第20回 微生物がステンレス鋼を腐食させると聞きました。その内容について教えてください。
微生物の影響で著しい腐食が生じる現象があります。これは、微生物が直接金属を溶解させるのではなく、生物活動で生じる代謝物が、金属材料に対して腐食性(酸化性上昇や環境の過酷化)を示し、金属材料に腐食が発生する現象です。このため、この種の腐食は微生物誘起腐食(MIC:Microbially influenced Corrosion、以下微生物腐食)と呼ばれています。
土壌や淡水などの微生物が生育できる環境において、炭素鋼やステンレス鋼、ニッケル基合金など様々な金属材料に対して微生物の誘起あるいは加速した腐食が生じた報告があります。このうち、化学プラントでしばしば問題となるのが、淡水中のステンレス鋼の微生物腐食です。例えば、冷却水やボイラー水の補給水(給水ではない)のラインでステンレス鋼を採用した場合、微生物腐食により、数ヶ月で漏れが発生することがあります。
ステンレス鋼に発生する微生物腐食の特徴として、腐食速度が著しく大きいこと(場合によっては、数十mm/y)があります。また、開口部が狭く内部が広がった、いわゆるたこつぼ状の腐食形態や溶接金属の組織選択的な溶解が生じる場合があることも特徴のひとつです。しかし、この腐食に微生物が関与していることを断定することは難しく、先ほど延べた腐食速度や形態などの状況証拠や他の腐食要因がないことからの消去法など、総合的に判断する必要があります。
微生物腐食抑制対策としては、殺菌が有効です。殺菌剤は間欠で添加するより、連続で添加する方が効果的です。ただし、殺菌剤である次亜塩素酸ナトリウムやオゾン殺菌は強い酸化性を有するため、過剰な添加はそれ自体が腐食原因となる可能性があり添加量には注意が必要です。淡水に次亜塩素酸ナトリウムを連続注入する場合、添加量の目安は、残留塩素濃度として、 0.1~0.3ppm以上で1ppm以下です。添加位置では上限を超えないこと、末端では下限の濃度以上あることが必要です。ただし、バッチ式殺菌では、短期的に残留塩素濃度1ppmの上限を超える添加が行われたり、プロセスによって、殺菌剤の管理値は異なります。
また、ステンレス鋼に発生する微生物腐食は多くの場合、溶接の溶込不良や溶接焼けなどのすきま部を起点として発生します。その場合は、裏波を出す溶接を行うとともに酸洗により溶接焼けを除去することや構造的に可能ならば両面からの溶接を行うなどしてすきまを無くすことが有効です。
なお、私どもが行った微生物腐食の検討において、腐食を再現することがなかなか難しかった経験があります。また、一過式の冷却水で殺菌ができないケースで有効な対策が見つからず、ステンレス鋼の使用を断念したことがあります。微生物腐食は、現象が完全に解明されていないこともあり、原因の特定や対策に難しいことがあるというのが印象です。
参考図書:エンジニアのための微生物腐食入門、腐食防食協会編、丸善株式会社