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耐震強度不足が正当事由に!建物明渡しに勝訴!

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2013年6月18日

耐震強度不足が正当事由に!建物明渡しに勝訴!

老朽化した賃貸住宅の耐震性が今の耐震基準を満たさなくなり、それを理由に建て替えを検討するオーナーも少なくありません。建て替えの際、まずクリアしなければならないのが立ち退きです。立ち退きには正当事由が必要ですが、老朽化は正当事由として認められるのでしょうか?その判断基準として参考になる判決が東京地裁で下され、注目されています。

「耐震強度不足」が正当事由として認められる

問題の訴訟は、UR都市機構(以下UR)による「耐震強度不足の建物除去(取り壊し)に係わる明渡し請求訴訟」で、東京地方裁判所立川支部が、UR側の全面勝訴の判決を言い渡したものです。住宅新報4月16日号より、その詳細を見てみましょう。

争点は「家主側が賃借人に退去を求める際の正当事由」が認められるかでした。対象となった物件は、東京都日野市にある地上11階建て、総戸数250戸の賃貸住宅です。URは耐震調査で強度不足が発覚し、初めは耐震改修を検討していました。しかし「改修費用が過大であること」「改修を行っても機能性や使用価値を大きく損なうこと」との判断から、取り壊しを決めました。そして、退去期限とした日の2年前に住民に事前説明をし、2年間は入居者の引っ越し先の斡旋や引っ越し費用を負担、204世帯のうち197世帯は移転が完了。しかし、残り7世帯は補強工事による耐震化を求め入居を続けていたことから、URが2011年に提訴したのです。
これまで、建物の明渡し、いわゆる立ち退き訴訟を起こしてもオーナーはほとんど勝ち目はないとみられてきました。それほど正当事由に対しては厳しく、家賃をずっと払ってないなど、よほどのことがないと認められない、というのが業界の認識でした。しかし、今回は「耐震強度不足」が正当事由として認められる判決となったのです。

住宅新報によると、判決理由は「どのような方法で耐震改修を行うべきかは、基本的に建物の所有者である賃貸人が決定すべき事項である」とし、「その判断過程に著しい誤びゅう(誤り)や裁量の逸脱がなく、賃貸人に対する相応の代償措置が取られている限りは、賃貸人の判断が尊重されてしかるべき」としました。代償措置、つまり立ち退き料は「退去に伴う経済的負担などに十分に配慮した手厚いものと評価できる」内容で、正当事由が補完されると判断しています。

耐震強度不足による賃貸住宅の建て替えの明渡し訴訟で、オーナー側が勝訴。正当事由が認められた。

そもそも正当事由とは?

今回の争点となった「正当事由」とは何か、あらためて解説します。
正当事由とは、オーナーが主に更新を拒絶する場合に必要な理由です。借地借家法では、更新拒絶の際には、正当事由が備わっていなければならないとされています。その正当事由とは次の観点から判断されます。

(1)双方が建物の使用を必要とする理由
オーナーと入居者、どちらがよりその建物または部屋を必要としているかです。これが、本来は主たる理由になります。
(2)これまでの経緯
例えば家賃不払いが続いているなどの場合。これが数カ月続いていれば、正当事由として認められる可能性は高いといえます。
(3)建物の利用状況
入居者が勝手に改築したなど、契約内容に反する使い方をしていた場合などです。この場合は程度によって、ケースバイケースでしょう。
(4)建物の現況
今回の要因となった建物の老朽化や耐震性の問題などです。ただし、単なる老朽化ではオーナーのこれまでのメンテナンスの不行き届きが指摘されることもあり、正当事由としては認められないでしょう。問題は耐震診断をし、強度不足となった場合です。この場合も建て替えでなく、耐震補強で十分と判断されれば正当事由は認められなくなります。しかし、今回の判決では、基本的にはその判断はオーナーにあり、その判断も著しく間違っていないとされました。
(5)立ち退き料の申し入れ
立ち退き料は、これまでの理由を補完するものです。理由がどうであれ、入居者に退去してもらうことで入居者に不利益を被らせていることは間違いありませんので、それをカバーすることになります。理由が弱い場合は、高い立ち退き料が必要となります。

このように正当事由はこれらの要素を総合的に考慮し判断されるのです。

正当事由は、上記(1)から(4)の理由に(5)の立ち退き料の補完を加え、総合的に判断する。

あらためて考える老朽アパートの問題点とは?

賃貸住宅も老朽化すれば、空き室が目立ってきたり、メンテナンス費がかさんだりして経営を圧迫してきます。そして、もうひとつの大切な“入居者に安心・安全な住まいを提供する”というオーナーとしての義務を果たすことができなくなります。
もし、地震で老朽アパートが倒壊、または外壁が剥がれて通行人がケガをした場合は、オーナーの管理責任が問われてしまいます。過去のマンスリーレポート「震災でどうなる!?アパート経営Q&A」でも解説しましたが、予見可能な地震に耐え得る安全性が確保されていたかどうかがポイントになります。予見可能な地震とは、昭和56年以降の新耐震基準でもある震度6〜7に耐えられるかどうかです。
入居者に安心・安全な住まいを提供するためにも、オーナーとして賃貸住宅の耐震性については、しっかりと確保する必要があります。

入居者も建物の耐震性については、阪神淡路大震災、東日本大震災など、大きな地震を経験する度に、部屋選びの基準にするようになってきました。また、いつ来てもおかしくないといわれている南海トラフ地震も度々、被害予測が報道されることも、耐震性への関心が高まっている理由でしょう。

入居者に安心・安全な住まいを提供するとことは、オーナーとしての義務。

立ち退き交渉の参考になる今回の判決

老朽アパートの建て替えを検討している場合は、まずは耐震診断をすることをお勧めします。自治体の中には、無料で耐震診断を行っているところもあります。自治体としても、防災上の問題から耐震・耐火性能の高い建物を増やすことは町づくりの上でも重要な観点なのです。
入居者との立ち退き交渉でも、耐震強度不足の診断を見せれば、スムーズに進むのではないでしょうか。誰も倒壊の危険性がある建物には住みたくないでしょう。そして、退去する入居者への配慮も忘れてはいけません。退去先の斡旋や、引っ越し費用など正当事由を補完することも必要です。

今回の判決は地裁での判決です。通常は、被告が控訴して高裁、最高裁へと裁判は続くケースもあるのですが、今回の判決では異例ともいえる「仮執行宣言」が付いています。これは、被告である入居者が控訴して裁判が継続した場合でも、原告は入居者を法に基づき強制退去させることが可能ということです。もし上級審で判決が覆った場合は、入居者には再入居が認められますが、いったん退去したあとでは、それは現実的ではないでしょう。今回の判決は、入居者にとっては非常に厳しい内容となりました。
南海トラフによる地震が警戒される中、今回のURの判決は、耐震強度不足の民間賃貸住宅の建て替えを検討しているオーナーにとって、大いに参考になるでしょう。

今回の判決では、賃貸人のみが過分な耐震改修が強いられる場合には、貸借人に十分配慮することで、建物の明渡しが認められるという重要な指摘がなされた。

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