2020年4月1日より、改正民法が施行されます。120年ぶりの改正とあって、業界でも注目が高まっています。すでに商慣習として普及しているものもありますが、中には気をつけるべきポイントもあります。賃貸経営にとって、どんな影響があるのか解説します。
入居者が退去する際の、原状回復や敷金の返還に関しては、すでに国土交通省が公開している「原状回復ガイドライン」が浸透していて、商慣習化されています。今回の改正民法では、あらためて原状回復や敷金に関する内容が明文化されました。
入居者は「賃借物を受け取った後に生じた損傷について原状回復義務を負うこと、しかし、通常損耗や経年変化については原状回復義務を負わないこと」と改正民法で明記されます。
現状でも、故意過失でない限り、入居者に原状回復費用を請求することなく、敷金は全額返還しているケースがほとんどです。ただし、クリーニング費用のみ入居者負担として特約を結び、別途請求しているケースも多く見られます。
また、敷金については、これまで民法では定義されていませんでした。改正民法では、敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しました。つまり、敷金は家賃等を担保するものということです。これについても、現状に法律が追いついたということになります。
すでに、商習慣化されていた原状回復や敷金の定義について、あらためて民法に明記されることになった。
原状回復などで、問題になるのは「通常損耗・経年劣化」の範囲です。
具体的に、いくつか例を挙げてみます。
修繕に関しては、退去時だけではなく、日々の生活の中でも起こります。例えば、設備が故障したり、地震や台風で窓ガラスが破損したりなどのケースです。これまで、入居者は、勝手に修繕することはできませんでした。改正民法では、次の2つのケースで入居者が部屋の修繕を行うことができることになりました。
1.賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知したか、又は賃貸人がその旨を知ったのに、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
2.急迫の事情があるとき。
自然災害が多発している昨今では、このようなケースはあるかもしれません。また、上記1.2の場合の修繕に費やした費用はオーナーに請求できます。
緊急性がある場合は、入居者自らが修繕を行うことができることになった。
経年劣化等によるエアコンや給湯器の故障は、よくある話です。すぐに修理できればよいのですが、自然災害などの場合すぐには対応できないときもあります。これまでも、入居者は「賃料の減額を請求することができる」と明記されていましたが、改正民法では、使用できなくなった部分の割合に応じて「当然に賃料は減額される」と強めの表現になりました。
ただし、どの程度壊れたら、どのくらい減額するかまでは明確になっているわけではありませんし、これまでの判例等の蓄積による明確な基準もないことから、国土交通省の「賃貸住宅標準契約書 平成30年3月版」では、「減額の程度、期間その他必要な事項について協議するものとする」とし、オーナーと入居者で決定することが望ましいとしています。参考として、国土交通省では「賃貸借トラブルに係る相談対応研究会」による家賃減額に関する最近の裁判例や実務の動向をとりまとめた「相談対応事例集」も公表しています。
また、公益財団法人「日本賃貸住宅管理協会」では、「貸室設備等の不具合における賃料減額ガイドライン」に減額割合や免責日数を提示しています。例えば風呂が使えない場合は、使えなくなって4日目以降の賃料を10%減額するという目安になっています。
大切なのは、しっかりとメンテナンス計画を立てることです。設備等は、15年を目安に入居者の入れ替え時に取り換えるほうがよいでしょう。また、故障が発生したときにすみやかに対応できるメンテナンス体制も必要です。突発的な補修・修繕費用はオーナー負担となるので、つい対応が遅れ、結果的に家賃減額を強いられるなど、安定経営の妨げとなる場合があります。
HEBEL HAUSの30年一括借上げシステムでは、毎月一定額をお支払いいただくことで、いつ、どの程度発生するか予測できないこれらの費用を、旭化成不動産レジデンス(株)等が負担する「メンテナンスサポートプラン」があります。これを活用することで、毎月一定額のお支払いで、突発的な補修・修繕費用を気にすることなく、スムーズに対応できます。
設備等が故障した場合は、家賃減額対象となる。突発的な設備故障などには、スムーズに対応できるメンテナンス体制が必要。
改正民法では、賃貸借契約において連帯保証人を付ける場合、「極度額(連帯保証人の責任限度額)」を明記することになりました。これは、改正民法の連帯保証人制度の変更によるもので、一般的な保証契約では連帯保証人のトラブルは絶えなかったことに理由があります。例えば、友人から「名前だけ貸してほしい」と安易に連帯保証人になったことで、大きな借金を背負わされてしまうというケースです。そこで、「極度額」の定めのない個人の保証契約は無効になることになりました。賃貸借契約の場合も同様です。
では、「極度額」はいくらに設定すればよいか。これについては、明確な規定はありません。一般社団法人「全国賃貸不動産管理業協会」の調査では、賃料5万円を想定した場合、最も多かったのが「60万円超~120万円以下」30%で、「賃料2年分以下」が全体の約7割となりました。
国土交通省でも「極度額に関する参考資料」で調査結果を公表しています。調査では、家賃債務保証業者が、実際にいくらの損害が発生したかを家賃別に集計しています。例えば、賃料4万円~8万円未満の場合は、20万円未満が51.9%、40万円未満が75.5%です。また、これまでの連帯保証人に負担を命じた判例を調査した結果では、平均で家賃の約13.2カ月分とのことです。
ただし、現状の賃貸借契約は保証会社を利用するケースが多く、連帯保証人を付けるケースはさらに減少していくことが予想されます。国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」でも、「家賃債務保証業者型」と「連帯保証人型」と分けて作成し、公表しています。
国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」や公表資料はコチラから。
賃貸借契約で連帯保証人を付ける場合は、「極度額(連帯保証人の責任限度額)」を明記しなければならない。