労働安全衛生および健康経営
方針
企業の活動がグローバルに展開されるようになる一方、社会の構造は大きく変化しています。高齢化の進展や雇用や働き方における大きな変化などです。こうした変化の中では、従業員の一人ひとりが満足感を持って能力や可能性を最大限に発揮できるよう、安全で快適な職場環境を作る取り組みが必要です。
旭化成グループでは従業員をかけがえのない存在と考えており、職場や作業現場における安全衛生の維持管理について、「あらゆる事業活動において、健康、保安防災、労働安全衛生、品質保証および環境保全を、経営の最重要課題と認識し、開発から廃棄に至る製品ライフサイクルすべてにわたり配慮する」との会社方針のもと、従業員との協働(安全衛生委員会や労使協議会などの場も含む)を通じた全社的な環境の整備に努めています。
労働災害防止活動
当社グループでは2020年度より、重篤労働災害の撲滅を図るため、「旭化成ライフセービング・アクション(LSA)」を定めて、グループ全体で展開を開始しました。守らないと命を失うおそれがある下記の4つの行動を「禁止行動」として制定し、事業活動のあらゆる局面で守ることの徹底を推進しています。
また、従来の安全衛生活動※1にリスクアセスメント、PDCAマネジメントを導入した労働安全衛生マネジメントシステム(OHSMS※2)の運用により、労働災害防止活動を継続して推進しています。
- ※1 従来の安全衛生活動 3S(整理・整頓・清掃)、HHK(ヒヤリ・ハット・気がかり)、危険予知、パトロール、事例検討等
- ※2 OHSMS Occupational Health & Safety Management System
労働災害防止の進め方
1.潜在危険性の抽出
有効な労働災害防止対策を実施するには、職場の潜在危険性を漏れなく挙げることが必要です。そのためには、安全衛生活動に強制発想(トラブル想定)の視点を入れて、モノの不安全な状態(設備、有害物、騒音等物理的有害環境など)や人の不安全な作業行動、さらに、その組み合わせで発生する危険事象に対する災害想定を幅広く実施することが重要です。
2.リスク評価
抽出された職場の潜在危険性について、災害の重篤性と災害に遭遇する頻度との組み合わせから、リスク点数を算出し、優先順位を付けます。リスク点数の高い重大リスクから低減対策を実施します。
3.重大リスク低減対策
重大リスク低減対策としては、モノの不安全な状態を安全化する本質安全化(危険作業排除、自動化、トラブルゼロ化、安全な物質への転換など)と安全防護が極めて有効とされています。
当社グループでは特に重大な災害に至りやすい、機械への挟まれ・巻き込まれ型災害の対策として、機械設備等の本質安全化と安全防護(隔離と停止)による対策を重点的に推進しています。
本質安全化・安全防護対策
安全対策構築の原則に則って、設備の新設・変更・既存設備見直し・事故発生時の対策等として本質安全化と安全防護による対策を推進しています。
安全作業基準遵守活動
当社グループでは、安全作業基準※の遵守活動にて安全の確保に努めています。具体的には、日々の業務での安全作業基準遵守状況をチェックするなど、工夫して実行しています。また、設備等の改善が難しい作業に関しては、特別管理作業と位置づけて作業者の力量確保や計画に基づく事前許可など厳重な管理のもとに作業を行っています。
- ※安全作業基準個別作業ではなく類似した複数の作業に共通する基本的事項を定めた安全原則。例えば、機械への挟まれ・巻き込まれ防止対策として運転中の露出部には手を出さないなど
労働災害情報の共有と活用
労働災害が発生した事業所では原因究明と再発防止対策を行います。当社グループ内ではすべての労働災害情報をデータベース化して共有し、安全教育や事例検討、類似災害防止などに活用しています。
労働災害発生状況
2022年度は国内グループ従業員では11件の休業災害が発生しました。発生件数ベースでは前年度より半減しています。今後も重篤災害の発生を防止するためにライフセービング・アクションを軸に継続した安全衛生活動を進めていきます。
- ※1
休業度数率
労働災害の発生率を表す安全指標の一つで、次の式で算出されます。[休業度数率=休業災害被災者数÷延べ労働時間×100万時間]
休業度数率0.1以下というのは、例えば、工場の従業員が100名であれば、50年間に1名しか休業災害を起こさないという、大変高い目標です。 - ※2 強度率 労働災害の軽重を表す安全指標の一つで、次の式で算出されます。[強度率=労働損失日数÷延べ労働時間×1,000時間]
快適職場形成の改善活動
化学物質などの管理として、有機溶剤中毒予防規則・特定化学物質障害予防規則・粉じん障害防止規則などが適用される単位作業場では、作業環境測定法に基づく測定を毎年実施しています。さらに、化学物質取り扱いにおけるリスクアセスメントも行い、化学物質に起因するリスクの把握と低減にも取り組んでいます。
2022年5月の労働安全衛生法改正に伴い、化学物質に対しては事業者による自律的管理が要求されるなど大きな変化がありました。当社グループでも適切な対応を進めています。
また、騒音ならびに暑熱に関しては、作業環境測定データをベースに作業管理を行い、個人への負荷を下げる管理を実施しています。引き続き、設備改善対策や作業見直しなど快適な職場環境に向けた改善を進めています。
旭化成川崎製造所の安全衛生活動
川崎製造所は、塩浜地区・浮島地区・千葉地区を含めた3拠点からなる製造所で、24時間稼働している製造部門のほか、研究開発部門、生産技術部門、支援部門からなり、従業員、派遣社員および常駐協力会社の方などを含めると、およそ2,000人の方が働いています。こうした多種多様な業種が混在の中で安全活動を推進しています。
1. はじめに(背景)
川崎製造所では、以前よりさまざまな安全活動に取り組んできましたが、2018年度の労災多発(従業員+協力会社)を受け、2019年に「決めたことを守る文化の醸成活動」を開始しました。
2022年度からは名称を「ケガをしない」「ケガをさせない」に改め、安全文化の醸成に取り組んでいます。
2. 具体的な取り組み
「ケガをしない」「ケガをさせない」を目的に、その目的達成のための手段として、従来から実施してきた安全活動に加えて、次のような活動をしています。
- 1)「STOPおじさん」の取り組み(2021年度より活動開始)
- 2)「管理者と現場の関係性の質向上」=上司部下での対話活動
お互いに尊重し合い、現場と一緒に考える組織づくり。
下図の考え方を共有化し、部場長自ら現場との関係性(心理的安定性)を向上するため、具体的な考え方や方法を徹底的に話し合う。⇒対話活動 - 3)部場重点化活動
労災の多い部場を「重点対策部場」として、環境安全部が現場に入り込み、対話を通じて一人ひとりの安全意識向上を狙いとして、アドバイスをする取り組み。 - 4)「ケガをしない」~自分がケガをしないための約束
自分がケガをしないために、一人ひとりが考えた上で、グループ単位で対話し、共有しながら、意識的に安全考動が取れるようにする取り組み。 - 5)「ケガをさせない」~仲間の身を守るための約束
協力会社への工事引き渡し時に、発注側(当社)の安全対策に不備があり、受注者側(協力会社)にケガをさせてしまっているケースがあり、これをなくすため工事引き渡し時の「無害化」について発注側で対話したことを確実に安全対策に結びつけることで、協力会社従業員の労働災害のゼロ化を図る取り組み。
3.「STOPおじさん」とは?
【ねらい・目的】
従業員のうち経験年数5年未満の若手(労災発生件数の42%)や日常管理では目の届きにくい協力会社(労災発生件数の38%)にスポットをあて、労働災害発生ゼロ化を目指すことを目的としています。
【活動内容】
全社取り組みのLSA(ライフ・セービング・アクション)を含めいろいろな視点で作業を観察し、良い作業を褒めることを第一に考え、現場を歩き回っています。もちろん、危険な作業を見たときには作業を止めていただき、その作業の危険性を考えていただいています。単なる指摘ではなく、一緒に考えることで、経験値を補完するとともに互いに納得感のある取り組みをしています。
STOP活動
(Safety Training Observation Program)
デュポン社が開発した安全管理プログラムを日本型の安全活動にアレンジしたもの。活動の基本は、不安全状態、不安全行動を観察、指摘し、アクションを起こすというサイクルで危険を排除し災害を防止する。
4. 「グッドポイントと表彰について」
現場を見て回り、手本となるような作業や工事について、当たり前と思われることも含めて「グットポイント」に挙げてタイムリーに褒めることをしています。その中でも表彰に値する(自薦他薦も可)ものがあれば、現場の皆さんの前で、製造所長に直接表彰していただいており、好評となっています。
-
年度 表彰件数 グットポイント件数
(表彰件数含む)2021年度 33件 347件 2022年度 36件 422件 2023年度(6月まで) 9件 161件 累計 78件 930件
5.「STOPおじさん」の効果
ある協力会社の方の表彰時に「これだけ具体的に褒められると、これまで以上に安全にやらなければならないという気持ちになりました」という言葉をいただきました。褒めることで、良いスパイラルアップになっていると実感し、まさにSTOPおじさん活動の成果だと感じています。
6. 最後に
労働災害ゼロの達成には至っていませんが、発生した労働災害の内容を確認すると、安全レベルは確実に向上してきていると実感しています。「ケガをしない」「ケガをさせない」という共通の目的にこだわり、さまざまな安全活動を通じて誰ひとり取り残されることなく、一人ひとりの安全意識の向上を図り続けることで、真の安全文化の醸成につながると考えています。そして、その結果が労働災害ゼロの達成、継続につながると信じています。
今後もSTOPおじさんのような「褒める文化」を定着させ、誰もが安全で安心を実感して、健康で快適に働ける製造所を目指していきます。
アスベスト問題への対応
当社ではアスベスト問題に対して、以下のように対応いたしました。
具体的な対応 | |
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工場を含む当社グループ所有建物の対応 | 当社グループが所有する工場を含む所有建物のアスベスト調査を実施し、「石綿障害予防規則」に基づいた除去、封じ込め、あるいは囲い込み等の対応を計画的に実施しました。 |
工場におけるジョイントシート類のアスベスト代替化 | アスベストが使用されているジョイントシート類は、点検・整備等で開放するタイミングで順次、非アスベストタイプの部材への取り換えを行っています。 |
当社グループを退職された方の健康面への対応 | 当社グループでは石綿障害予防規則が適用される「アスベストを製造し、または取り扱う作業」はありませんが、当社グループの在職中に保全等で臨時的に石綿を取り扱った経験がある退職者の方から申し出があった場合は健康診断を受けていただくとともに、その後のフォローをしています。 |
旭化成グループ退職者の皆様へ
健康経営方針
昨今、65歳定年制の導入、新型コロナウイルス感染症拡大を契機とした就労状況の変化によるストレスの増加など、従業員を取り巻く状況は大きく変わってきています。他方、旭化成グループが社会に向け、事業を通して価値提供をしていくためには、従業員が創造性と生産性を一段と発揮することが必要となっています。
そこで、当社グループでは、これまでの環境安全・品質保証活動における健康管理を発展させ、健康に関する取り組みを全社経営課題と位置づけ「健康経営※」を展開しています。
2020年10月には、グループの「健康経営宣言」を発表しました。企業価値を持続的に向上させていくには、「人財がすべて」であり、従業員が心身共に健康で活躍できる環境を、会社として整備することがますます重要になってきています。そこで、同宣言において掲げた、「グループ健康経営ビジョン」に基づき、「健康経営」をさらに推進していきます。
今後は、健康経営の中期目標達成に向けた各施策のPDCAを実施する中で、最重要課題である「メンタルヘルス不調」の対策を一段と強化していきます。その中で、2022年より取締役の報酬制度の一つの指標として、「メンタルヘルス不調による休業者率」を採用しました。さらに、DE&Iの視点から女性を主なターゲットとした健康保持・増進施策を強化するとともに、健康経営施策の効果発現やパフォーマンス向上の実感を得ることによる心身の健康を追求します。さらに次のステップとしては、従業員が身体的、精神的、そして社会的にも良好で幸福な状態を目指す「ウェルビーイング経営」を推進していきます。
- ※「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
【健康経営宣言】
旭化成グループは、私たちの強みである「多様性と変革力」を武器に「持続可能な社会」の実現に貢献し、「企業価値の持続的向上」を追求しています。この実現には、「人財」がすべてだと考えます。
従業員が心身共に健康で、皆が活躍できる環境を会社として整備することが今後、ますます重要になっていきます。これまで展開してきた健康保持・増進の取り組みをさらに発展させた「健康経営」を、「グループ健康経営ビジョン」を掲げて推進することを宣言します。
2020年10月 旭化成株式会社
【グループ健康経営ビジョン】
旭化成グループは、「一人ひとりの活躍・成長」と「グループの生産性向上・発展」を通じて、さらに「持続可能な社会」の実現に貢献します。そのため会社は、従業員と家族が心身共に健康で、従業員の働きがいと生きがいを高めていきます。
健康経営推進体制
2020年1月に健康経営推進室を設置し、同年4月付で健康経営担当役員を任命しました。2021年4月には、東京本社、支社のある宮崎県延岡市や静岡県富士市など、国内9つの主要拠点の産業保健スタッフが所属する健康管理センターなどを本社の健康経営推進室の所属としました。これにより、健康に関わる業務の標準化、全体最適化、拠点間の連携の強化、グループ共通課題への迅速対応が可能となり、健康経営を一元的に推進する体制に移行しました。これらの拠点において、2021年4月に健康経営をスタートし、さらに、2022年4月からは、国内小規模事業所および関係会社においても、健康経営をスタートしました。
健康経営の目的
従業員とその家族の心身の健康保持・増進を基盤とし、「一人ひとりの活躍・成長」「働きがい・生きがい向上」「活気あふれる強い組織風土づくり」がシナジーを起こすことで、「グループの生産性向上・発展」につなげ、“持続可能な社会への貢献” と “持続的な企業価値向上” の2つの「サステナビリティ」の好循環を実現することを目的としています。
健康経営戦略マップ
健康経営を推進する上で、解決したい経営上の課題に対して、健康経営の投資や施策により期待する効果や具体的な取り組みのつながりを把握し、健康経営を推進しています。これらの関係性を図解したものを整理しました。
健康経営目標(重点施策)
健康経営の目的達成のためには、「従業員の活躍・成長機会などの創出」「個人・組織活性化」が重要であると考えています。
「従業員の活躍・成長機会などの創出」のために、従業員の休業日数の削減を進めていきます。これに加えて、「個人・組織活性化」を進めていきます。
また、生産性向上の観点からプレゼンティーズム※1の多くを占めていると言われている「睡眠」の質・量の向上にも取り組みます。
このようなことから、当社グループでは、①従業員の活躍・成長機会などの創出(休業率の改善=メンタルヘルス不調、生活習慣病重症者、メタボリックシンドローム該当者、がん、喫煙への対策)、②個人・組織活性化(ワーク・エンゲージメント※2の向上)、③睡眠の質・量向上を、主要な健康経営目標の項目に設定しました。
- ※1プレゼンティーズム : 出勤しているが、心身の健康上の問題でパフォーマンスが上がらない状態。従業員の生産性を測るWHO-HPQを用いた経済産業省の研究などにおいて、プレゼンティーズムが健康関連総コストの6~8割を占めるとの報告がある。
- ※2ワーク・エンゲージメント : 仕事に関連するポジティブで充実した心理状態として、熱意・没頭・活力の3つの構成要素からなる。
① 従業員の活躍・成長機会などの創出(休業率の改善)
項目 | 2019年度 実績 |
2020年度 実績 |
2021年度 実績 |
2022年度 実績 |
2023年度 目標 |
2024年度 目標※3 |
---|---|---|---|---|---|---|
メンタルヘルス不調による休業者率(%)※1 | 0.91 | 0.98 | 1.00 | 1.07 | 0.80 | 0.64 |
生活習慣病重症者率(%)※2 | 11.0 | 11.0 | 10.7 | 10.7 | 8.9 | 7.7 |
メタボリックシンドローム該当者率(%) | 11.1 | 11.4 | 11.1 | 10.7 | 8.9 | 7.8 |
がん1件あたりの休業日数(日) | 79.2 | 68.1 | 87.5 | 88.6 | 67.3 | 67.3 |
喫煙率(%) | 25.8 | 24.7 | 23.5 | 22.5 | 18.5 | 15.5 |
- ※1年度内で連続30日以上休業している人数の割合
- ※2自社基準に基づき選定
- ※32020年時点の中期目標値
② 個人・組織活性化(ワーク・エンゲージメントの向上)
従業員自身のストレス状況について気づきを促し、メンタルヘルス不調のリスクを低減させる、一次予防を目的とし、当社グループでは毎年7月に心の健康支援システム「e診断:新職業性ストレス簡易診断システム(富士通株式会社)」を用いてストレスチェックを実施しています。
さらに、各職場の「ワーク・エンゲージメント『熱意』・『没頭』・『活力』」も状況を詳細に分析可視化することができる「KSA(活力と成長アセスメント)」を2020年度に導入しました。
現在、各職場では「e診断」と「KSA」の分析結果を総合的に活用し各職場の従業員同士が対話を行う等、さらなるワーク・エンゲージメントの向上に取り組んでいます。
③ 睡眠の質・量向上
プレゼンティーズムは、一般的に、健康関連総コストの 6 ~8 割を占め、医療費の数倍にもなっていると言われています。睡眠の質・量が、メンタルヘルス不調に続くプレゼンティーズムの大きな原因と考えられており、その改善のための施策を推進していきます。
具体的には、①睡眠の評価方法の確立、②十分に睡眠が取れていない従業員への対応方法の検討、③睡眠リテラシー向上に向けた教育研修を進めています。
また、「睡眠で休養が十分取れていない者の割合の低減」を、2022年度から健康経営目標における睡眠のKPIとして新たに設定しました。
項目 | 2019年度 実績 |
2020年度 実績 |
2021年度 実績 |
2022年度 実績 |
2023年度 目標 |
2024年度 目標※ |
---|---|---|---|---|---|---|
睡眠KPI(%) | 32.4 | 28.5 | 27.2 | 28.0 | 24.2 | 22.7 |
- ※2020年時点の中期目標値
具体的な取り組み
メンタルヘルスケアの推進
当社グループでは「メンタルヘルスケア・ガイドライン」に基づき、メンタルヘルスの「4つのケア」を充実させることにより、メンタルヘルス不調による休業者率低減に取り組んでいます。
① セルフケア
ストレスやメンタルヘルス不調への対処方法などへの理解を促すため、メンタルヘルスに関する研修を実施・強化しています。自身のストレスやメンタルヘルス不調に早く気づき、自分自身で対処可能とするため、2023年5月に「メンタルヘルスセルフケア教育」をグループ全従業員に実施しました。
② ラインによるケア
「ラインによるケア」の一環として、「e診断」の健康いきいき判定シートの活用や研修の実施など、各地区で職場環境の改善につなげています。鈴鹿地区では、いきいき職場づくりのみならず、15年以上前より活動を進めてきており、メンタルヘルス不調による休業者率が低下傾向にあります。また、水島地区にて、人事部門、産業保健スタッフ、労働組合とも連携しながら、「e診断」と「KSA」を総合活用したワークショップを2020年度から継続して実施しています。さらに、2022年度からは、水島地区の事例を全国展開することで、他地区でも実施されるようになりました。
③ 産業保健スタッフなどによるケア
「e診断」にて、個人のストレス調査を行い、産業保健スタッフによるフォローを行っています。
また、一部地区において、異動者および新入社員に対して、環境の変化があった後の生活や仕事への適応状況を確認し、不調の兆候がある従業員に対して早期に対応することで、重症化を予防することを目的に、「異動者等フォローアップ」をトライアル実施してきました。このアンケート並びに対策の効果が確認できたことから、この取り組みを国内の主要製造拠点において実施するために、必要なマニュアルやツールなどを新たに整備しました。今後は、広く全社展開を図ることで、異動などに伴うメンタルヘルス不調の予防を推進していきます。
④ 専門機関によるケア
メンタル疾患により休業した人が、その後円滑に職場復帰できるように「リハビリ勤務制度」を設置する中でリワークプログラムも活用しています。さらに、外部講師による研修やカウンセリングの導入などの「専門機関によるケア」の活動も実施しています。
⑤ その他メンタルヘルス不調休業者の直接要因および背景事象の分析
メンタルヘルス不調による休業者数の低減を目的に、休業に至った原因を産業保健スタッフの視点で、面談結果から直接の要因や背景について寄与割合をもとに、その傾向や特徴を地区ごとに分析しています。また、各地区の結果を全社で集計し、職種や職階など多様な視点で分析し、全社で共有し、対策を講じています。
生活習慣病重症者、メタボリックシンドローム該当者への取り組み
当社グループでは、従業員の健康保持・増進のため、生活習慣病の予防および対策を推進しています。
① 特定保健指導とスリムアップ事業
従来実施している特定保健指導「Asahiヘルスアッププログラム」の運用に加えて、生活習慣病の発症、さらには重症化、合併症の発生を抑制することを目的に、2021年度から「スリムアップチャレンジ」をスタートしました。これは、特定保健指導よりも対象層を広げることにより、従来ではリーチの届かなかった層にも関与していくことで、生活習慣病の予防に役立てようとしています。一方で、特定保健指導は、生活習慣病の改善や体重減少など一定の効果が認められるため、さらに受診率を向上するために、2022年度には、特定保健指導に関する全社方針として、「特定保健指導の対象となったグループ従業員は積極的に受診し、部場はこれを支援する」ことを打ち出しました。これにより、特定保健指導対象者となり受診案内があった従業員は、受診できない事由がある場合を除き、原則として受診することとなり、また、就業時間内に受診することを可能としています。
② 運動機会の創出
製造拠点ごとに、ウォーキングイベントを開催するほか、体力測定会を毎年開催し経年変化を確認するイベントも実施しています。また、誰でもどこでも簡単にできるエクササイズ動画を社内HPに掲載し、従業員の運動のきっかけづくりにしています。
拠点ごとの運動習慣の定着に向けた取り組み
生活習慣病重症者、メタボリックシンドローム該当者の低減に向け、運動習慣の定着を目的として、製造拠点ごとに、ウォーキングイベントを開催するほか、体力測定会を開催しています。
ウォーキングアプリ「&well※」を導入し、昨今の在宅勤務下においても、参加者の行動変容・健康意識の向上、コミュニケーションの活性化を促しています。アプリを導入するだけでなく、一部地区では従来の歩数集計システムと「&well」アプリを組み合わせ、部場別の歩数を集計し、オリジナルのウォークラリーを実施しています。また、他地区ではレクリエーションとして「謎とき健幸ウォーク」を開催し、製造所の柵内でクイズを探しに歩くクイズラリーを同時に実施し、いずれも「&well」を活用し歩数を増やす企画を行っています。
- ※三井不動産株式会社が企画・運営
女性の健康保持・増進
単に、女性の健康づくりではなく、「女性活躍に必要な健康課題(ホルモン、ライフステージ課題等)の解決によるパフォーマンス向上、ならびにキャリアアップおよび人財定着」を目指すことを目的に、2022年度大仁地区において女性のための生活習慣病教育を実施しました。これは「更年期以降の女性の健康管理について」と題して実施し、従業員の多くが参加しました。また、日比谷地区では、スポーツ庁公募事業として、「働く女性」のスポーツの実施頻度を上げること、そして、日常感じているストレス軽減により、女性の社会環境の改善につなげることを目的に、お笑い要素を取り入れた新しいヨガ「笑うヨガ」を実施しました。
③ 産業保健スタッフから、職場ごとに従業員の心身の状態を集団として可視化し、部場長に報告
当社グループの主要製造拠点である延岡地区、富士地区では、健康診断結果、生活習慣データ、傷病休業などのデータを、部場ごとに解析し、産業保健スタッフから、集団としての解析結果を、各職場の責任者に報告しています。これは、各職場の責任者が、自分の職場の従業員の心身の集団としての状態を、客観的に理解、課題を把握し、職場ごとの改善策を講じることを目的としています。
がんへの取り組み
① がんに対するリテラシー向上のための教育を実施
従業員の「がん」に対する正しい知識の習得を促し、がんの予防につながる生活習慣の改善や早期発見・早期治療のためのがん検診受診率向上を図るため、グループ全従業員を対象に、がん予防と両立支援に関する全社e-ラーニングを実施しました。また、一部事業所では、実施後、動画を社内イントラネットに掲載しいつでも視聴できるようにしました。
② がん検診受診勧奨
定期健康診断・人間ドックにおいて、がん検診を奨励し、費用補助をしています。そのほか、がんに罹患した際、治療を支援する制度や復職時に働きやすい社内制度があり、周知しています。
喫煙率低下への取り組み
喫煙者の禁煙をサポートするとともに、従業員の望まない受動喫煙を防止することを基本的な考え方として掲げ、2023年4月に「旭化成グループ禁煙方針」を打ち出しました。2024年4月から就業時間内全面禁煙、そして2025年4月から敷地内全面禁煙および宴席中禁煙※に向け、グループ全体で取り組んでいます。
喫煙者の禁煙をサポートすべく、従来、旭化成健康保険組合が企画・実施している「禁煙チャレンジ」に加え、会社としても「卒煙プログラム」を企画したり禁煙セミナーを開催するなど、各種サポートを充実させていきます。
- ※宴席中禁煙会食場所を離れて喫煙後に戻ることを禁止すること。
睡眠プログラムの実施およびトライアル
睡眠の質を改善し、仕事や普段の生活レベルの向上を目的に、2021年に睡眠改善プログラムのトライアルを実施し、その結果、参加者の80%の方に改善が認められたことから、2022年も引き続き実施することとしました。当社グループの東京本社および東京・大阪地区営業所では、2021年に引き続き、約6,000名に睡眠アンケートを実施し、その中から不眠の重症者を抽出し、面談を経て約70名が睡眠改善プログラムに参加しました。また、水島地区では、交代勤務者を対象に睡眠改善プログラムのトライアルを実施しました。参加者は18名(日専勤務者13名、交代勤務者5名)で、プログラムの満足度は80%を超えており、日中の支障度改善率も68%であることから、交代勤務者に対しても一定の効果があることが確認できました。一方で、睡眠に関する情報提供を目的に、2年連続で睡眠オンラインセミナーを実施し、その後オンデマンド配信することで、睡眠リテラシー向上につながっています。2023年度には、睡眠改善の取り組みとして睡眠アンケート実施、産業保健スタッフによる面談、および睡眠改善プログラム実施までの一連の工程を示したマニュアルを作成しました。これにより、各地区にて睡眠改善プログラムを活用することができる体制を整え、睡眠改善のための睡眠状況の評価、事後措置・保健指導の具体的な方法を、日専勤務者のみならず交代勤務者についても確立し、全社展開します。
健康経営に関する教育について
当社グループでは、従業員の健康経営のための知識・スキル習得を支援するために、各層の業務役割を踏まえたさまざまな教育を実施しています。
研修 | 形態 | 目的 | 2022年度 受講者数(名) |
---|---|---|---|
新入社員研修 | オンライン研修 | 社会人としての健康に関する基本的な考え方の理解、有害物を取り扱う際の注意点、および必要な社内ルールなどの習得 | 203 |
新任管理職研修 | e-ラーニング | 管理者としての健康管理の基本的な考え方の全体像および行動枠組み、ならびに会社および従業員の責務の理解 | 316 |
新任経営管理職研修 | e-ラーニング | 当社グループの健康経営の全体像および健康経営の重要性の理解 | 361 |
世界的な健康課題に対する取り組み
海外勤務者への健康管理の対応
新型コロナウイルスの感染は落ち着きつつありますが、各種の感染症による健康問題は世界的な課題と捉えています。当社グループでは、グローバル展開に伴い増加する海外勤務者をこのような健康問題から守るために、健康管理を強化しています。
赴任期間や場所により健康管理の状況は若干異なりますが、赴任前には、赴任前健康診断、予防接種の実施、新型インフルエンザのパンデミックなどに備えてのタミフル(抗インフルエンザ薬)事前処方、赴任前健康教育を行い、赴任中も年1回健康診断、そして帰任後には、勤務者に加え希望される帯同家族にも帰任後健康診断を行っています。
赴任中は、赴任半年後に産業医によるウェブ面談を実施しています。また、国内同様にe診断の実施に加え、勤務者には、「健康調査票」を用いて自覚症状や現地での生活習慣、心身の健康状態、ワクチン接種状況に関するアンケート調査を行い、調査結果および健診結果などをもとに、必要に応じてウェブを用いた産業医および保健師面談を実施しています。
また、パソコンへのアクセス時間をもとに長時間労働が疑われる海外勤務者に対しては、問診票の回答結果に応じてウェブを用いた産業医面談を実施しています。
さらに、海外勤務者には「健康便り FROM 東京」を定期的に配信しており、エリア別にまとめた「海外勤務者 健康診断結果および生活習慣問診結果」「健康情報」などの情報提供を行っています。その他にも医療アシスタンス会社と連携し、現地医療機関への受診サポートや健康の悩みや困りごとに対して、健康相談を行っています。
外部機関による活動の評価・顕彰
当社グループでは、グループの健康経営の取り組み状況を客観的に把握し、活動のさらなるレベルアップを図ることを目的に、以下の外部機関で評価いただきました。
健康経営優良法人2023(大規模法人部門)ホワイト500に認定
経済産業省と日本健康会議が共同で実施する「健康経営優良法人2023(大規模法人部門)ホワイト500」に認定されました。健康経営優良法人認定制度とは、地域の健康課題に即した取り組みや日本健康会議が進める健康増進の取り組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している法人等を顕彰するものです。
がんアライアワード2022でシルバー賞を受賞
がん患者が治療をしながら生き生きと働ける職場や社会を目指すため、がんを治療しながら働く「がんと就労」問題に取り組む民間プロジェクト「がんアライ部」が主催する「がんアライアワード2022」において、シルバーを受賞しました。
スポーツエールカンパニー2023に認定
スポーツ庁より「スポーツエールカンパニー2023」に認定されました。この制度は、「働き盛り世代」のスポーツ実施を促進し、スポーツに対する社会的機運の醸成を図ることを目的として、従業員の健康増進のためにスポーツ活動の促進に積極的に取り組みを行っている企業を認定するものです。当社は、エクササイズ動画の配信、運動施設の提供、各事業所のウォーキングイベントの開催が評価されました。
東京都スポーツ推進企業2022に認定
東京都より「東京都スポーツ推進企業」に認定されました。この制度は、従業員のスポーツ活動を推進する取り組みや、スポーツ分野における社会貢献活動を実施している企業等を認定するものです。当社グループは、製造拠点ごとにウォーキングイベントやセミナーを実施し従業員の健康意識を向上させていることが評価されました。