今年も豪雨による自然災害が多発しています。被害に遭われた方々には、心よりお見舞い申し上げますと共に、救助や復旧に尽力されている皆さまに心より敬意の念を表します。
さて、台風シーズンは、一般的に7月~10月といわれており、まだまだ予断を許しません。また、大震災への備えも意識しておく必要があります。あらかじめ被災した場合の対処を知っておくことも減災へとつながります。賃貸住宅が被災した場合の経営上の問題など、Q&Aスタイルで解説します。
賃貸借契約が継続されるかどうかは、「使用収益させるという目的」が達成できるかどうかによります。つまり、修繕が不可能であれば賃貸借契約は終了しますが、修繕が可能な場合は、賃貸借契約は継続され、オーナーに修繕義務が生じます。
家賃については、修繕が完了し入居できるまでの間は請求できないでしょう。またそのような場合は、入居者から賃貸借契約を解除することは可能です。
修繕が終わるまでのホテル代、または引越代については、瑕疵による工作物責任が問われなければ、費用の支払い義務は生じません。
災害で、建物が被害にあった場合、修復が可能であれば賃貸借契約は継続する。
2020年4月1日に施行された民法改正では、災害に限らず設備が故障した場合、家賃は当然減額されるといった強い表現に改正されています。設備が故障した場合は、設備によって家賃の減額を考えなければなりません。民法では、具体的にいくらの減額かは定められていませんが、公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会からガイドラインが出ています。
ガイドラインを参考に、災害時の状況で考えてみたいと思います。
まずライフラインである、電気、ガス、水道の供給そのものが停止した場合は、電気会社、ガス会社、水道局の問題で、設備の破損・故障ではありませんので、家賃の減額は発生しないと考えられています。ただし、生活できないような状況であれば、考慮する必要はあるでしょう。
設備機器の故障でライフラインが止まった場合は、それぞれについて家賃の減額があります。減額割合については、以下の表を参考にしてください。
さらに、具体的な個々の設備であるトイレ、風呂、エアコンなどの場合も、ガイドラインで減額割合が示されています。減額の計算は、免責日数を除いて使用できなかった期間を日割りで計算します。
入居者の生活のためにも、少しでも早く修繕できるメンテナンス体制が必要です。メンテナンス体制については管理会社等に確認しておくのがよいでしょう。また、古くなった設備は故障しやすくなっていることも考えられます。早めの交換は、減災の効果があるともいえます。
災害に限らず、設備が故障した場合は家賃の減額がある。設備のメンテナンス計画をしっかり行うことも減災へとつながる。
テレビに限らず、トースターや本棚などの家具・家電が、想定外の強い地震によって落下・転倒し、フローリング、壁、窓が損傷することがあります。
この場合は不可抗力によるものですから、入居者の故意過失があったわけではありません。したがって、オーナーに修繕の義務があります。民法では、オーナーに「賃貸物件を入居者が通常の使用ができるように修復する義務」が定められています。
家具の転倒防止策を講じていないことなどを理由に、入居者に損害賠償を請求するというのは難しいでしょう。
ただし、地震でもないのに家具が落下し、フローリングを傷つけた場合は、入居者の過失が認められる場合があります。
家具の転倒防止については、入居時や防災月間などのタイミングで、掲示板やチラシを活用して注意を喚起する必要があります。建物の損傷よりも、まず入居者自身のケガ防止のためにも、「自助」を促すことは減災につながります。
ヘーベルメゾン「防災パッケージ」では、冷蔵庫や家具を置くことが想定される壁面には、固定用の下地を補強し、「家具固定OK」のプレートを表示することで、「自助」を促しています。また、家具の転倒や棚の上に積み上げた荷物の落下防止のために、集中収納を可能にする大きめの納戸やウォークインクローゼットを設置したり、ローリングストックが可能なパントリーを設置したりして防災・減災対策を講じています。
地震で家具・家電が落下し、建物が損傷した場合の修繕はオーナーが行う。家具の転倒防止については、入居者に注意喚起を行うことが必要。
防災対策で大切なことは「自助」と「共助」です。
「自助」を促すには、掲示板やチラシ等で防災への注意を促すことが大切です。特に近年の夏は豪雨による被害が多発しています。例えば、ベランダの排水口がゴミで詰まっていると集中豪雨の際にオーバーフローしてしまうこと、飛来物から窓ガラスを守るため窓のシャッターを下ろしておくことなど、細かいアドバイスも必要でしょう。管理会社に確認しておくとよいでしょう。
旭化成不動産レジデンスで管理しているヘーベルメゾンでは、入居時に賃貸住宅の防災対策について書かれた「住まいの防災HAND BOOK」を配布、ペット共生型賃貸住宅では「本当に知りたいペット防災ハンドブック」を配布しています。
「共助」については、防災の観点からも大きな防災力があることが分かっています。そのためにもコミュニティの存在が必要なのですが、一般的には賃貸住宅ではコミュニティの形成は難しいでしょう。ただ、近年ではコミュニティを持った賃貸住宅も多く人気です。
例えば、ヘーベルメゾンのコミュニティ賃貸住宅では、入居者同士のコミュニティによる共助意識を育むため、共助に関する「同意書」を作成したり、入居者向けの防災イベントを開催して、コミュニティを醸成し、「共助」による防災力を高めています。(コロナ禍が収束するまでは、イベントの開催は見合わせております)
入居者に「自助」「共助」を促すため、掲示板やチラシを活用する。できる限り、コミュニティの形成で「共助」を促す。
2020年8月より賃貸借契約時の重要事項説明で、ハザードマップを使った水害リスクの説明が義務づけられています。合わせて避難所の確認も必要ですが、コロナ禍で分散傾向にありますので、注意が必要です。
近年は、堅牢な建物の場合は「在宅避難」が推奨されています。
水害の場合、内閣府・消防庁では洪水ハザードマップで浸水の危険があるエリアでも、次のような場合は例外として在宅避難を勧めています。
1.洪水により家屋が倒壊又は崩落してしまうおそれの高い区域の外側である。
2.浸水する深さよりも高いところにいる。
3.浸水しても水がひくまで我慢できる、水・食糧などの備えが十分にある。
※土砂災害の危険があっても、十分堅牢なマンション等の上層階に住んでいる場合は、自宅にとどまり安全確保することも可能です。
賃貸住宅の場合、1階の部屋で浸水の危険があれば避難、ヘーベルメゾンのような堅牢な賃貸住宅であれば、2階以上に限り在宅避難も可能となるでしょう。
※ただし、東京都の「江東5区」(墨田・葛飾・江戸川・江東・足立区)は、洪水や高潮が発生した場合、ほとんどの地域が浸水すると予測し、避難所ではなく他の地域に広域避難するように勧告しているケースもあります。
賃貸住宅の場合、堅牢な建物なら「在宅避難」が推奨されている。水害に対しては、2階以上は在宅避難も可能。
災害の場合、在宅避難が推奨されているとはいえ、ライフラインがストップしてしまうような災害が発生してしまうと、在宅避難も困難を強いられます。
例えばヘーベルメゾン「防災パッケージ」では、「防災ステーション」が設けられ、太陽光発電と蓄電池により、停電時にも使える非常用コンセントを「防災ステーション」内に設置しています。停電時にはスマートフォンの充電や、テレビ・ラジオからの情報収集、電気ポットによるお湯の確保などができ、在宅避難をサポートします。
また、地震の二次災害である火災の原因は、停電から復旧した際に起こる通電火災です。そこで、震度5強以上の地震を感知するとブレーカーを強制遮断し、電気を自動的にストップする「感震ユニット付分電盤」を設置し、通電火災の対策をしています。
既存の物件に防災ステーションを設置することは難しいと思いますが、これらに近い設備の追加設置を検討してみてもよいでしょう。
もう一つ、地震の二次災害である火災を防ぐには、建物の不燃化促進が必須です。耐火性能の劣る老朽アパートの場合は建て替えも検討したいところです。自治体では木造住宅から耐火構造への建て替えを促進するため、老朽建築物の除却費用の助成などの制度があります。活用を検討してみてください。
これまで解説してきたとおり、賃貸住宅の防災力とは、賃貸住宅経営の観点からいうと「入居者の命と暮らしを守り、早期修復性で賃貸経営が継続できること」です。早期修復性は、建物の基本性能が高いことにも関係してきます。修復のスピードは、入居者の生活を早く復旧でき、その分家賃の減額も回避されるなど、経営の維持・継続にも影響してきます。
また、部屋選びの際には「災害に対する強さ」が決定要因になったと77.8%の人が回答するなど、入居者も賃貸住宅の防災力について意識が高まってきています。
賃貸住宅の防災力を高めるには、「自助」を促す設備、「共助」を育むコミュニティをできるだけ備えることが重要です。オーナー自身、防災・減災への意識を高めていかなければなりません。
賃貸住宅の防災力を高めるには、「自助」を促す設備、「共助」を育むコミュニティを備えること。木造の老朽アパートの場合は建て替えも検討する。