1.開発の背景 |
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最近の社会環境では、生活の時間帯が不規則になりがちで、様々なストレスを受けることが多いためか、日本人の5人に1人が睡眠の問題を抱えているとも言われます。旭化成ホームズが自社の顧客(ヘーベルハウス居住者)を対象として平成18年3月に実施したモニター調査の結果では、夏の寝苦しさに関する悩みを抱える人が多く、その約7割が冷房を使用している一方、「冷風が身体に直接あたる」「冷えすぎる」「身体がだるくなる」「音がうるさい」「肌が乾燥する」など、寝室の冷房に対して不満が大きいことがわかりました。
一方、幅広い分野にわたる事業を手がける旭化成グループでは、各事業会社の持つ技術や知見を活かしてシナジーを高めることを目指しており、旭化成せんいと旭化成ホームズの間でも平成17年11月から共同研究活動を開始し、テーマの1つとして三次元立体編物「フュージョン」を活用した住生活分野での技術開発を研究してきました。その中で、立体の形態保持性や通気性などフュージョンの特性を活かした用途として、寝室に適した冷暖房システムの研究を始めました。特に、平成19年10月には旭化成富士支社内に旭化成ホームズ住宅総合技術研究所を設立、その屋外ゾーンに設けた実証棟において、平成20年2月から更に本格的な実証実験を行ってきました。 |
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2.システムの構成 |
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「フュージョン」冷暖房システムは、ヒートポンプ式冷暖房の天井埋め込み型室内機の吹き出し口(ダクト先端)の周辺に、天井面に広さ約90cm×180cmのフュージョンを設置するシステムです。フュージョンの立体構造により、ダクトから吹き出した冷風(温風)は一旦、天井面に張ったフュージョン全体に拡散・滞留し、全体からゆっくり均一に下りていく仕組みです。 |
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『フュージョン冷暖房イメージ』 |
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『フュージョン拡大写真』 |
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『天井部模式図』 |
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『フュージョン構造模式図』 |
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3.システムの特長 |
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(1)風を感じにくい |
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冷風を小さな吹き出し口から直接吹き出す一般的な冷暖房室内機と違い、天井面に張ったフュージョンの立体構造を通し冷気をゆっくりジンワリと下ろすことにより、風量を調節する仕組みとなっています。フュージョンを通して下りてくる冷気は、ほとんど風を感じないレベルの風速(約0.2m/s以下程度)となりますので、睡眠時の冷房に関する悩みの1つである「冷風が身体に直接あたる」という不満が解消されます。 |
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(2)高さ方向の温度分布が均一 |
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一般的な冷暖房では天井付近と床付近で約2度の温度差があるのに対し、「フュージョン」冷暖房システムでは温度差がほとんど見られず、足元が冷えすぎるということがありません。 |
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(3)夫婦それぞれの好みに応じた風量設定が可能 |
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主寝室では、夫婦それぞれの冷房に対する好みが異なり、同一の部屋では快適な睡眠が得られないことがよくあります。「フュージョン」冷暖房システムでは、それぞれのベッドの上(天井面)に設置するフュージョンの密度を変えることで、それぞれの吹き出し口の風量を異なる設定にすることが可能です。 |
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(4)暖房時における特長 |
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「フュージョン」冷暖房システムの開発にあたっては寝室における快適な睡眠を主眼に置きましたが、暖房時においても基本的には冷房時と同じ特長を有します。温風の吹き出し方は冷房と同じであるため風を直接感じにくく、また、概ね人の頭部の高さにあたる1.8m程度から足元にかけて高さ方向の温度分布がほぼ均一なので、快適な暖房効果が得られます。 |
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4.実験による評価について |
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睡眠に関する「フュージョン」冷暖房システムの効果を評価するために、試作機による実証実験を現在も続けています。
一般的な冷房に比べ、フュージョンの冷房の方が人に与える生理学的ストレスが小さく、いたずらに交感神経を刺激しないことがわかりました(『BUILDING AND ENVIRONMENT』掲載予定)。従って、睡眠時に大切な副交感神経が優位な状態を保てると考えられます。また、被験者を用いて脳波・心電図・深部体温などの測定を行い、睡眠の深度や緊張感などを評価する実験も実施しています。このような生理学的な分析は、今後も更に続けていく予定です。 |
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【「フュージョン」冷暖房システムを設置した寝室】 |
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以上 |
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