ハウスデザイナーからの手紙

ハウスデザイナーからの手紙vol2:気持ちの良さの素を探しだす

COLUMN

外と内を遮断した状態で住空間は成立するのか。
窓がなく自然光も風も入り込まない真っ暗な箱の中で生活することを考えてみてください。
こんな住宅に住みたいという人はなかなかいないと思います。

たとえば、核シェルターの中とか、外からは何も取り入れないというか取り込むことはできないので、必要な明るさは照明器具に頼り、空調は完全に機械に頼るような空間です。
核シェルターとまでいかないまでも身の回りには実はこれに近い空間は結構あります。
デパートの売り場には、ほとんど窓がないですし、地下にあるバーであるとか、もっと身近な例では、多くの人が長い時間をそこで過ごすオフィスには窓はありますが、建物の内部に入っていくと、窓からの光は届かなくなり、作業に必要な照度は人工照明に頼っているので、窓からの光を意識して仕事をしている人はあまりいないと思います。
それでも地下のバーのような空間と違い、事務所の場合外が見えたほうが落ち着くというようなことはあると思います。
用途が居住空間に近くなるにつれ、外部とのかかわりが必要になってくるということだと思います。

バーや遊園地のアトラクションの内部のように非日常的な空間と時間を過ごす場所は、外部から遮断された人工的な空間の中でこそ成立するのだと思いますが、住宅のように日常的な時間を過ごす場所では外とのかかわりは無視できず、居心地が良い空間を作るためには気持ちの良さを生み出す素を外部から取り込んでくる必要があります。
同時に外部には室内に取り込みたくないものもたくさんあり、それらの出入りを制御する装置そのものが住宅なのです。

では気持ちの良さの素はどうやって探し出せば良いのか。
今はグーグルアースという便利な物もあり、その場所にいかなくてもある程度のことはわかるようになりましたが、まだ表面的なことしか理解できないので、やはり実際に現地に足を運び、その場所の空気を感じて計画のよりどころとなる気持ちの良さの素を探しだす必要があり、それが設計のはじめの一歩ということになります。

気持ちの良さの素は目の前に広がる大海原である必要もなく、そんな場所に住むことができたらもちろん幸せですが、極端なことを言えば、四方を家に囲まれていたとしても、上を見れば敷地と同じ大きさの空は必ず残されていますので、それをよりどころに気持ちの良い住宅は作れると思います。
以前設計した「品川かぜのとう」という名前の付いた住宅はまさにそんな作り方をしたものです。

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↑荒川さんが設計した「品川かぜのとう」の一室。
「品川かぜのとう」は自然の恵みを上手に取り込んで暮らすことができる家をコンセプトに設計された。
屋上までつづく階段室が「塔」のように垂直に伸び、季節や天候の変化に合わせて各階の居住スペースに心地よい空気の流れを生みだす構造になっている。

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荒川さん自身が描いたその部屋のスケッチ。


気持ちの良さの素は都会の場合きれいな夜景であったりすることもあると思いますが、たいていの場合、空や風や雨や緑など自然のものであることが多く、中でも光は必ず必要です。
しかしそれは南の直射光である必要もなく、北側の天空光でも良いのです。

これらをうまく料理していくということが住宅を設計するということなのです。(次回につづく)

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HailMaryこちらのコラムはHailMary6月号に掲載されています。

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