賃貸市場の繁忙期でもある今春(2017年1月〜3月)の最新家賃動向(首都圏)が、不動産情報サービスのアットホームより発表されました。昨今、供給過剰が懸念される賃貸市場ですが、実際のところ家賃相場はどう動いているのか、データを見ていきたいと思います。
まず、2016年1年間の賃貸市場を見てみます。
最近の報道による賃貸市場は、供給過剰による空室率の増加や賃料の下落が懸念されていました。1年間の動向としては、成約率が悪化するものの、家賃相場は例年どおりの水準でした。
【成約数】
昨年の首都圏全体の成約数は繁忙期を過ぎると軟調に推移し、前年比5.9%の下落となりました。特に、東京23区、神奈川県の下落が大きく賃料の高いエリアでの厳しさが伺えます。一方、千葉県は0.5%上昇し、郊外エリアが堅調でした。
【賃料】
成約数は市場全体の活況の度合いを示しますので、賃料にも影響が出そうでしたが、1m2あたりの成約賃料の首都圏平均は、前年比0.2%の上昇でした。タイプ別に見ても、マンションで0.1%上昇し2年連続の上昇。アパートも0.2%上昇し3年連続のプラスでした。
エリア別に見ると、成約数の良かった千葉県のマンションが2.2%上昇、アパートが2.8%上昇と堅調な動きを見せています。また、成約数の悪かった東京23区もマンションで0.7%上昇、その他東京都下のアパートを除いて全て上昇しました。
上昇幅は小さく上昇傾向とは言えないものの、横ばいで推移といったところでしょう。
2016年1年間の賃貸市場は、成約数こそ落ち込んだものの家賃相場はやや上昇して推移。底堅い動きとなっている。
さて、今春2017年1月〜3月の動向を見てみます。
繁忙期の傾向として見られるのが、出足が早くなっているということ。特に学生は12月からすでに動き始めるといいます。また、3月の合格発表を受けて3月から4月にかけての駆け込み需要もあると聞きます。
ちなみに、学生需要は少子化で減少するようにも思えますが、大学進学率が上昇し学生の数自体は増加しています。また国の政策で外国人留学生を増やす計画もあり、それらを見込んで、大手デベロッパーや大学側が大規模な学生寮の建設を進めているようです。
今春3月の首都圏の成約数は、前年同月比は▲0.5%の下落で、13カ月連続のマイナスとなり、依然成約数は減少しています。しかし、下落幅は2016年3月の▲7.8%よりは改善しています。住宅新報もこのデータを取り上げていますが、下落幅が縮小したことから、今後の賃貸市場の回復に期待できるのでは、という記事を掲載しています。
また、エリア別、タイプ別に見ると上昇も見えてきます。
エリア別では、神奈川県、埼玉県の成約数はプラスに転じていて、神奈川県は4.7%の上昇でした。またアパートは全てのエリアで上昇、首都圏全体でも3.9%の上昇でした。
首都圏の成約数は13カ月連続マイナスだが、下落幅が縮小。エリア別、タイプ別しているものもあり、賃貸市場の回復に期待が持てる。
2016年は成約数が伸び悩む中、家賃相場は横ばいと底堅い動きを見せていました。この傾向は、今年も続いていますが、エリアによってはさらに堅調な動きも出ています。
【マンション】
マンションは3月に入り、前年同月比で下落となりました。首都圏全体では前年同月比で▲1.2%となっています。しかし、エリア別に見ると神奈川県は1月〜3月にかけて前年同月比は全て上昇しました。
東京23区は3カ月連続減少ですが、減少幅は少なく横ばいに近い状況です。2016年の動きでもそうでしたが、東京23区以外の郊外や近隣県で若干、回復しつつあるようにも見えます。ちなみに、3月の1戸あたりのマンション首都圏成約家賃平均は8.31万円です。
【アパート】
アパートは2月に減少しましたが、3月に再び1.6%上昇しました。エリア別に見ると、3月に入り千葉県以外は上昇しました。埼玉県は3カ月連続の上昇、神奈川県は3月に3.8%と大きく上昇しています。
マンション同様、都心部よりも郊外の回復傾向が見てとれます。3月の1戸あたりのアパート首都圏成約家賃平均は6.03万円です。
賃貸市場を取り巻く環境の変化としては、地価の上昇があります。今年の公示地価は、三大都市圏で4年連続の上昇、住宅地の全国平均が9年ぶりに上昇、地方中核都市でさらに上昇といった傾向が見られました。しかし、地価上昇の影響は、家賃相場では見られません。
やはり、景気の回復が本格化しないと、家賃相場の回復とはいかないかもしれません。
家賃データは1戸あたりの賃料、1m2あたりの賃料など算出方法で違いが出ますが、アットホームでは2009年の1月を100とした賃料指数も発表しています。過去8年間の、大まかな家賃の推移を見ることができます。
2009年1月時点から見ると少し下がってはいますが、繁忙期と閑散期を繰り返しながらも、とても安定して推移していることが分かります。例えば、「アパート1戸あたり賃料指数の推移(首都圏・東京23区・東京都下)」のグラフを見ても、この数年は、2009年1月時点を上回る月も出ています。
景気動向は依然先行きが不透明ですが、よほどのことがない限り、家賃相場はこのまま安定して推移するように思われます。
賃貸市場は成約数が伸び悩んでいるが、家賃相場は安定して推移している。家賃相場は、地価動向や景気動向などの影響が出ておらず、このまま微増、微減を繰り返すと考えられる。