2009年8月6日

各 位
旭化成ホームズ株式会社



自然のリズムに寄り添い、真の心地よさ・健やかさを実現する住まいを提案
産学共同研究会「ひとと住環境研究会」が調査報告書を作成
および、その結果に基づき建設したコンセプトハウスが完成

 

 旭化成ホームズ株式会社(本社:東京都 新宿区、代表取締役社長:波多野 信吾)は、東京都市大学(当時・武蔵工業大学)の宿谷昌則教授を座長として平成18年に発足した産学共同研究会「ひとと住環境研究会」により、ひとの健康と心地よさを両立させる住環境のあり方(真の快適)に関する研究活動を続けてきましたが、この度その内容をまとめた調査報告書を作成しました。
 報告書では、今後私たちが目指すべき「真の快適」として、自然のリズムに寄り添った真に心地よく健やかな住まいを提唱しています。そして、それを実現する重要な要素として、季節や時間帯に合わせ心地よい場所を求めて居場所を変える「移ろ居(うつろい)(※1)」行動を挙げています。自然のリズムに寄り添う移ろ居行動を基本とする暮らしは、必要以上に設備を使用しないため、結果的に省エネルギー・環境負荷低減にもつながるライフスタイルであると言えます。
 更に当社では、同研究会による研究結果に基づいてコンセプトハウスを建設しました。このコンセプトハウスには移ろ居行動を取りやすくする様々な工夫が凝らされており、自然のリズムに寄り添った暮らしを体感できます。茨城県つくば市吾妻4丁目で当社の宅地開発営業部が手がけた分譲地「ヘーベルタウンつくば吾妻」の1区画を茨城支店が購入して建設したもので、平成21年8月8日(土)より「街かどヘーベルハウス つくば吾妻(※2)」として一般公開する予定です。
 
※1: 「移ろ居」は、当社の登録商標です。
※2: 街かどヘーベルハウスとは、一般の住宅街などに敷地を購入してヘーベルハウスを建築し、着工後の工事期間中から竣工後の一定期間までモデルハウスとして一般公開し、公開期間終了後は建売住宅として販売するという当社の取り組みの名称です。
 
 
1. ひとと住環境研究会設立の背景と問題意識
   従来、住環境が語られる場合、一般的には季節や時間を問わず不便を感じることがないように室内の温度や明るさなどをコントロールすることで論じられてきました。近年は地球温暖化やエネルギー枯渇などの環境問題に直面し、省エネルギー技術や自然エネルギー利用技術の開発がますます重要視されていますが、基本的には室内環境を一定に保つという方向での技術が指向されてきました。しかし、常に一定に制御された室内環境が、実は人間が本来持っている身体的環境適応能力を低下させ、健康を害する要因になっているのではないか、という指摘もあります。
 当社では、このような問題意識を踏まえ、ひとの健康と心地よさを両立させる住環境のあり方(真の快適)を研究することを目的に、東京都市大学(当時・武蔵工業大学)環境情報学部・大学院環境情報学研究科の宿谷昌則教授を座長とする産学共同研究会「ひとと住環境研究会」を平成18年4月に発足させ、研究活動を続けてきました。
 
 
2. 研究会における研究活動の成果
   この研究会では、前述のような現代社会における生活環境・室内環境と健康問題との関係や解決方法を研究するとともに、江戸時代の暮らしを振り返り、現代に活かせるヒントを探ることから研究を開始しました。
 平成19年には、ヘーベリアン(当社の建築した住まい「ヘーベルハウス」の入居者)を対象としたWeb調査や訪問調査を行い、現代の生活に活かせる知恵の検証を行いました。その結果、現代でも、暑い時には窓を開放する、月明かりを楽しむ、夕日を眺める、照明を落として明暗を楽しむといった自然のリズムに寄り添うような行動が多く行われていることがわかりました。そして、そのような行動をとる人々には「季節や時間帯で心地よい場所を求めて居場所を変える」傾向が見られました。当社ではこれを「移ろ居(うつろい)」ライフスタイルと名付け、「移ろ居」行動に必要な住宅の要件を探るために、住宅総合技術研究所内の試験棟において1年間を通した実証実験を行いました。
 また、小中学生を対象に行った調査でも、早寝早起きの生活を送った期間とその前後で、眠りを誘引する体内ホルモンの分泌に差が見られるなど、昼夜のリズムに沿った生活習慣がサーカディアンリズム(約24時間周期の生体リズム)に影響を与える様子が確認できました。
 これらの研究活動を通し、今後私たちが目指すべき「真の快適」とは、温度や湿度や明るさなどを常に一定に制御することで得られるいわゆる「快適な環境」にあるのではなく、季節や時間帯などによって変化する刺激(自然のリズム)を適度に受け入れ、ひとの健康を司る「生体リズム(心と身体のリズム)」を正常に保つことで得られる心地よさ(健やかな快)にあると考えます。そして、これを実践する暮らし方が移ろ居行動に現れているものと考えます。
 例えば夏季の暑さ(刺激)も、すぐに窓を閉じ冷房することで刺激を全て抑制するのではなく、適度な暑さを感じながら、ひとが自ら心地よい状態を求めて動けるような住まいが真に快適な住まいと考えます。まず、過度な暑さについては、一定水準以上の外壁の断熱性能を備えていること、庇や窓の配置など建築的要素で日射を遮る工夫がされていることが重要です。その上で、落葉植物やすだれなどの道具により屋外からの放射熱を遮り、屋内と屋外を緩やかにつなぐバッファゾーンとしての半戸外空間をつくれば、過度な刺激を柔らかく抑制し適度な刺激として屋内に取り入れることができます。
 それでも暑い場合は、まず窓や開口部を開けて自然の風を通すことで、体感温度が下げられます。同じ建物の中でも、風通しがよく床の肌触りがひんやりした場所など様々な居場所があれば、心地よい場所に自ら移動して涼を求めることができます。また、同じ場所でも、行う行為に合わせなるべく心地よいと思う姿勢をとることで、暑さや涼しさの感じ方には違いがあります。それでも暑いと感じる場合、熱の放射(輻射)を利用した冷房設備であれば室温を下げることが目的ではないので、窓を開け風を通したまま涼をとるのに適しています。
 このように、移ろ居行動を取りやすくする住まいを設計するには、季節や昼夜の移ろいという時間軸を踏まえた上で、どこで何をするかという「ひと(行為・姿勢)」の視点から、建築物・外構・設備など空間を構成する「場(住環境・設備)」と「道具(家具・調度品)」を、特定の部屋用途や固定家具などに縛られずデザインすることが重要です。
 今回つくば市に建設したコンセプトハウスは、これらの研究活動によって得られた知見をもとに、移ろ居行動を取りやすくする様々な工夫が凝らされた建物です。当社では、この建物の一般公開・見学を通して、自然のリズムに寄り添った真に心地よく真に健やかな住まいを提唱していきたいと考えています。
 
3. コンセプトハウス(つくば棟)の特徴
  (1) 「風」「熱」の計画
     必要な時に「風を通す・通さない」「日射を取り入れる・遮る」ことができ、季節や時間帯により変化する「暖かいところ・涼しいところ」で行う様々な行為を意識して計画しています。
 風の調節については、間仕切りのない一室空間・通風機能付建具・南北の庭と窓による水平方向の風の通り道と、吹抜け・トップウィンド(通風用天窓)・ウィンドチムニー(風抜き塔)を活かした温度差換気による垂直方向の風の通り道を確保しました。また、屋内の熱の流れを制御する暖簾スクリーンや夜間の通風・換気を図る防犯通風窓を設置しました。
 日射や熱の調節については、日射や道路からの放射熱を遮るバッファゾーンとして緑のカーテンやパーゴラ(植物を絡ませる棚)による半戸外空間をつくり、断熱障子の開け閉めなどで日射や通風を調節しています。夏季は通風を図りながらも日射を遮断し、冬季は室内に取り入れた日射で蓄熱し、外部に逃がさないための工夫をしています。また、庭の小川(水の道)や池は雨水の宅地内浸透・貯留を積極的に進め、水の蒸散効果を利用した涼風づくりを促進します。雨水の宅地内浸透は頻発するゲリラ豪雨に起因する都市型洪水の対応策の一つともなり、レインチェーン(雨水の見える縦樋)は豪雨時の過剰な雨水が下水道に流入するのを防止します。
 冷暖房については一般的な空調設備は設置せず、熱の放射(輻射)を利用した設備として放射パネル(床、天井、壁=垂直面)を設置しています。部屋を閉じる冷暖房は「身体」にとって不快な熱環境となり身体のリズムを崩しやすいので、移ろ居ライフスタイルには放射を利用した設備が適しています。
 
  (2) 「光」「灯り」の計画
     必要に応じた「明るいところ・暗いところ」を選ぶことができるような計画をしています。日照については、旭化成独自の住環境シミュレーションシステムARIOSを活用し、季節のリズムや昼夜のリズムを考慮して吹抜けや窓をレイアウトしています。
 照明計画については、昼夜のリズムに沿った灯りによって、生体リズムを整えつつ心地よく安らげる雰囲気を演出する明るさ・暗さを、人間工学に基づき分析し設計しています。具体的には、眼や身体に負担を与えにくい間接照明を適所に使用することで、心地よい雰囲気でありながら、眠りに至るための身体のリズムを整え、自然な眠りや心地よい目覚めを誘うよう配慮して計画しています。
 
  (3) 「緑・水・土」「眺め」の計画
     季節や時間の変化を感じ、自然に親しめるよう、緑・水・土をテーマとした外構とその眺めを計画しています。落葉樹や花・実をつける樹木など季節の変化が感じられる植栽は、夏季の放射熱の軽減、冬季の日光の取り入れや北風の遮断などを図っています。池やレインチェーンなど天気や時間帯で表情を変える水の演出は、敷地をできるだけコンクリートで覆わず土を現すとともに、雨水の宅地内浸透と水の蒸散効果による空気の冷却を促進します。デッキ・縁側・パーゴラなどの屋外でありながら屋内的な場所や、土間などの屋内でありながら屋外的な場所をつくり、外部と内部の心的な距離を縮め、外部の自然に親しみやすい居場所をつくっています。また、外構の石積みは虫の棲み処となり、虫聴きを楽しむことができます。花挿し付の玄関ドアは、育てた花を飾り、来客を迎える室礼となります。
 室内からの眺めについては、これらの植栽・外構と関連づけ、外部からの視線調整にも配慮して大きさや高さを変えた様々な開口部・開閉パターンを変えられる障子(四季見障子)を設置し、水や緑・風を暮らしに取り込み、季節や行為に応じた様々な眺めをつくります。
 
  (4) 「移ろ居どこ(※3)」の計画
     「たべる・つどう」「くつろぐ・やすらぐ」「めざめる・ねむる」といった様々な行為に合わせ、自然のリズムに寄り添うことができる様々な居場所をつくり、心地よい姿勢をとることができるような可動の道具を用意することが移ろ居行動を促します。
 4〜5人が座って話のできる平面スペース(直径2.4〜3.6メートル程度が目安)を複数箇所用意するとともに、小上がり・ベンチなどの段差を利用し、タイル・畳・フローリングといった素材の感触の違いなどを組み合わせて「移ろ居どこ」を用意することで、居場所に様々なバリエーションを持たせています。
 「移ろ居どこ」では、小ちゃぶ台・複数の高さの座布団・マイ座椅子・置き畳という可動の道具を組み合わせて、ソファなどの固定家具が無くとも家人が集まったり、ひとり心地よく過ごすことができる空間をつくりました。
 
   
※3: 「移ろ居どこ」とは、移ろ居行動を促すための居場所を指す造語です。
 
 
4. コンセプトハウス(つくば棟)の概要
 
所在地   茨城県つくば市吾妻4丁目12番2(ヘーベルタウンつくば吾妻)
用途地域   第一種中高層住居専用地域
敷地面積   206.76m2(62.5坪)
1階床面積   73.99m2(22.3坪)
2階床面積   67.29m2(20.3坪)
延床面積   141.28m2(42.7坪)
総面積   166.73m2(50.4坪)
 
 
【コンセプトハウス(つくば棟)1階の間取り・外構イメージ】
  コンセプトハウス(つくば棟)1階の間取り・外構イメージ
 
 
【コンセプトハウス(つくば棟)の通風・換気イメージ:夏】
  コンセプトハウス(つくば棟)の通風・換気イメージ:夏
 
 
【コンセプトハウス(つくば棟)の日照・採光イメージ:冬】
  コンセプトハウス(つくば棟)の日照・採光イメージ:冬
 
  (画像および調査報告書はウェブサイトhttp://www.asahi-kasei.co.jp/j-koho/からダウンロードできます。)
 
 
以上
 
 

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