査値がばらつく、などで骨量の増加はなかなか目にみえにくく、数年間にわたって検査と治療が必要な場合があることを知っておきましょう。
- 背景
- (福岡県:76歳女性)骨粗鬆症と診断されてから、1年以上にわたって薬による治療を続けています。ところが、先日の測定で1年前よりも骨量が減っていることがわかりました。このまま薬による治療を続けて回復の見込みはあるのでしょうか。
70代の女性の場合、骨量は自然の状態で1年にだいたい1%ずつ減少していきます。また、骨量の検査では、測定機のばらつきにより正しい数値に比べて約2~3%の増減を示すことがあります。薬により治療をしておられても、検査で骨量が減っているようですが、年齢にともなう年間の骨量の減少率と測定値のばらつきを踏まえて、もう少し様子をみようと同じ薬が継続して処方されていると考えられます。
骨量の減少率が1%以内の場合は、薬が自然の減少をくい止めていることになりますし、減少率が3~4%でも、測定機によるばらつきの範囲として、次回の再測定値で判断することになるでしょう。減少率が3~4%以上の場合は、血液・尿検査の結果も混じえて判断しその薬は無効だったと考え、別の薬が処方されることが多いです。
しかし、1年間治療を行って骨量が減っていても、腰や背中の傷み具合や動作時の敏しょう性などをみて、薬の効果があるか、逆に骨が弱っているのかを診断しますので、次の骨量測定値だけで今後の治療方針を決定するとは限りません。骨量が変わらなくても骨の質が改善して折れにくい骨になっていることも考えられます。
骨量を増やす効果がある薬と同程度の効果が、日々の運動により得られると考えられています。薬による治療に併せて毎日8,000~10,000歩を歩く、あるいはそれに相当する運動を続ければ、回復の見込みはますます大きくなります。このほかカルシウムをはじめとした栄養バランスのよい食事や日光浴にも気を配りましょう。
予防と治療のヒント
骨粗鬆症になっても、治るのでしょうか 食事や生活習慣を見直し治療を継続すれば、骨折する割合が減り、元の状態に近い骨量に向けて骨の状態を改善することができます。治療は自己判断せず整形外科などで相談しましょう。
- 背景
- (大阪府:70歳女性)つまずいて壁に手をついた時、手首に強い痛みを感じました。整形外科でみてもらったところ、骨折しているとのことでした。以前に市の保健センターで骨量計測をした際に、骨量がかなり少ないと指摘されました。骨折は骨粗鬆症のためでしょうか。骨粗鬆症は治らないと聞きましたが、本当でしょうか。
お話から、手首の骨折は骨粗鬆症によるものと考えられます。本来、骨は大きな衝撃にも耐え、骨折しづらい構造となっています。壁に手をついた程度の力で骨折が生じたということは、骨が弱くなる骨粗鬆症に罹っていると考えられます。骨粗鬆症では骨量が減少するため、手首、腕や太ももの付け根など、長い骨の端の方で骨折しやすくなります。また女性に多いことから、質問されている方が70歳の女性ということを考えても、骨粗鬆症による骨折と思われます。
しかし、他の原因で骨が弱くなったり骨折しやすくなることもありますので、自分で判断せず、一度整形外科などで骨が弱くなる原因や骨を強くする方法について相談してみてください。骨粗鬆症はさまざまな方法で改善でき、骨折しにくくすることができます。カルシウムの多い食べ物を摂ったり、毎日こまめに体を動かしたりすることにより、骨量が増えることがわかっています。
また、骨粗鬆症を治療する内服薬や注射薬は、骨量を増やし、骨折しにくい骨をつくることが証明されています。元の健康な状態と同じようには治りにくいですが、食事や生活習慣を見直したり、薬を使用することで、骨折を減らせ骨の状態を改善することができます。 その他、歩く時には杖を使う、家の段差や構造を見直す、脱ぎ着しやすい衣服を選ぶ、といったことも骨折の予防となります。
太ももの付け根を骨折するとどんな治療をするのですか。手術はするのでしょうか 骨折部位や骨の状態により異なりますが、太ももの付け根の骨折のほとんどで手術が必要となります。まれに骨折部の状態によっては安静を保ち骨がつくのを待つこともあります。
- 背景
- (千葉県:56歳女性)市の保健センターで骨密度検診を受けたところ、骨密度が平均値より低く、日常生活についての指導を受けました。ちょうどその時期、84歳になる母が家の中で倒れて太ももの付け根を骨折しました。手術をしてリハビリ中ですが、この骨折は必ず手術が必要なのでしょうか。私も不安です。
骨粗鬆症の場合、60~70歳代の方では脊椎(せきつい)の骨折や手首の骨折を生じる割合が多いのですが、80歳代の人では太ももの付け根の骨折が増えてきます。50歳代で、日常生活の指導を受ける程度ということですので、太ももの付け根の骨折は今のところは心配しなくてもよいですが、転ばないよう気をつけて下さい。
股関節に近い部位の骨折の場合、先端の「骨頭(こっとう)」という部位への血管が切れて血液が届かなくなります。そのため、この部位の骨折で大きくずれている場合は、金属性の人工骨頭に取り替えます。少しずれている場合は釘のような金属製の棒2、3本で骨折部を固定し、血液の流れが再開して骨がつくのを待つ手術が行われることもあります。
骨折部でのずれが非常に少ない場合は、手術をしないで4週間ぐらい安静を保って血管が元に戻り、血行が再開するのを待ち、手術をしないで治されることが多いです。股関節から離れた部位の骨折であれば、血流が遮られることがありませんので、すぐに体重がかかっても大丈夫なように太い金属の釘でしっかりと固定します。
太ももの付け根の骨折に対してはギプスを巻く、牽引をするといった治療はせず、約94%の患者さんに対しては手術で治されます。手術後に順調な経過をたどれば手術後1週間以内に立ち、3~4週間程度で退院するのが一般的です。なお、手術中や骨折後に新たに発生する合併症などは数%以内ですので、心配する必要はありません。
骨折の手術とともに忘れないでいただきたいのは、あわせて骨粗鬆症の治療を始める、または継続することです。その理由として、太ももの付け根を骨折すると反対側の足の太ももの付け根も骨折する危険性が高まることがわかっているからです。長くご自分の足で歩くためにも、骨粗鬆症の治療を継続し、次の骨折を防ぐことがとても大切です。