地価や分譲マンションの価格上昇に遅れる形で、この2、3年で賃貸住宅の家賃は上昇しています。一般的にインフレ時には他の物価上昇に遅れて家賃も上昇するといわれていましたが、今回も同様の傾向になりました。特にファミリー物件の上昇が顕著です。三大都市圏を中心にこの一年の家賃相場を振り返ります。
不動産情報サービス・アットホームの「全国主要都市の「賃貸マンション・アパート」募集家賃動向(2023年9月)」から、マンションの世帯別平均家賃と平均家賃指数(2015年1月=100)の推移について、今年9月までの動向を見ていきます。
昨年から上昇傾向にあったファミリー向きの家賃は、今年もさらに上昇しています。特に東京23区、東京都下、埼玉県、名古屋市で2015年1月以降の最高値を更新。大阪市のファミリー向きは前月比で少し下落したものの、前年同月比では+13.9%と、全エリアの上昇率1位です。
また、シングル向きの前年同月比トップ3を見ると1位東京都下4.6%上昇、2位埼玉県4.0%上昇、東京23区3.9%上昇です。郊外人気と都心回帰の二極化傾向が見られます。
それでは細かい動向をエリアごとに見ていきましょう。なお、面積帯は30m²以下を「シングル」、30m²~50m²以下を「カップル」、50m²~70m²以下を「ファミリー」、70m²超を「大型ファミリー」としています。
23区はコロナ禍の2021年までは軟調な動きでしたが、2022年から徐々に上昇傾向にあり、2023年9月は全面積帯で家賃は前年同月比を大きく上回りました。
具体的にはシングル+3.9%、カップル+6.6%、ファミリー+9.8%、大型ファミリー+10.9%の上昇です。ファミリー、大型ファミリーの10%前後の上昇はこれまでになく、家賃で見るとファミリーは+19,381円、大型ファミリーは+36,309円もの上昇です。ファミリーは前月から-17円の下落でしたが、大型ファミリーともに2015年1月以降の最高値となっています。
コロナ禍では家賃が下落していたシングルも今年に入って家賃が上昇、2015年1月以降の最高値となり都心回帰の傾向が見られます。
東京23区同様、平均家賃が全面積帯で前年同月比を上回りました。コロナ禍から郊外人気が話題となっていましたが、家賃もファミリーを中心に2021年の初め頃から上昇を始め、コロナが収束に向かっても衰えることはなく人気が定着しているようです。ファミリーは2015年1月以降の最高値となっています。
また、今回特徴的なのはシングルが好調なことです。平均家賃の前年同月比は+4.6%と、他のエリアと比べると上昇率は1位でした。東京都下といっても吉祥寺や三鷹など人気のエリアもありますが、郊外エリアの八王子、立川も人気で、東京23区と合わせてシングルのニーズも郊外に広がっていると見ることができます。
大型ファミリーがコロナ禍や分譲マンション価格の高騰などから2020年から大きく上昇してきましたが、今年も高値で推移しています。
ファミリーは2022年から上昇を始め、今年も一段高値で推移しています。平均家賃の前年同月比で見ると上昇率は+3.7%です。
出遅れていたシングルも今年の後半から上昇し、2015年1月以降の最高値となっています。
2021年からどの面積帯も上昇していましたが、今年の後半からさらに上昇基調を強めました。平均家賃の前年同月比は三大都市圏の中でも大きく上昇しています。シングルが+4.0%、カップルが+5.5%と好調。さらにファミリー+12.0%、大型ファミリー+12.7%と大きく上昇しています。家賃で見るとファミリー+11,608円、大型ファミリー+17,683円の上昇です。
シングル、ファミリー、大型ファミリーは2015年1月以降の最高値、カップルもほぼ同水準で、郊外人気の影響が今も続いているようです。
今年は地価の上昇が目立った千葉県ですが、家賃は安定して推移しています。
埼玉県や神奈川県同様、大型ファミリーが2020年から大きく上昇を続けていましたが、今年の6月に高値を付けてから一服感が見られます。それでも平均家賃の前年同月比は+3.8%です。
それ以外の面積帯もカップルが前年同月比で-0.1%下落したものの家賃指数は安定しています。
昨年は名古屋市も大阪市も横ばいでしたが、名古屋はゆるやかに上昇、大阪市は大きく上昇しています。今年の傾向を見てみます。
家賃指数は上がったり下がったりを繰り返しているようですが、9月の平均家賃の前年同月比は全面積帯で上昇しています。最も大きな上昇は大型ファミリーの+5.3%でした。
名古屋市の特徴はシングルの家賃指数が高いことです。コロナ禍でもゆるやかに上昇を続けてきました。今年もいったんは下落しましたが再び上昇基調になっています。
ファミリーが夏頃から上昇を始め、家賃指数はシングルを抜きました。平均家賃の前年同月比も+3.9%で、2015年1月以降の最高値です。
大型ファミリーは今年の5月に最高値を更新後下落していますが、平均家賃の前年同月比は全面積帯で上昇しました。昨年まで、他の三大都市圏の中では上昇基調が弱かったのですが、今年は大きく上昇しました。シングル+3.9%、カップル+6.7%、そしてファミリー+13.9%、大型ファミリー+10.3%と大きく上昇です。家賃で見るとファミリー+16,561円、大型ファミリー+21,684円の上昇です。
東京圏に比べて出遅れ感もありましたが、カップル、ファミリー、大型ファミリーが昨年の9月頃から一気に上昇基調が強まった感じです。
今年の全体的な家賃相場の特徴は、1月に繁忙期のピークを迎え、3月に向かって軟調になるなどピークが早まったこと。そして通常は4月になると賃貸市場は閑散期となり家賃相場も軟調になるのですが、逆に4月から家賃相場は上昇し続け9月に至っています。
コロナが5類に移行されたのが今年の5月。ここから、経済活動が本格化し始めたのが家賃相場上昇の一つの要因かもしれません。
分譲マンションの価格高騰も止まらず、ファミリー層が賃貸市場に流れていることもあるでしょう。このニーズに応えるべく、高品質なファミリー向け賃貸住宅が供給され、家賃相場の上昇をけん引しているようです。
またファミリー層に定着した郊外人気が、シングルにも見られます。東京23区では都心回帰が進み、23区のシングル家賃が上昇したのと同時に、郊外のシングル家賃も上昇しています。
懸念されるのは家賃上昇に入居者が対応できるかですが、今のところ、都心から郊外まで市場エリアが広がったことで、入居者のライフスタイルや経済状況に合わせた選択肢がたくさんできたため問題はなさそうです。合わせてファミリー層も共働きが増え、家賃が高くても高品質な賃貸住宅を求めているようです。
とはいえ、インフレや景気後退懸念がありますので、今後の入居者のマインドがどうなるのか、不透明な部分はあります。今後も家賃動向に注視していきたいと思います。