シニアライフ研究所 調査報告
単世帯の高齢者が感じる、くらしの“豊かさ”とは
〜「くらしの豊かさに大切なこと」と「別居の実子との関わり」から探る〜

2015年3月17日
旭化成ホームズ株式会社

 旭化成ホームズ株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:池田 英輔)は、「シニアライフ研究所」による「単世帯で住む高齢者が感じるくらしの豊かさ」に関する調査を実施し、報告書にまとめましたのでお知らせします。

 本調査は、「高齢者のみの世帯」が今後ますます数を増す中で、親子同居・近居、住み替えなど、くらしやすまいの選択肢、またそれを支えるサポートのあり方の検討をする上で、その根底となる“高齢者のくらしの実態”を把握するため、「高齢者(主に自立した70代)が感じる豊かさ」と、「別居の実子との関わり」を調査したものです。

 調査結果から、70代はくらしや人生における満足感が他の世代と比べて高いことや、70代の豊かさを構成する要件や要素は他の世代とは異なることがわかり、高齢期の豊かなくらしを叶えるヒントを得ることができました。

 また、高齢者のくらしの背景には、介護を必要としない自立した親であっても、日常の作業や病院への付き添いなどの支援項目について、別居の実子(とりわけ娘)が3割程度は関与している実態が明らかとなりました。さらに、多くの実子は、忙しい中でも本当はもっと支援をしたいと考えており、そのジレンマを解消するために、子の気持ちに寄り添うサービスの必要性なども感じられました。

 当社では、今回の調査内容を踏まえて検証などを進め、元気で豊かな高齢期のくらしについて、引き続き研究を重ねる予定です。

主な調査結果・主旨

<調査1:高齢期を豊かに住まうために大切なこと>

1)70代では自宅のくらしに豊かさを感じている割合が高い「70.7%」
2)豊かさを感じる70代の特徴は、男性は家族と過ごす時間が長く、女性は趣味や好きなことをする時間が長い
3)70代が豊かにくらすために大切な要素は他の世代とは異なり、「自然」と「社会」を「身近な心やらぐもの」という一体的な要素で捉えたり、「自分の健康」は「自己実現」のため、「家族の健康は「大切なくらしの基盤」のための要素と捉えるなど、特徴がある

<調査2:実子による別居の親への生活支援の実態>

4)親の生活支援の担い手は実子が中心で、実子の配偶者による関与は少ない
5)親が自立でも、実子は多様に生活全般をサポートしており「約3割」に上る
支援項目TOP5は「通院のつきそい」「まとめ買い」「健康食事面の相談」「世間話や愚痴を聞く」「一緒の外食や遠出」
6)仕事などで忙しく時間が取れない実子も、親の支援をもっとしたいと希望しており、自立の親を持つ実子の方が、より実態と希望のギャップが大きい

T.調査の背景と目的

 現在、4人に1人が65歳以上の高齢者、8人に1人が75歳以上の後期高齢者という時代に突入し、高齢期の住まい方にも、住み続ける・住み替える・親子での集住・他人との集住など、暮らし方や住まいの選択肢、またそれを支えるサポートのあり方も広がりを見せています。

 当社ではこれまで、例えば親子が同居する「二世帯住宅」という住まい方で高齢期の豊かなくらしに注目してきましたが、単世帯の高齢者の豊かなくらしの提案や、離れて暮らす子世帯が親のサポートをどうするかといった多くの課題についてより幅広い研究をスタートするため、2014年4月に「シニアライフ研究所」を設立しました。同研究所の調査研究第1弾となる今回の調査は、高齢期のくらしの豊かさに関する研究が十分とは言えない状況に鑑み、まずは「高齢期のくらしの豊かさ」という根本的な調査から実施しました。高齢期は人生の収穫期として心豊かな暮らしを楽しむことができる時期ですが、「サービス付き高齢者向け住宅」なども、現在は「介護型」の供給が多く、いわゆるアクティブシニアと呼ばれる多くの自立高齢者(75〜79歳の約8割半、80歳〜84歳の約7割)が、より楽しく豊かに暮らすための住まい方の選択肢は、これからますます求められると思われます。

 調査の前に、元気な自立した後期高齢者の生活実態や本音を把握するため、当社が建設した自立高齢者向け賃貸住宅「ヘーベルVillage」の入居者インタビューを行いました。その結果、建物内外における”交流“や”自然“への親しみを大切にしていることや、別居する実子(特に娘)が、入居する親の住み替え時からその後の日常生活にいたるまで、広範囲に高齢の親のくらしを支えているという実態が印象的でした。

 今回の調査では、この事前調査の結果を参考にし、“生き生きとした豊かな高齢期のくらしには「緑やしぜんとのつながり」・「身近な社会とのつながり」・「高齢期だからこその家族・実子とのつながり」の3つのキーワードが大切である”という仮説を立て、それらを検証する2つの定量調査を実施しました。

U.定量調査の概要

(1)単世帯の高齢者自身への調査「高齢期を豊かに住まうために大切なこと調査」

■調査目的 70代の豊かに住まうための大切な要素は何かを把握し、その実現のヒントを探る
■調査方法 ウェブによる調査
■実査期間 2013年7月、2014年11月
■調査概要 有効回答1721(一般戸建居住者 男性45.4% 女性54.6%)
30代:17.8% 40代:23.5% 50代:22.5% 60代:18.8% 70代:17.4%

(2)別居する実子への調査「親の生活マネジメント調査」

■調査目的 高齢の親と実子の関わりの実態を把握し、マネジメントの外部化の可能性を探る
■調査方法 ウェブによる調査
■実査期間 2014年12月
■調査概要 回答者(実子)有効回答=1100人(男性565人・女性535人)
・年齢45〜64才の既婚者(女性の半数近くが有職者)
・持ち家(戸建てまたは分譲マンション)で東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知、大阪に居住
・親とは別居
・親の平均年齢
 父親82歳・母親80歳

V.主な調査結果

(1)自宅のくらしに豊かさを感じている70代は多い(=70.7%)

 「ご自宅での暮らしに豊かさを感じていますか?」という問いに対して、「とても感じる」「やや感じる」と回答した割合は、30代〜70代全体で半数が豊かさを感じており、年齢を重ねるにつれて増加します。70代は「人生が安定している」「自己実現ができている」「自分の好きなことができる時間がある」といった満足感も高く、人生の充実に満足している人が多いようです。また、豊かに住まうことは概して年収との相関関係が見られましたが、高齢期においては、世帯年収以外の要因に豊かさを感じている可能性が高いこともわかりました。(詳しくは調査報告書P33他参照)

(2)豊かさを感じる70代の自宅の過ごし方には特徴がある
(=男性は「家族と過ごす」、女性は「趣味や好きなことをする」)

 自宅でのくらしに豊かさを感じている70代の男性は、豊かさを感じていない人に比べ「家族と過ごす」時間が圧倒的に長いことがわかりました。一方、豊かさを感じている女性は、60代では「家族と過ごす」時間が圧倒的に長いのに対し、70代では「趣味や好きなことをする」時間の方が長くなっていることがわかりました。(詳しくは調査報告書P35他参照)

■自宅の暮らしに豊かさを感じる度合いと平日の時間の使い方の関係(60代、70代)

(3)70代が豊かにくらすために大切な要素は他の世代とは異なる
(=70代だからこその豊かさがあり、これらをヒントに豊かなくらしの実現を目指す)

 くらしに感じる豊かさの構造を明らかにするため、住宅の性能や空間の居心地はもちろん、家族関係やそこで暮らす人生の充実感まで計91項目を設定し、5段階評価による結果を分析しました。

 その結果、30代〜70代の全体では、くらしの豊かさを構成する要素として、「自然による住まいの彩り」「自然を意識した健康なくらし」「社会とのつながり」「家族とのつながり」「自己実現のための時間や経済のゆとり」「安心・安全なくらしなど生活の基盤」といった6つの要素が浮かび上がりました。

 一方70代では、もっとシンプルに4つの要素に分類されます。自然とのつながりは、地域や友人など社会とのつながりとともに、「心安らぐ外とのつながり」という一体的な要素と捉えられるようになります。また、全体では「(自分や家族の)健康なくらし」そのものが豊かさとして捉えられていたのに対し、70代では、「自分の健康」は自己実現を叶えるための要素として、同様に「家族の健康」は「安心・安全な生活の基盤」の要素として捉えられているなど、70代特有の豊かなくらしの感じ方が明らかとなりました。(詳しくは調査報告書P37他参照)

■豊かに住まうための大切な要素

 これらの結果は、高齢者の豊かなくらしを建物やサービスとして提供する際に、大変役立つと考えられます。例えば、住空間であれば、単に庭を用意すれば自然に触れて満足する、という単純なことではなく、人が集まって自然に触れられる仕組みを作ることでより深い満足感が得られることや、高齢者の健康サービスもただ栄養面の管理だけでなく、趣味など自己実現を目的として促進すること、安心で落ち着いたくらしのためには、離れて暮らす家族の健康が高齢者にとって大切であることを考慮して、仕組みを構築することなどが考えられます。

(4)親の生活支援に関わる人は血縁が中心
(=日常生活支援の担い手は、実子(自分ときょうだい)中心で、実子の配偶者関与は少ない)

 単世帯で暮らす高齢の両親に対する支援にどのような人達が関わっているか確認しました。結果、実子のきょうだい構成によって違いがみられ、実子でも女性の関わりが男性より高いことがわかりました。一方で、「自分の配偶者」の関わりは「外部サービス」より低く、血縁のきょうだい中心に親の日常生活を支援をしていることがわかりました。二世帯住宅の場合は、同居であることから「自分の配偶者」の関わりも多いと推測しますが、別居の場合は、血縁のきょうだいで動くというスタンスがみてとれます。(詳しくは調査報告書P57他参照)

■親の日常生活を支援する人達 実子きょうだい構成別

(5)基本的な生活行為が自立できていても、生活支援が必要
(=親が自立でも「作業系」「つきそい系」で約3割に関与)

 高齢者の自立度は、食事・排泄・移動などの行為を介助なしでもできるか、つまりADL(日常生活動作)で評価する考え方が一般的です。しかし、特に後期高齢期に入ると、ADLは問題なくても、買い物や料理、服薬やお金の管理、公共交通機関での移動など、より複雑で高次な動作であるIADL(手段的日常生活動作)における支援が徐々に必要になってきます。

 実子による親への生活支援項目を、IADLの視点などから6カテゴリー・20項目を独自に設定して調査したところ、支援内容のTOP5は「世間話を聞く」「困りごとを聞く」「おいしものを食べに行く」「遠出をする」「通院に付き添う」でした。それを親の自立・要介護別にみると、自立した親では「作業系」「つきそい系」「情緒系」を中心に、約3割程度の生活支援を行っていることがわかりました。要介護の親になると、「管理系」「方針系」も含め生活全般に対する支援の割合が高くなっています。(詳しくは調査報告書P55他参照)

■親の性別×親の自立度別実子の支援内容

(6)実子の想いは、親の支援をもっとしたい(=希望と実態のギャップ)

 別居する親の日常生活に対する実子の支援は生活全般にわたっていますが、多くの実子はもっと親を支援したいと思っており、特に要介護よりも自立の親を持っている場合の方が、もっと支援したいが出来ていないという実態と希望のギャップがより大きいことがわかりました。

 また、「利用したい外部サービス」では、特に「作業系」や「方針系」の内容について、要介護だけでなく自立の親に対しても一定の利用希望がありました。このような調査結果から、実子にしかできない支援とその他とを見極め、親子の気持ちに寄り添う生活支援サービスの必要性が感じられました。(詳しくは調査報告書P64他参照)

■実子の支援の実態と希望×親の自立度別

以上


ニュース


ページ上部へ