2010年6月1日

各 位
旭化成ホームズ株式会社


東京工業大学との共同研究結果に基づき考案した
「明るさ尺度値(人の感じる明るさ)」を用いた照明計画
 

 旭化成ホームズ株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:平居正仁)は、東京工業大学(大学院総合理工学研究科 人間環境システム専攻 中村芳樹 准教授)と共同で行った研究結果に基づき、中村准教授が提唱している「明るさ尺度値」を用いた照明計画の設計手法を考案しました。これは、従来一般的に用いられている照度計算に頼らず、人が視覚的に感じる明るさを定量化するための新たな概念である「明るさ尺度値」を用いることで、これまで当社が行ってきた「真に心地よく健やかな住まいのあり方」の追求に関して、照明計画という視点から取り組んだものです。
 今回の共同研究は、従来の照度計算に頼った照明計画では照明器具が不快なまぶしさや目のストレスの原因となっているのではないかという課題認識から出発しました。シミュレーションや実証実験を行うことで、「明るさ尺度値」により住空間において人が感じる明るさを定量的に評価し、照度計算に頼らず安定した品質の照明計画を設計する手法を考案しました。
 この設計手法では、従来のように部屋面積によって照明器具の照度(ワット数)を決めるのではなく、人の感じる明るさを基準に「明るさを調える」ことにより、昼夜のリズムに沿った、真に心地よく健やかな住まいの明るさをつくります。明るさを調えるとは、光を「削る」「均す(ならす)」「動かす」という3つのステップにより住空間の明るさを調節することであり、特に今回の提案では間接照明と調光機能を使ってこれを実現しています。
 また、今回の設計手法により主に間接照明を用いた照明計画では、直接照明を用いた一般的な照明計画と比較して、十分な明るさを確保しつつ照明用エネルギー消費が約6割削減され、結果的に省エネルギー・環境負荷低減にもつながります。
 一部の住宅展示場では既にこの設計手法による照明計画を採用し、一般公開しています。今後はこの設計手法の活用や展開について、個々のお客様への設計提案に活かすとともに、商品化などの可能性も含めて幅広い検討を進めていく予定です。
 
I. 背景
  1. 室内環境に関する当社のこれまでの取り組み
     わが国で住宅における室内環境が語られる場合、一般的には室内の温度や明るさなどを一定にコントロールすることで論じられてきました。地球温暖化問題などに伴い重要視されている省エネルギー技術についても、基本的には室内環境を一定に保つという方向での技術が指向されています。その一方、機械的設備により一定に制御された室内環境が、人間が本来持っている身体的環境適応能力を低下させ、健康を害する要因になっているのではないか、という指摘もあります。
 当社では、このような問題意識を踏まえて平成18年4月に「ひとと住環境研究会」を発足し、健康と心地よさを両立させる住環境のあり方としての「真の快適」を研究しました。平成21年8月には研究結果を報告書にまとめ、それに基づくコンセプトハウスを建築・公開するなどの成果を残しています。
 この時の報告書では、人の健康と心地よさを両立させるには、人の内なる自然が外なる自然とほどよく共振して「健やかなリズム」を形成するような住環境が重要であると結論付けました。つまり、温度や湿度や明るさなどを一定に制御したいわゆる「快適な住環境」を人工的につくるのではなく、季節や時間帯などによって変化する刺激(外なる自然のリズム)を適度に受けることで、人の健康を司る生体リズム(心身のリズム=内なる自然のリズム)を正常に保つことが「真の快適」につながると考え、それを実践する手段としての「移ろ居」を提唱しました。
 
  2. 明るさに関する室内環境についての現状
     わが国の住宅における「明るさ」環境については、明治以降の近代化とともに照明器具の数量を増やし機能を向上させることで、常に今より一層明るい「一日中昼間のような明るさ」を求め続けてきました。ところが、最近は目のストレスの原因としてグレア(まぶしさ)、明暗のアンバランス、UVなどが挙げられるようになり、夜間の強い光が不眠症や生体リズムへの悪影響の原因となることがわかってきました。つまり、「一日中昼間のような明るさ」を求める照明計画が、人間が本来持っている生体リズムを乱し、健康に悪影響を与えるストレスとなっているのです。
 従来、住宅における照明計画では、部屋の大きさに合わせてJIS基準の「照度」を充たすように照明器具の種類、数量、大きさ、位置を決めるのが一般的です。しかし、照度とは床面に当たる光の量を示す値であって、人が感じる明るさ(光の見え方)は考慮されておらず、直接床面を照らさない「間接照明」は十分な照度が得られないので、従来の設計手法では主照明となり得ませんでした。
 一方、本年1月に改正されたJIS基準(JIS Z9110-2010)には「不快グレア(人の目で見た時に不快なストレスと感じるまぶしさ)」について記述されました。不快グレアを低減するには、光源が直接見えず室内を全体的に明るくする間接照明が有効な方法と考えられるので、間接照明を含めて客観的に明るさを評価できる新たな基準とそれに基づく照明計画設計手法が必要と考えられます。
 
II. 共同研究について
   従来の照度計算に頼った照明計画においては照明器具が不快グレアや目のストレスの原因となっているのではないかという課題認識の下、東京工業大学 中村准教授にご指導いただきながら共同研究を行いました。結果については、平成21年8月に開かれた2009年度日本建築学会大会学術講演会において、「間接照明を主照明とした空間評価 その1 実空間における被験者評価」および「同 その2 シミュレーションによる空間分析」として発表しました。
 この研究では、光の量(照度)ではなく人が感じる明るさのレベル(明るさ尺度値)によって住宅の室内環境を評価するために、シミュレーションを行い、間接照明と直接照明の比較や低照度の室内において被験者が感じる明るさ感などについての検証を行いました。この結果、(1)間接照明は直接照明と比べて照度が低いものの明るさ尺度値による評価は大差がない、つまり、照度を低くしても明るく感じられる。(2)部屋の照度を低く抑えると、直接照明の場合はくつろぎや空間の印象が悪いのに対し、間接照明の場合は印象が良い。といったことがわかりました。
 
III. 今回提案する設計手法による照明計画の特徴
   住宅の照明計画において最も基本的な要素は「物の形や文字がよく見えること(明視性)」ですが、そのために照明をより明るくする(照度を高める)ことは、結果的に不快感や健康への悪影響につながると考えられます。
 今回提案する新たな設計手法では、従来の考え方のように「明るさを足す」のではなく「明るさを調える」ことで、昼夜のリズムに沿った、心身に心地よい「明るさ」をつくります。そのために、間接照明と調光機能により光を「削る」「均す」「動かす」という3つのステップを提案するとともに、部屋の広さに応じて必要な明るさの目安を「照らす壁の長さ」として定量化しました。
 
Step1「削る」、Step2「均す」、Step3「動かす」
突出して眩しい部分を削る。
眩しい光源を隠す。
明るさ感のバランスを調整する。
1) 明るい部分を抑え、
2) 暗い部分を持ち上げ、
3) 明るさの分布幅を伸ばす。
時間帯や行為に適した灯りとする。
明るさを動かし、昼夜のリズムと心身のリズムをチューニングする。
    部屋の広さ(帖数)に対する明るく照らす壁の長さ(ミリメートル)の目安
   
帖数 〜1.0 〜4.5 〜6.0 〜10.0 〜14.0 〜18.0
壁長さ 915 2440 2745 3660 4575 5185
 
  1. 光を削る:まぶしい部分をなくすために光源を隠す
     現代の日本の住宅において多用されている天井付照明(シーリングライトやダウンライトなど)は、照明器具の光が直接目に入ってまぶしく感じたり、読んでいる本の誌面に光が反射して読みにくいといった不快グレアの原因となりがちです。この不快グレアをなくすため、光を調える第1ステップとして、突出した明るさ(まぶしさ)を「削る」ことを考えます。目の負担(ストレス)をなくすために、住空間の照明計画における主照明として直接照明ではなく間接照明を用いて、光源が視界から隠れるように設計します。
 
  2. 光を均す:間接照明で光のグラデーションをつくる
   
 オフィスなどとは違い、疲れを癒して明日への活力を養う場所である住宅の照明計画では「くつろぎ」が重要な要素となりますが、前述の共同研究によると、直接照明は「くつろぎ」「快適性」に劣る傾向が見られます。これは、明るさ尺度値で考えると、直接照明は「明るさの分布」が狭く高低差が大きいこと、つまり、明るい部分が目立つことが原因と考えられます。
 光を調える第2ステップは、明るさが綺麗なグラデーションを描くように光の分布を「均す」ことです。主照明を間接照明とすることで明るさの分布幅を広げ、明暗の高低差を小さく抑えます。
グラフ
     明るい部分を抑えると部屋が暗く感じられるように思えますが、人は「見ている物に光が当たっていると明るく感じる」という視覚特性があるので、単純にそうはなりません。直接照明は主に床を照らしますが、床はあまり視界に入らないため照度が高くても暗く感じられます。逆に間接照明は視界の大部分を占める壁や天井を照らしますので、照度が低くても明るく感じられます。共同研究では、30ルクス(床面照度)の間接照明でも100ルクスの直接照明と同じ程度の明るさ感が得られるという結果が出ています。間接照明を活用すれば、より弱い光でもくつろぎ感を得ながら十分な明るさ感も得ることができると言えます。
 
  3. 光を動かす:調光機能で昼夜のリズムと心身のリズムを同調させる
     光を調える第3ステップである光を「動かす」とは、調光機能を活用して時間や場面に相応しいレベルに明るさを調整することです。
 例えば月明かりでもちゃんと物が見えるように、人は本来少ない光でも明るさを感じる機能を備えていますので、住宅における日常生活においても必要以上に照明を明るくする必要はありません。また、夜間の強い光が入眠に必要なメラトニンの分泌を抑え、逆に弱い光がメラトニンの分泌を促進して緊張を解きほぐし深い眠りに誘ってくれるなど、人の心身の健康は昼夜のリズムに沿って暮らすことで保たれています。不快グレアを抑え弱い光でも明るさ感が得られる間接照明を用い、調光機能により「くつろぎ」「団欒」などの行為・時間・場面に応じた適切な明るさに調整することで、昼夜のリズムと心身のリズムを同調させ、自然のリズムに寄り添った真に心地よく健やかな住まいの照明計画を提唱します。
 
  4. 期待される省エネルギー効果
     わが国の家庭用電力消費に占める照明の割合は16%超という大きなものとなっており、暖房エアコンの消費エネルギーよりも多いと言われ、その削減手法の提案が急務となっています。前述の共同研究によると、今回の設計手法により間接照明と調光機能を用いた照明計画では、直接照明を用いた一般的な照明計画と比較して約6割以上の照明用エネルギー消費が削減されるというシミュレーション結果が得られました。そういう意味で、従来の照度計算ではなく人の感じる明るさを定量化した「明るさ尺度値」による新たな照明計画設計手法は、真の心地よさや健やかさを得られるとともに、結果的に省エネルギー・環境負荷低減にもつながるものです。
 
IV. 展示場について
  世田谷通りオークラランド展示場(そらから)東京都世田谷区桜3-24-8
江戸川展示場(キュービック3階モデル)東京都江戸川区中央4-21
 
V. 東京工業大学 中村芳樹 准教授 略歴(ご参考)
  中村芳樹(なかむらよしき)、博士(工学)・一級建築士、兵庫県生まれ。
昭和55年大阪大学建築工学科卒業後、3年間の建設会社勤務を経て、
昭和61年東京工業大学大学院社会開発工学専攻修士課程修了。
東京工業大学大学院総合理工学研究科助手、助教授を経て、現在、准教授。
イギリスBRE派遣研究員、アメリカ・レンゼラー工科大学派遣研究員などを経験。
専門は視環境評価および環境心理学。特に輝度を用いた光環境の設計および評価に関する研究を進め、これまで関連した国内外に10件の特許を出願。
日本建築学会光環境小委員会委員長、光環境デザインWG主査などを歴任し、光を工学的に扱う技術と建築デザインとの融合を目指して活動を続けている。
CIE(国際照明委員会)第3部会「屋内照明」副部会長、CIE TC3-45「輝度を用いた照明設計」委員長、JCIE(日本照明委員会)副会長。
照明学会の光環境研究専門部会委員長、照明設計におけるCG画像の利用研究調査委員会、空間の明るさ感研究調査委員会などの委員長を歴任。
 
 
実験調査の明るさ画像(明るさ尺度値に変換した写真)   間接照明を用いたリビングのイメージ写真
実験調査の明るさ画像(明るさ尺度値に変換した写真)   間接照明を用いたリビングのイメージ写真
 
    (画像はウェブサイトhttp://www.asahi-kasei.co.jp/j-koho/にてダウンロードできます。)
     
 
 
以上
 

ニュース


ページ上部へ