一年に一度のアパート経営の決算、確定申告の時期が近づいてきました。一年に一回の申告なので、なかなか慣れないものですが、期限ぎりぎりになって慌てないためにも早めに準備をしたいものです。今回は、アパート経営の帳簿と青色申告について解説します。帳簿の作成については簿記の言葉が耳慣れず、ハードルが高く感じられる人もいるでしょう。そのために、節税効果の高い青色申告を諦めてしまう方も少なくありません。まずは、経理業務を正しく把握し、一つひとつ、ハードルをクリアしていくことが節税への王道です。
アパート経営は他の事業に比べ金銭の出入りも少なく、戸数がそれ程多くなければ帳簿付けも最低月1回行えば良いでしょう。そして、この時期は1年間の漏れがないか、チェックすることをお勧めします。
中には自分は白色申告で規模も小さいから帳簿付けも必要ないと思っているオーナーもいるかもしれませんが、注意が必要です。今年(平成26年1月1日)から、白色申告でも全ての人に「記帳と帳簿類の保存」が義務化されます。
これまでは、白色申告で前々年分または前年分の不動産所得が300万円以下の場合は、記帳や帳簿類の保存の義務はありませんでした。しかし、これからは義務となります。
保存については帳簿(法定帳簿)が7年、請求書や領収書などの書類が5年です。
●白色申告の帳簿・書類の保存期間
保存するもの |
保存期間 |
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帳簿 |
法定帳簿/家賃収入や必要経費が記載された帳簿 |
7年 |
任意帳簿/上記以外に任意でつくった帳簿 |
5年 |
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書類 |
領収書、納品書、請求書などの書類 |
5年 |
確定申告の前に1年間の帳簿の記入漏れがないかをチェックする。
また、今年から白色申告でも記帳および帳簿類の保存が義務化されるので注意。
オーナーの中にはまだ白色申告の方も少なくありません。理由は、規模が小さいから、青色申告は難しい、帳簿付けが面倒、といったところです。しかし、全ての白色申告者の記帳が義務化になったことで、青色申告との記帳の手間はほとんど変わらないことになります。また、規模は小さくても青色申告のメリットはあります。これまで白色申告だったオーナーにとっては、青色申告へ切り替えることで大きな節税効果が期待できることになるのです。
ここで、青色申告のメリットをおさらいしておきましょう
複式簿記による帳簿を作成し、決算書(貸借対照表、損益計算書など)を提出すれば、65万円の青色申告特別控除を受けることができます。ここで、大きなハードルとなる複式簿記と決算書ですが、これは会計ソフトを使えば知識がなくても自動で作成してくれます(詳細は後述)。
また複式簿記でなく、事業的規模(概ね10室または5棟の経営規模)でない場合でも10万円の青色申告特別控除が受けられます。
効果! この65万円、10万円の控除は単純に必要経費が増えると考えて差し支えありません。65万円の必要経費が増えると、少なくともその65万円からの所得税、住民税が節税できるということです。所得税の最低税率5%、住民税が10%の場合、65万円×15%=97,500円の節税効果があることになります。 |
事業主と生計を一にしている配偶者や15歳以上の親族で、アパート経営の仕事を手伝ってもらっている場合は、その仕事の内容に合った適正な金額であれば、上限なく給与を支払い、その分を全額必要経費に算入することができます(事業的規模のみ)。年間の給与が103万円以下であれば、もらった本人にも所得税はかかりません。
注意! 配偶者を青色事業専従者にすると配偶者扶養控除38万円が受けられなくなりますので、青色事業専従者にする場合は、少なくとも年間38万円以上の給与がないとメリットがなくなりますので、注意してください。 |
アパート経営当初は、減価償却などの経費がかさみ、帳簿上赤字になることがあります。その場合、余った赤字(純損失)を翌年以降3年間にわたって、各年分の所得から差し引くことができます。
これは特例措置ですが、30万円未満の減価償却資産を取得したときは、減価償却せずに、一括で必要経費に算入することができるというものです。例えば、新たにセキュリティ設備を25万円かけて設置した場合、その費用は一括して必要経費に算入できます。ただし、年間の合計額が300万円が限度となっています。
注意! 青色申告に切り替えるには、今年の3月15日までに、青色申告承認申請書を納税地の所轄税務署に届ける必要があります。今度、確定申告する平成25年分は白色申告のままで、平成26年から青色申告となります。青色申告承認申請書を提出しても、承認した旨の通知などはありません。また、青色事業専従者給与を支払う場合も届出が必要となります。 |
青色申告は節税効果が期待できる!白色申告の記帳・帳簿保存の義務化で、青色申告との手間はほぼ同じ。これを機に青色申告へ切り替える。
次に、青色申告に必要な帳簿について解説します。
税務署発行のパンフレットによると、不動産所得者の簡易帳簿の一例として(1)現金出納帳、(2)収入帳、(3)経費帳、(4)固定資産台帳の4種類を挙げています。
家賃を受け取ったり、修繕費など必要経費を支払ったりと賃貸経営に関する金銭の出入りを記入する帳簿です。一般的に、今は家賃は口座振り込みが多く、必要経費の支払いも口座から振り込むケースが多いでしょう。従って、賃貸経営専用の口座を作り、預金出納帳を作成する方が分かりやすいでしょう。口座の通帳と預金出納帳はほぼ同じになり、チェックしやすいのもメリットです。
家賃、礼金、敷金、更新料、共益費などを記入する帳簿です。一般的にいう売掛(売上)帳です。家賃の滞納があった場合も、本来の契約日に収入があったものとして売上に計上します。これを発生主義といいます。例えば平成25年12月30日に振り込まれるはずの家賃が今年の1月6日にずれ込んだとしても、平成25年の売上として確定申告します。
また、敷金は退室時に返還するものなので、預り金とし、売上には計上しません。退室時にクリーニング代を差し引いた場合は、その金額を売上として計上します。
さまざまな必要経費を記入する帳簿です。修繕費や租税公課、借入金利子、広告宣伝費、青色事業専従者給与など、それぞれの費目(費用項目)ごとに分けて記入します。ちなみに、費目はこれでなくてはならないというルールはありません。分類しやすいように、費目は自由に設定しても構いません。
まず、この3種類が日々、記帳する帳簿です。
家賃が振り込まれる日には、収入帳と現金出納帳(または預金出納帳)の両方に記帳します。修繕費を支払った場合は、経費帳と現金出納帳(または預金出納帳)の両方に記帳します。
アパート本体や設備などの減価償却資産を記入する帳簿です。この台帳は年末にまとめて記帳し、その年の減価償却費を算出します。減価償却費は、実際の支出はありませんが、必要経費として計上します。
節税の基本は、帳簿づくりから。漏れのないように正確に記帳する。
上記の帳簿は、あくまで簡易帳簿です。青色申告特別控除65万円を受けるには、複式簿記の帳簿「総勘定元帳」が必要になってきます。しかし、素人が複式簿記をマスターするのは、至難の業です。そこで、先にも解説した会計ソフトの活用をお勧めします。
価格も1万円程度のもので十分です。高価な会計ソフトは、賃貸経営には必要のない機能も多く、かえって混乱してしまいがちです。
家賃が振り込まれる日には、収入帳と現金出納帳(または預金出納帳)の両方に記帳しますと前の項で述べましたが、会計ソフトの場合は、どちらか一方に記入すればもう一方に自動的に反映されますので、作業も効率的です。さらに、簡易帳簿に記入すれば、複式簿記の帳簿「総勘定元帳」に自動で反映されます。確定申告時には、貸借対照表、損益決算書を含む決算書も自動で作成されます。また、確定申告書も作れるサービスもありますので、とても便利です。
複式簿記に対応するには会計ソフトの活用が便利。簿記の知識がなくても総勘定元帳、貸借対照表、損益決算書が簡単に作成できる。