2009年5月28日

各 位
旭化成ファインケム株式会社


導電性を飛躍的に向上させるビニルスルホン酸ポリマーの開発
〜従来の導電性高分子化合物に比べ、約100倍の導電率を達成〜
 

 旭化成ケミカルズ株式会社(本社:東京都千代田区 社長:坂本 正樹)の100%子会社である旭化成ファインケム株式会社(本社:大阪市西淀川区 社長:森山 直樹)は、当社が工業化した低金属含有率(100ppb以下)のビニルスルホン酸(製品名:VSA-S)のポリマーであるポリビニルスルホン酸(以下、PVS)の開発に成功しましたので、お知らせします。
 PVSを導電性高分子の化合物(ドーパント)※1として用いることで、従来に比べ約100倍高い導電率の実現が可能となりました。
 このPVSは、今後のエレクトロニクス産業、環境エネルギー分野等での技術開発のための新素材として期待されます。
 
1. 背景
   有機EL、太陽電池、エレクトロニクスデバイス等の製造技術を支える素材として、電気を通す導電性プラスチックに使用される導電性高分子は、部品の超軽量・薄型化を図るために多くの研究開発が行われています。
 導電性高分子は、微量の化合物を添加するドーピングにより電気が流れます。また、導電性高分子を基板、フィルム上に塗布して使用可能にするためにもドーパントが使われます。
 当社では、導電性高分子の機能を高める研究開発を進め、このたび、ドーパントとして活用できるPVSの合成技術を開発しました。
 
2. PVSの導電性高分子ドーパントとしての特長
   現状では、導電性高分子材料としてはPSS(ポリスチレンスルホン酸)をドーパントに用いたPEDOT/PSS※2が、一般的に使われています。今回、PVSをドーパントとして用いたPEDOT/PVS※3が、PEDOT/PSSに比べ以下の特長を有していることが判明しました。
 
  (1) 高導電率
    PEDOT/PVSは、一般的に使用されているPEDOT/PSSに比べ約100倍の導電率を有し、導電性能が大きく向上しました。
 
  (2) 平滑性の改善
    PEDOT/PVSは、同一条件下で基板上に塗布した場合、PEDOT/PSSに比べ表面の平滑性が改善されました。
 
  (3) 光透過率の改善
    PEDOT/PVSは、PSSが有するスチレンスルホン酸の芳香環に起因する吸収が無いため、PEDOT/PSSに比べ200〜300nm領域でのUV光の透過率が大きく向上しました。
 
   これらの特性は、近い将来、実用化が期待されている塗布型有機EL、表示素子、有機太陽電池、有機トランジスターなどの「プリンタブル・エレクトロニクス※4」デバイスの製造技術を支える新しい機能材料につながると予想されます。
 今後も当社は、市場のニーズにこたえるべく研究開発を進め、「VSA-S」を活用した導電性高分子用の新規ドーパントの開発を行うとともに、同分野での新規用途開発を進めてまいります。
 
<用語解説>
※1 導電性高分子の化合物(ドーパント)
   金属でも絶縁体でもない「半導体」の導電性高分子に、電気を通すために添加させる化合物。
 
※2 PEDOT/PSS
   PEDOT/PSSは、PEDOT(3,4-エチレンジオキシチオフェンのポリマー)とPSS(スチレンスルホン酸のポリマー)を共存させたポリマーコンプレックスです。水溶性かつ強酸性のポリマーであるPSS(ポリスチレンスルホン酸)をドーパントとして使用することにより、水に分散可能とし、有機溶剤等に弱い材料上にも塗布することを可能としています。
 
※3 PEDOT/PVS
   PEDOT/PVSは、PEDOTとPVS(ビニルスルホン酸のポリマー)を共存させたポリマーコンプレックスです。PEDOT/PSSのドーパントであるPSSをPVSに置き換えた物であり、PSSに比べ導電性、成膜性、光透過性等の面で優れた性能が発揮されると期待されます。
 
※4 プリンタブル・エレクトロニクス
   印刷手法によって電子回路や電子デバイスを製造する技術です。一般的なフォトリソグラフィ、真空蒸着では大規模な設備を必要とし、多くのエネルギー、資材を消費し、副産物として廃液、廃材を生み出します。これに対し、プリンタブル・エレクトロニクスを用いると、プリンタとその付属装置および乾燥設備のみで、必要な量だけで電子回路、電子デバイスを作成することができるとされています。この技術が確立されれば、プリント配線、プリント・アンテナからディスプレイ、太陽電池、半導体デバイス等の製造プロセスを劇的に変革すると期待されています。
 
 
以上
 

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