2015年1月1日時点の公示地価が発表になりました。ゆるやかな景気回復とともに、地価も上昇傾向にあるようです。3月下旬に発表された公示地価を、大都市圏ごとに見ていきたいと思います。
三大都市圏の公示地価は、昨年、6年ぶりに上昇しましたが、今年の公示地価も前年比で住宅地0.4%、商業地1.8%と共に2年連続で上昇しました。この一年、景気回復も腰折れすることなくゆるやかに進んだ結果が、地価にも表れました。三大都市圏では、住宅地が5割弱、商業地では7割弱の地点が上昇しました。商業地は、全国平均で見ても横ばいとなり、マイナスを脱したのは7年ぶりです。
また、地方中枢都市である札幌市、仙台市、広島市、福岡市の地価上昇率は三大都市圏を上回っていて、地価の上昇傾向が地方都市へ波及していることがうかがえます。一方、地方圏は依然としてマイナスが続いていますが、下落率は縮小しています。
地価回復の要因には、様々なことが考えられます。商業地では、低金利により資金調達が容易になり、都市部を中心とした再開発が進んでいること、円安で海外マネーによる不動産取引も活発になっていることなどがあげられます。オフィスの空室率も改善し賃料が上がっていることから、投資用不動産の売買も活発になっているようです。
住宅地でも、低金利や住宅ローン減税が住宅需要を下支えしています。また、今年から相続税の基礎控除が削減され、最高税率が上がるなど相続税が増税となった影響で、都市部では相続対策として土地活用が活発に進んでいます。これらも、地価上昇の要因となっているようです。
■平成27年公示地価変動率(単位:%)
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住宅地 |
商業地 |
全用途 |
全国平均 |
▲0.4 (▲0.6) |
0.0 (▲0.5) |
▲0.3 (▲0.6) |
三大都市圏 |
0.4 (0.5) |
1.8 (1.6) |
0.7 (0.7) |
東京圏 |
0.5 (0.7) |
2.0 (1.7) |
0.9 (0.9) |
大阪圏 |
0.0 (▲0.1) |
1.5 (1.4) |
0.3 (0.2) |
名古屋圏 |
0.8 (1.1) |
1.4 (1.8) |
0.9 (1.2) |
地方中枢都市 |
1.5 (1.4) |
2.7 (2.0) |
1.8 (1.6) |
地方平均 |
▲1.1 (▲1.5) |
▲1.4 (▲2.1) |
▲1.2 (▲1.7) |
※▲はマイナス、カッコ内は前年
東京圏の住宅地は消費税増税の駆け込み需要の反動があったものの、依然半数以上の地点が上昇しています。特に東京都心部および湾岸部では、東京オリンピックへ向けての交通インフラや街並み整備への期待、そして景気回復や株高を背景に、高額マンションなどの需要が旺盛です。すでに過熱感もあって、昨年売り出された首都圏のマンション平均価格は5,060万円と、22年ぶりに5,000万円を超えました。
住宅地の変動率上位で3位から5位を占めた木更津市は、いずれも東京湾アクアライン着岸地周辺です。アクアライン通行料値下げで通勤利便性が見直されたこと、また、対岸の神奈川県に比べ割安で、高台で津波の心配もないなどの理由から、新興住宅地を中心に人気が高まりました。
商業地では、昨年、川崎や武蔵小杉が変動率の上位でしたが、今年は東京・銀座が上位を占めました。銀座は消費欲旺盛な外国人観光客の増加により、百貨店などの業績が良く、テナント賃料や投資物件の価格を押し上げる傾向にあります。
■東京圏変動率上位─住宅地(単位:%)
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■東京圏変動率上位─商業地(単位:%)
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名古屋は日本経済のバロメータと言われており、三大都市圏の中でもいち早く地価が上昇し始めました。今回は多少上昇率が少し鈍化したものの2年連続の上昇です。
商業地では、JR東海がリニア中央新幹線の整備に着工したこともあり、依然、名古屋駅周辺の商業地の地価上昇が続いています。特に上昇率が高かったのが、リニア中央新幹線の新駅が計画される名古屋駅西口です。今後の開発動向への期待感から全国2位の高い上昇率(16.8%)となりました。西口以外でも、名古屋駅周辺の商業地が上位を占めています。リニア中央新幹線の開業は2027年とまだ12年も先ですが、開業すれば東京・品川駅から名古屋駅まで最速40分で、名古屋から東京圏への通勤も不可能ではありません。経済活動に大きな影響を与えることは間違いなく、今後も上昇が予想されます。
住宅地は、市中心部への交通利便性が良好な地下鉄沿線を中心に、需要が堅調とのことです。上昇地点及び横ばい地点の割合が増加し、半数以上の地点が上昇しています。
■名古屋圏変動率上位─住宅地(単位:%)
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■名古屋圏変動率上位─商業地(単位:%)
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大阪圏の住宅地は、昨年まで6年続いた下落から、やっと横ばいに転じました。上昇率が拡大したのは神戸市灘区、芦屋市、西宮市で、阪神間の需要が堅調に推移したためです。上昇地点および横ばい地点の割合は6割強と、昨年より増加し、下落地点は減少しています。
商業地は、東京同様に外国人観光客の増加の影響があるようで、ミナミの大阪中央区エリアの伸びが目立ちました。上昇率1位は、道頓堀・戎橋のたもとにある商業ビル「Luz(ラズ)心斎橋」11.3%でした。その他も、2013年に開業した「グランフロント大阪」、道頓堀など、観光スポットが上昇率上位を占めています。商業地全体では1.5%上がり、上昇地点も6割弱と増加しています。
■大阪圏変動率上位─住宅地(単位:%)
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■大阪圏変動率上位─商業地(単位:%)
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地価の回復傾向は、一段と強まってきたようです。やはり、アベノミクスによる景気回復が地価にも表れていると言って良いでしょう。
今回は、外国人旅行客の増加が影響したところもあるようですが、円安を背景に今後もこの傾向は続くと考えられます。
また、法人税実効税率が今年度から段階を得て引き下げられることから、企業投資や外資系企業の日本進出を促進し、オフィス需要のさらなる高まりも予想されます。
さらに都市部では今後も再開発が目白押しです。東京ではオリンピック開催に向けた様々な再開発事業、名古屋では、リニア中央新幹線開業の準備、大阪ではJR大阪駅北側の「うめきた」再開発計画などが控えており、商業地は今後も上昇を続けていくものと考えられます。
ただし住宅地では、昨年4月の消費税増税で需要が冷え込んだまま、回復の伸びは鈍重です。資材値上げや人手不足で建設費が高騰している影響で、首都圏のマンション価格が上昇し契約率が落ちています。今年度の税制改正で決まった住宅ローン減税や住宅取得資金の拡充が、どれだけ効果を見せるのか、今後の動向に注目が集まるところです。
一方、懸念されるのは地方圏の地価です。いまだ23年連続マイナスのままで、地価の二極化はさらに鮮明になってきました。人口減少により財政破綻する「消滅可能都市」というキーワードが注目を集めましたが、地方創生はひっ迫した問題です。地方圏の地価が上昇するためには、今後、地方がいかに産業を振興させ、人口減少をくい止められるかが、大きな鍵となっています。
今後の地価動向は、このまま日本の景気が上昇し続けられるかどうかにかかっています。今年の春闘では大企業を中心に賃上げが行われたものの、実質賃金はまだマイナスなのが現状です。先頃発表された日銀短観では、企業の景気判断は横ばいで、あまり芳しくありませんでした。また、都市部の地価上昇は海外投資などにより、すでに過熱ぎみと見られています。まだ、楽観視はできない状況がしばらくは続きそうです。