化学装置材料の基礎講座

第21回 圧力容器の製作を依頼する場合に製作者に要求するWPS 、PQRとは何ですか?

   容器を製作する際、依頼者が製作メーカの溶接施工実績とその溶接品質を確認し、実際の溶接施工要領を決定するために、製作メーカから提出される書類です。圧力容器など法令上の規制がある機器や依頼者から品質水準面の要求がある機器の溶接について、依頼者と製作メーカ間でこれらの書類で確認(契約)します。

   WPSとは、Welding Procedure Specificationの略で「溶接施工要領書」を意味します。実際に施工する溶接方法、継手の種類、母材や溶接材料、溶接条件、熱処理等の溶接施工条件の詳細を記載した書類です。

   PQR とは、Procedure Qualification Recordの略で「溶接施工方法確認試験記録」を意味します。溶接継手の強度試験や非破壊検査等の性能試験記録で、製作メーカが所定の品質の溶接施工が可能であることを確認し、WPSを決定する際の裏づけとする書類です。試験した継手の溶接施工条件もPQRに記載されます。(試験をおこなった溶接のWPSとセットで提供される場合もあります。)

   製作メーカが、PQRで品質保証した溶接条件の下で製作する機器についての実際の溶接施工要領をWPSとして提案し、依頼者がそれを承認することで、実際の施工要領を決定することになります。

   なお、PQRの試験対象となる溶接継手の溶接構造や条件は、WPSで提案する実際の溶接と厳密に一致する必要はありません。母材の材料や溶接材料、母材の厚さ、予熱や後熱処理の有無などの諸条件が同じ“区分”であれば、異なる材料や構造の溶接のPQRでも、WPSの根拠とすることが可能です。“区分”は、JISB8285やASME Sec.Ⅸなどに示されています。例えば、JISB8285において母材はP番号およびグループ番号で区分されており、SUS304とSUS316は区分8Aで同じ区分に属します。同じ区分であれば、過去に行った類似の溶接施工条件でのPQRが使用できます。ただし、PQRやWPSに記載すべき内容や区分は、規格や法規によって異なりますので適用される規格や法規の確認が必要です。

   機器を海外で調達する場合、PQRやWPSについて製作メーカの理解が十分でない場合があります。このため製作メーカより提出されたPQRやWPSの内容を依頼者が適切に評価する必要があります。依頼者も適用する規格や法規に沿って、これらの内容を把握し、必要に応じて、製作メーカに具体的な指示を出すことが重要です。

   また、新たに製作する機器で採用する溶接条件と同じ区分の溶接実績や試験データが製作メーカに無いケースでは、製作メーカでPQRを作成するために新たな溶接サンプル製作と試験が必要です。PQRとWPSの提出を要求する場合は、製作メーカによってはその分の作業時間を全体スケジュール上で見ておく必要があります。

別表 PQRとWPSの記載内容(例)
  WPS PQR
名 称 溶接施工要領書 溶接施工方法確認試験記録
意 義 実際に行う溶接施工条件 WPSの裏づけとなる性能試験記録
記載内容 <実際の溶接施工条件>
溶接方法、継手構造、形状、母材、 溶接材料、溶接条件、熱処理
<試験した継手の溶接施工条件>
溶接方法、継手構造、形状、母材、 溶接材料、溶接条件、熱処理 (試験を行った溶接のWPSとセットで提供される場合もある)
<試験項目と結果>
外観、非破壊検査、強度試験
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