1Kのアパートを併設した2DKの中古住宅を大改造
理想の家づくりを実現するには、いくつものルートがある。
高石恒一さんが選んだ道筋は、これから家を手にしたい人にとって大きなヒントになりそうだ。
宝を掘り当てた、そんな表現がふさわしい。
高級住宅が建ち並ぶ都内の閑静な住宅街に、思い通りのカスタムハウスを作れたのだから。
高石恒一さん(以下高石):この家を初めて見たときは築21年目、1Kのアパート併用型の2DK住宅でした。
売り出されていた当時は外壁にツタがからまり、室内も荒れていました。
お世辞にもよい状態とは言い難かった。
しかしこの家をひと目見るなり、「甦る」と直感した。
高石さんは旭化成リフォームに勤めており、この荒れ果てた家がヘーベルハウスの住宅だったことから、躯体そのものの堅牢さを誰よりも承知していた。
骨組みを活かして、想いのままにカスタマイズすれば理想の家が手にできると、すぐさま見抜いたのだ。
BEFORE
ツタが壁面を覆う荒れ果てた状態だった。
約1か月かけてツタを取り払うところからスタートした。
AFTER
周囲の環境に調和する柔らかな印象のベージュの外壁に生まれ変わった。
高石:メインテナンスをしていなかったとはいえ、建物の躯体そのものに損傷があるとは考えにくかったのです。
頑強な家の骨格はそのまま残っているだろうと確信していました。
骨組みをあらわにしてみたら、築22年とは思えない状態で、まったくダメージが見当たらなかった。
旭化成の社員だから自画自賛するわけではなく、住宅に携わるひとりのプロとして、また高い費用を投入す
るひとりの消費者として、ヘーベルハウスの凄さを改めて実感したという。
高石:リフォームをすればまだまだ長く住めるポテンシャルを十分に秘めていましたから、取り壊すなんてもったいない。
もう一度この家に命を吹き込める機会ができて、よかったと思いました。
外壁のツタを撤去した後は、防水塗装を施し、屋上には太陽光発電の装置も設置。
通風性と採光性を考慮し、南北に大きな開口部を設けるなどわずかに改良したものの、躯体は丸ごと生かした。
内装については、いったん建物をスケルトン状態にしてから、あらためて間取りを見直した。
まず全体のコンセプトとして、木(もく)を多用した空間づくりを心掛けた。
床、天井、建具、キッチン収納などいたる所にウッドが採用され、家具もまたウッド系を積極的に取り入れているため、落ち着きある雰囲気を醸し出している。
高石:アパートと住居を隔てる壁を取り払っても強度に問題がないとわかっていたので、自由な間取りを実現できました。
BEFORE
そもそもロングライフ住宅「ヘーベルハウス」の建物だけあって22年経てもなお躯体の堅牢性は完璧に保た
れていた。
AFTER
玄関からキッチン、そしてリビングへと間仕切りを用いずに連続性を作り出し、しかしそれぞれが居心地のよい空間になっている。
1Fの間取り設計でも高石さんの卓見が生かされていて、イマドキ流行りの巨大なLDKをつくるのではなく、あえてリビング・キッチン・ダイニングをセパレートさせるデザインにこだわった。
高石:広いLDKというのは、リビングとダイニングの境目が思いがけずポカンと空いてしまい、不経済的なうえに間が抜けてしまいがち。だったらコマ切れだけれど、それぞれで居心地のいい場所をつくったほうがはるかに効率的だと考えました。
LDKが分割こそしているものの、切れ切れの印象はなく、むしろつながりがあり、広がりも感じる間取りの印象だ。
高石:よく友人たちが集まるのですが、気分によって場所を移動しながら寛げるような間取りになっていると思います。
昼間は南からの暖かい陽光がたっぷり降り注ぐ。
奥の壁には黒板塗料を塗り、チョークでこの家の1階の間取りプランを描いている。
1Fの中心に位置するブルーグレーのタイルを貼ったキッチンにもカウンターテーブルが備え付けられて
いて、高石さんいわくここを"おうち居酒屋"と名付け、友人をもてなしている。
どの場所にいてもじつに心地よい。
通風性・採光性も考慮している。
1Fダイニングを吹き抜けにし、吹き抜け上部に大きな採光窓を設け、2Fのサブリビングの窓を開け放つと室内に風が通り抜けるよう設計されているのだ。
外界と遮断された感覚がなく、開放感を存分に味わえる。
通風性、採光性が素晴らしく、開放感たっぷり。
写真右上部分が2Fの納戸にあたる。
高石:昔からエアコンが好きではないので、できるだけ自然環境と調和するパッシブな家にしたかったんです。
断熱性にも配慮し、窓はすべてペアガラスにし、床と壁にはたっぷり断熱材を入れています。
限りなく冷暖房を使わずとも、快適さを保てるよう工夫をこらしている。
2Fのサブリビングは、バルコニーのウッドデッキとフロアレベルが揃えてあり、アウトドアリビングとしても活躍中だ。
吹き抜ける巨大なリビングへと生まれかわる。
理想とわがままをめいっぱい詰め込んだ家。
この自由度の高さは、信頼性の高い堅牢な躯体を手に入れられたからこそ。
カスタムの愉しみを教示してくれる家だ。
足元には屋外の緑を感じられる小窓もカスタム
木(もく)を多用した空間デザインと調和し、互いを引きたてあう。
コーナーに生けた植栽がアクセントとして効いている。
向こう側のハンガーラックを巧みに隠す
雨が降ると、雨水がたまって池になる設計を取り入れているそうだ
written by Masaki Takahashi /
photographed by Tsutomu Suzuki /
© Asahi Kasei Homes


※WEB掲載用に一部加筆・修正しています。