2007年7月3日

各 位
旭化成ファインケム株式会社
旭化成ケミカルズ株式会社


新規キラルリガンド「CBHA」の工業化技術を世界で初めて確立
〜不斉酸化触媒用として試薬の販売を開始〜


 旭化成ケミカルズ(本社:東京都千代田区 社長:藤原 健嗣)の100%出資子会社である旭化成ファインケム株式会社(本社:大阪市西淀川区 社長:森山 直樹)は、医薬品の副作用抑制等に効果のある光学活性体の開発・製造用不斉酸化触媒に用いられる、新規キラルリガンド(触媒配位子)「キラルビスヒドロキサム酸リガンド『CBHA』」の工業化技術を世界で初めて確立し、7月9日(月)から試薬販売しますのでお知らせします。
 「CBHA」は、医薬品開発・製造時に従来の不斉酸化用リガンドでは、使えなかったり、低い光学純度しか得られなかった領域に用いることで、高い光学純度が得られます。また、酸化反応を行う際の安全性の大幅な改善、製造プロセスの簡略化も期待されます。
 当社は、試薬の販売を開始するとともに、さらに本技術を用いて光学活性医薬中間体の製造受託も行ってまいります。

1.背景と当社の展開
 近年、医農薬や機能材料分野では、薬効や副作用の面から光学活性有機化合物への需要が高まり、不斉合成や光学分割のキラル技術が注目されています。
 化学物質の中には、同じ組成でも左右対称の立体構造を持つ光学異性体(鏡像異性体)と呼ばれる分子が存在します。光学異性体は、生体内での働きが異なるため、医薬品や農薬、調味料、香料などでは、特定の効能を発揮する一方の異性体の高純度化が重要です。とくに医薬品では、光学異性体が存在する場合は副作用が出るという問題があるため、有用な異性体の純度を高くすることが求められています。高純度化には光学分割による分離という方法がありますが、光学活性体が半量しか取得できず、生産効率面で問題があります。
 このため、不斉触媒を使って、目的の物質だけを高い光学純度で効率よく選択的に合成する不斉合成技術が医薬品などの製造プロセスに導入されています。不斉合成では、水素を付加する不斉還元技術が幅広く工業化されていますが、 一方酸素を付加する不斉酸化技術は、これまで安全面や光学純度、開発・製造における機能やコスト等から限られた範囲でしか使用されていませんでした。
 このたび工業化技術を世界で初めて確立した「CBHA」は、シカゴ大学山本尚教授が発明されたビスヒドロキサム酸構造をもつ不斉酸化用新規キラルリガンドです。バナジウムやモリブデンなどの金属と組み合わせて触媒として使用することで、従来の不斉酸化技術の課題を解決できると期待されています。
 当社は、山本教授の指導を得ながら工業化技術開発を行ってまいりました。このたび、シカゴ大学、科学技術振興機構(JST)から本技術の特許優先実施権を取得し、医薬中間体分野での不斉酸化技術展開に適したリガンドの市場開拓、本技術を活用した光学活性医薬中間体の製造受託も展開する計画です。
 
2.「CBHA」の不斉酸化技術の特長
従来の不斉酸化技術であるシャープレス酸化に比べて以下の特長を有します。
 
(1) 幅広い基質に対して、高純度の光学活性体が取得可能従来法では困難であった小さな分子、ホモアリルアルコール、単純オレフィンやシス体のアリルアルコールに対し高い立体選択性を有し、高純度の光学活性体を得ることが可能。
 
(2)反応条件がマイルドで後処理操作も容易
  1) 0℃〜室温での反応が可能。(従来法では−20〜−40℃の低温環境が必要)
  2) 水分の存在下でも高い立体選択性が維持される。
  3) 脱水剤使わないため反応後に除去する必要が無く、抽出時の分離性も良好。
  4) 触媒使用量が基質に対して1mol%以下と少ない。
 
(3)プロセス面、環境面での安全性が高くスケールアップがしやすい
  1) 酸化剤の脱水工程が不要であり、爆発の危険性が低い。
  2) 環境面で問題とされるハロゲン化溶媒を必要としない。
 
(4)開発のスピードアップと工業化におけるプロセス簡略化
  1) 幅広い基質への対応性
  2) 従来法では困難であった製造プロセスの採用が可能
 
「CBHA」の構造式
 
以上
 
<ご参考>
  旭化成ファインケム株式会社の概要
  (1) 社 長 森山 直樹
  (2) 設 立 1960年12月
  (3) 資本金 1億7500万円(旭化成ケミカルズ(株)100%出資)
  (4) 本 社 大阪市西淀川区福町1丁目8−7
  (5) 工 場 開発製造所:大阪市西淀川区、延岡製造所:宮崎県延岡市
  (6) 従業員数 約140名(2007年3月末)
  (7) 売上高  31億9600万円(2007年3月期)
  (8) 事業内容 機能化学品の製造販売
−樹脂添加剤、医薬中間体・原体、電子材料用原料、他
 
【用語解説】
光学活性体: キラル化合物とも呼び、光学異性体の内どちらか一方が過剰に存在する化合物。
キラルリガンド: 触媒において中心の金属のまわりに配位している有機化合物をリガンド(触媒配位子)という。光学活性なリガンドをキラルリガンドと言い、不斉合成に於いて立体を認識する重要な役目を果たす。
光学純度: 光学異性体の一方を他方より多く生成する割合。光学異性体が1対1で存在するラセミ体の場合光学純度0%。
ヒドロキサム酸: C(=O)N(OH)結合を有する化合物。
不斉合成: 光学活性の無い分子(基質化合物)から一方の光学活性体のみを合成する方法。
光学分割: ラセミ体から一方の光学活性体を取り出す方法。
キラル技術: 光学活性体を選択的に製造する技術であり、大きくは不斉合成と光学分割。
光学異性体: 右手と左手の関係のように、鏡に映った鏡像のような関係にある異性体を言う。物理的性質、例えば沸点や密度などは同一であるが、生理活性は異なり、生体に対して影響する。医薬品や農薬、調味料、香料などもどちらか一方の光学異性体しか効力がない場合が多い。
不斉触媒: 不斉合成に用いられる触媒であって、光学活性体を得るために反応に用いる。
不斉還元: オレフィン等の二重結合に水素を付加することによって、光学活性体を製造する技術で不斉水添とも言う。
不斉酸化: 化合物に酸素を反応させる際、光学異性体の内一方の異性体を選択的に製造する技術。
シャープレス酸化: 酒石酸エステルをキラルリガンドとしてチタンを用いた不斉酸化触媒で、アリルアルコールのエポキシ化に用いられる。
基質 化学反応を起こす前の化合物、原料。
ホモアリルアルコール: オレフィンの二重結合の炭素に炭素を2個隔ててアルコールが結合したもの。
単純オレフィン: 炭素−炭素の二重結合を持つ炭化水素のこと。
シス体: 二重結合の2つの炭素それぞれに置換基がある場合、置換基が同じ側にある場合をシス体、対角線側にある場合をトランス体という。
アリルアルコール: オレフィンの二重結合の炭素に炭素を1個隔ててアルコールが結合したもの。
立体選択性: 光学異性体のうちどちらか一方を選択的に製造する際の選択性。

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