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相続対策の選択肢が増えた"かしこい贈与"

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2015年6月23日

相続対策の選択肢が増えた
安木 夕夏 税理士

相続対策の一つに、「資産の移転」があります。つまり生前に贈与をして資産を移転する方法です。最近は税制改正により、教育資金や結婚資金を一括して非課税で贈与できる制度ができ、話題になっています。生前贈与には、どんな効果があるのか、コンパッソ税理士法人の安木夕夏税理士にお伺いしました。

贈与税の納税額が6割強も増加!相続税増税が影響!

─生前贈与が相続対策として有効といいますが、実際、どのように活用されているのでしょうか?

安木:生前贈与の対象資産は、現金だけではなく不動産や株式などの有価証券などさまざまです。贈与する方法も、一度に多額の贈与をする方法と、コツコツ毎年贈与する方法があります。また、贈与は税制改正などにより、その時々で優遇制度がありますので、それらをうまく活用することで、大きな節税効果が得られることもあります。例えば、住宅資金の贈与が非課税になったり、教育資金をまとめて非課税で贈与できる制度などです。
先日、国税庁から2014年の贈与税の申告状況に関するデータが発表されました。これによると、贈与税の申告納税額は2,803億円で、前年の1,718億円から、なんと63.1%も急増しました。確かに、私どもの顧客でも生前贈与を活用するケースは増えているという実感があります。やはり、今年から相続税が大幅に増税となったことが要因でしょう。

■贈与税の申告納税の推移

 

─贈与税を支払ってでも、生前贈与した方がメリットはあるのでしようか? 税率は贈与税の方が高いようですが。

安木:相続税も贈与税も税率は累進課税と言って、金額が増えれば税率も高くなる仕組みになっています。税率だけ単純に見れば、3,000万円の場合、相続税は15%ですが、贈与税は45%もあります。しかし、贈与税には一年間110万円まで非課税となる基礎控除があり、税率も200万円以下は10%という段階で設定されています。これを活用して、コツコツと毎年贈与する方法をとれば、節税効果があるのです。
例えば、仮に毎年300万円を10年間にわたって合計3,000万円を贈与したと仮定すると、300万円の贈与税は、基礎控除110万円を引いた190万円の10%、19万円です。10年間で190万円。一方、3,000万円の相続税は400万円なので、400万円−190万円で210万円の効果が得られた計算になります。

 

■相続税の速算表

課税価格

税率

控除額

1,000万円以下

10%

-

3,000万円以下

15%

50万円

5,000万円以下

20%

200万円

1億円以下

30%

700万円

2億以下

40%

1,700万円

3億以下

45%

2,700万円

6億以下

50%

4,200万円

6億円超

55%

7,200万円

■贈与税の速算表

課税価格(基礎控除後)

税率

控除額

200万円以下

10%

-

400万円以下

15%

10万円

600万円以下

20%

30万円

1,000万円以下

30%

90万円

1,500万円以下

40%

190万円

3,000万円以下

45%

265万円

4,500万円以下

50%

415万円

4,500万円超

55%

640万円

※20歳以上の者への直系尊属からの贈与

今年から、相続税の最高税率がアップされましたが、贈与税に関しては、「20歳以上の者への直系尊属からの贈与」が新しく創設され、税率も軽減されています。これまで以上に、贈与も利用しやすくなっています。

かしこい贈与・その1:暦年贈与の活用の仕方は?

─現金を贈与する場合に気をつけた方が良い点を教えてください。
安木 夕夏 税理士

安木:贈与税は、その年の1月1日から12月31日までに、贈与された財産の合計から基礎控除110万円を差し引いて、その残りの金額に税率を乗じて計算します。これを暦年贈与と言います。
110万円までは無税なので、毎年それを超えない額を贈与する方もいますが、先ほどのシミュレーションで見たとおり、相続対策の観点からは、贈与税を払った方が大きな節税効果が期待できるのが分かります。ただし、毎年贈与する場合は、注意が必要です。場合によっては、認められず多額の贈与税を課せられることがあります。
その都度、贈与したという契約書を作ることをお勧めします。

─他に注意点はありますか?

安木:もう一つ注意したいのが「名義預金」です。贈与された本人が知らずに、贈与者によって預金口座が作られ、そこに振り込まれており、通帳も印鑑も贈与者が保管しているケースです。今は、本人でないと預金口座も作りづらくなっていますが、税務署の調査では、家族、親族、孫の口座まで細かく調査が入ります。
当たり前ですが、大切なのは確実に受取人に贈与され、受取人の財産になっているということです。受取人は、あえて時々口座から引き出して使うというのも、その証明になるでしょう。
贈与は、あげる人ともらう人の意思をはっきりしておくことが大切です。注意点を整理すると、次のようになります。

■現金贈与の注意点
・その都度、契約書を作成し事実を明確にする。
・通帳・印鑑は必ず受け取った本人が管理する。
・贈与を受けた資産は受取人が自由に使える状態になっている。
・基礎控除110万円を超え、贈与税を払っても節税効果がある。

 

また、相続人となる人が相続開始前3年以内に受けた贈与は、相続財産としてみなされますので、これも注意が必要です。病気で余命宣告を受けたからといって、あわてて生前贈与しても遅いということになります。相続対策としての生前贈与は、早期に取り組む必要があるのです。

かしこい贈与・その2:相続時精算課税制度のメリットは?

─その他の生前贈与の方法には何がありますか?

安木:贈与には、先ほど解説した基礎控除110万円を活用する「暦年贈与制度」と「相続時精算課税制度」があります。
相続時精算課税制度は、2,500万円までは一度に贈与しても贈与税は非課税となる制度です(2,500万円を超えた部分は一律20%の税率で課税)。しかし、名前のとおり、相続時には贈与した時点の資産評価で精算します。つまり、その贈与資産は、相続した資産として、あらためて相続税の対象となるのです。例えば、土地や有価証券などで将来値上がりすると予想できるものは、価値の低いうちに贈与すれば、精算する時も贈与時点での評価になるので有効でしよう。また、会社経営をしている場合、会社の業績が好調で今後も事業が拡大しそうなら、早めに子どもたちに自社株を贈与するのも効果的です。

─相続時精算課税制度のメリットは何でしょうか?

安木:相続対策は、税金対策が全てではありません。使うあてのない資産を親世代が持っているよりは、今必要としている子ども世代に資産を移して、有効に活用してもらうのも意義のあることです。今年から、要件も緩和され、祖父母から孫への活用もできるようになり、使い勝手も良くなりました。

注意点としては、一旦、相続時精算課税制度を選択すると暦年贈与制度には戻れないということです。慎重に計画を立てて選択してください。

■暦年贈与制度と相続時精算課税制度の比較

 

暦年贈与制度

相続時精算課税制度

基礎控除

110万円

なし

非課税枠

なし

2,500万円

税率

10%〜55%

一律20%(2,500万円超)

適用者

定めなし

贈与者は60歳以上の親または祖父母、受贈者は20歳以上の子または孫(住宅取得資金の場合は、親の年齢制限なし)

手続き

110万円を超えると贈与申告

受贈者が当制度を選択し、所轄税務署長に届け出を行う

かしこい贈与・その3:アパートの生前贈与は効果があるか?

─不動産などの生前贈与にはどんな効果がありますか?
安木 夕夏 税理士

安木:節税効果としては、現金よりも不動産を贈与した方が、効果がある場合があります。特にアパートの場合は、評価額が固定資産税評価額で、さらに借家権割合による評価減もありますので、時価より大幅に評価が下がります。この時、先ほどの相続時精算課税制度を活用することもできます。

それにアパートの場合は、家賃による収益も移転することになりますので、収益を納税資金として確保することもでき、相続税対策としては有効でしょう。ただし、不動産の生前贈与には、登録免許税、不動産取得税が発生しますので、それなりに経費がかかることも知っておいてください。

─アパートの生前贈与で、気をつける点はありますか?

安木:気をつけることは3点です。1点目は、負担付贈与といって、ローンでアパートを建てている場合です。ローンも一緒に贈与すると評価が固定資産税ではなく、時価になってしまいます。ローンはない状態で贈与することです。
2点目が、アパートの建っている土地を将来相続する場合、貸家建付地の評価減が受けられなくなる可能性があります。それは、入居者が変わって新しい賃貸借契約を結んだ場合です。長期で見れば、入居者が変わらないとは考えにくいのですが、これを回避する方法が「一括借上げ」です。この場合は、業者との賃貸借契約になりますので、業者が変わらないかぎりは、貸家建付地としての評価減が適用されます。
そして、3点目は全ての相続人に対して、了解を得ることです。不動産は一人にしか贈与できません。不公平が生じて、後にトラブルにならないよう家族間でよく話し合うことが大切です。

かしこい贈与・その4:教育資金、結婚資金、ジュニアNISAは有効か?

─教育資金や結婚資金の贈与など、新しい贈与制度が次々に生まれていますが、どのように活用するのが良いでしょう?

安木:昨今の国の政策は、高齢世帯の資産を次世代に移して、経済を活性化させようという方向にあります。税制改正により、一昨年に「教育資金一括贈与制度(以下、教育資金制度)」が始まり、今年は「結婚・子育て資金一括贈与制度(以下、結婚資金制度)」、さらに来年には「ジュニアNISA」が始まります。

活用した方が得かどうかは、まさにケースバイケースです。教育資金制度を使わなくても、教育資金をその都度贈与した場合は非課税となりますし、親が子どもの結婚費用を支払っても原則非課税です。この制度を活用するには、信託銀行などに贈与金を預けて管理されることになり、現金を引き出すには領収書を提出するなど少し手間がかかります。

さらに、教育資金制度は受贈者が30歳、結婚資金制度は50歳までに使い切れなかった残金は贈与税が課税されます。つまり、使い切ることが必要になりますので、ライフプランもしっかりと立てることが必要です。また、教育資金制度と結婚資金制度の大きな違いは、贈与者が死亡した場合です。結婚資金は残高が相続財産に加算されますが、教育資金は加算されません。

─そうなると、あまりメリットがなさそうですが?

安木:一番のメリットは、一度に多額の資産を移転できるという点です。相続時精算課税制度と同じと言えるでしょう。いくら長寿社会とはいえ、先々の不安はつきものです。できるうちにまとまった資産を移転できれば、相続税の心配も減ります。また、孫への移転を考えた場合、必要に応じてその都度拠出するのは面倒だし、一度に渡してしまった方が精神的にも楽だという人もいるでしょう。それに、親世代、子世代が共に高齢になって資産を相続したとしても、すぐに次の相続の心配をしなければなりません。であれば、教育資金制度で一括して贈与し、孫の成長時期にあわせて有効に使ってもらうのも良いかもしれません。

─話題のジュニアNISAは、どう使えば良いですか?

ジュニアNISAは、0歳から19歳までのジュニアが利用でき、運用管理は原則、親権者が行います。さらに、18歳になるまで払い出しはできません。先にお話しした、暦年贈与で自由に使える多額の現金を子どもや孫に贈与するのは好ましくないと思う場合は、この制度を活用すると良いでしょう。18歳までは使えませんし、投資というファイナンス教育の一助にもなるかもしれません。
また、これらの制度は暦年贈与と並行して活用することができます。

■教育資金一括贈与制度、結婚・子育て資金一括贈与制度の概要

 

教育資金一括贈与制度

結婚・子育て資金一括贈与制度

非課税限度額

1,500万円まで(うち学校等以外は500万円を限度)

1,000万円まで(うち結婚費用は300万円を限度)

贈与者

受贈者の直系尊属

受贈者の直系尊属

受贈者

30歳未満の者(子・孫・ひ孫等)

20歳以上50歳未満の者(子・孫・ひ孫等)

期間

平成31年3月31日までの拠出

平成31年3月31日までの拠出

範囲

(1)学校等に支払われる入学金、その他の金銭
(2)学校以外の者に支払われる金銭のうち一定のもの(通学定期券代、留学渡航費等含む)

(1)結婚に際して支出する婚礼(結婚披露を含む)に要する費用、住居に要する費用及び引越しに要する費用のうち一定のもの
(2)妊娠・出産に要する費用、子や孫などの医療費及び保育料のうち一定のもの。

 

─あらためて、生前贈与のメリットについて教えてください。

安木:生前贈与は、自分が元気なうちに、あげたい人にあげられる、資産の移転を見届けられるという精神的な安心感も大きなメリットです。長寿社会では、暦年贈与でコツコツ長期に渡り、贈与するものいいでしょう。また、さまざまな制度を活用して一度に贈与するのも一つの方法です。贈与される側も、早めにもらえる方が結婚や子育て、教育や住宅購入などで利用価値があるのも事実です。贈与は、受け取る側のライフプランも考えて行うことが必要なのです。
また、今回は触れませんでしたが、「住宅取得資金等贈与の非課税制度」も拡充されました。生前贈与の選択肢は、広がっています。どの制度を活用するにしても、当然のことながら、全ての相続人に不公平感が出ないように配慮して生前贈与することが大切です。特定の人に、こっそり贈与するのはお勧めできません。後で、必ずトラブルになります。細かい節税効果に関しては、資産の状況や相続人の状況によります。ぜひ、専門家に相談することをお勧めします。

コンパッソ税理士法人 川崎事務所
税理士 安木 夕夏 (やすき ゆか)
毎月相談会を開くなど、地元に密着した活動を続けられて、土地オーナーや会社経営者から厚い信頼を寄せられているコンパッソ税理士法人。安木先生は、ヘーベルプラザ川崎のセミナーでも人気の講師です。
安木 夕夏 税理士

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