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相続が変わる!? 民法(相続法)改正のポイントは?

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2018年8月21日

相続が変わる!? 民法(相続法)改正のポイントは?
辻󠄀弁護士(左)と山下税理士(右)
辻󠄀弁護士(左)と山下税理士(右)

相続に関する民法改正案が国会で成立しました。新設された「配偶者居住権」など、ニュースで知った方もいらっしゃるかと思います。果たして、今回の改正は実際の相続にどんな影響を及ぼすのでしょうか? アクロス法律事務所の辻󠄀広司弁護士と渋谷税理士法人の山下健人税理士に伺いました。

■配偶者居住権を新設。その背景は?

─民法の相続に関する改正は約40年ぶりとのことです。なぜ、このタイミングなのか、その背景はなんですか?

辻󠄀:今回の改正は「超高齢社会」を見据えた改正です。これまで、法制審議会で様々な改正案が議論されてきたのですが、ようやくまとまり国会で成立、7月13日に公布されました。今後の超高齢社会で起こりうる問題に対応するために権利を定めたり、資産の承継がスムーズにいくように柔軟な相続のルールを定めたりしています。
特に"配偶者の保護"が重視されたのが特徴的です。法制審議会では、配偶者の法定相続分を2分の1から3分の2に増やそうという改正案もありましたが、パブリックコメントなどで反対意見が多かったこと等もあり、実現しませんでした。そして新設されたのが「配偶者居住権」です。

─配偶者居住権の概要について教えてください

辻󠄀:簡単に言うと、ご主人が亡くなって自宅の相続が発生した場合、配偶者が死亡するまで自宅に住む権利を取得できるよう"法律で定めた"ということです。一般的に考えれば、なぜそんな権利をわざわざ法律で定めたのかと疑問に思うかもしれません。

例えば相続人が配偶者と子どもで、遺産が自宅しかなかったとします。子どもが法定相続分の2分の1の相続を主張した場合、自宅を売って現金にして分割するしかありません。また、自宅の評価と同等の現金があっても、2分の1ずつ分ければ、配偶者は現金が相続できず、その後の生活資金がままならない状況になってしまいます。
そういった事態にならないよう、自宅に関しては「所有権」とは別に「配偶者居住権」を新設することで、配偶者が住まいや生活資金を確保しやすくなるようにしたのです。

─実際の相続で、そういった困ったケースはあるのですか?
辻󠄀弁護士

辻󠄀:実際には子どもが母親に自宅から出て行けなんていうことは、そうそうあることではありません。例えば、子どもが前妻の子であったり、子どもがいなくて兄弟姉妹間で相続する場合は、兄弟姉妹の配偶者の入れ知恵もあったりして、もめるケースはあるかもしれませんね。
万が一のセーフティーネットの意味合いで権利が法律で定められているのは、配偶者にとっては大きな安心材料となります。
誤解されやすいこととして、配偶者居住権は相続する権利というものではありません。法定相続人の合意や被相続人の遺言等で取得できるというものです。

─配偶者短期居住権も新設されました。

辻󠄀:これまで法的には、相続が発生した時点で遺産は法定相続分に分けられたとみなしていました。つまり、遺産が被相続人と配偶者だけが居住していた自宅だけで配偶者と子どもの二人が相続人なら、相続発生の時点から自宅の半分が配偶者、もう半分は子どものものとなりますので、配偶者は自宅の半分を居住していない子どもから借りているとして相応の賃料が発生しているということになってしまいます。
もし、相続がもめて解決に5年、10年かかってしまうと、その間ずっと賃料が発生していることになるのです。また、第三者に遺贈された場合も対応策がありません。
そういったことから、遺産分割協議が終わるまでは自宅に無償で住む権利として配偶者短期居住権が新設されました。これも争いになったときのセーフティーネットのような意味合いが強いでしょう。

■今のところ配偶者居住権を活用した相続対策は考える必要はない

─配偶者居住権で遺産分割の選択肢が一つ増えたことになりますが、評価はどのようにするのですか?

山下:遺産分割の際に、自宅について、「配偶者居住権」を配偶者、「所有権」を子供、という分け方ができるようになります。配偶者居住権の評価の方法は、法制審議会で例が示されています。その一つは、配偶者が終身で使用するとして平均寿命を考慮した評価方法です。高齢なほど使用期間が短いので、評価は低くなります。ただ、相続税上の評価がどうなるかは、これからの課題だと思います。

─相続税の負担としては、配偶者居住権はどのような影響があるのでしょうか?
山下税理士

山下:民法の改正と税制は、まったく別の話になります。配偶者居住権に関する税制の部分は、まだ何も決まっていません。
自宅の敷地の評価が8割減額される小規模宅地等の特例がありますが、これも配偶者保護などのために作られた税制です。相続税を払うために自宅を売ることがないよう、自宅の敷地評価は低くするというものです。
今回の配偶者居住権を活用した場合、小規模宅地等の特例との関係がどうなるかは、これから整備されることになります。配偶者居住権の施行日は今後約2年以内を予定されています、施行日までにははっきりするでしょう。ただ、配偶者居住権はあくまで住む権利を確保するために新設されたものですので、相続税減額のための対策となるとは考えにくいです。

配偶者居住権は、配偶者の死亡により消滅するので、二次相続の際に相続税がかからないと考えられるので、二次相続の節税に繋がるという意見も聞きますが、ここにはなんらかの手当がされると思います。
節税対策としては、従来どおり、小規模宅地等の特例の適用を受けて、自宅を相続するのが良いでしょう。

─つまり、配偶者居住権ができたからといって、今の相続対策や遺産分割について見直す必要はないということでしょうか。

山下:はい、そう思います。家族関係が複雑な場合は、配偶者居住権を使ったほうが良いケースもあるかもしれませんが、一般的には使う必要はありません。仮に、家族関係が複雑だとしても、それは遺言などで対処すべきです。
辻󠄀:私も、そう思います。配偶者居住権そのものは、従来の相続対策としては大きな影響はありません。やはり、遺言を始め、生前贈与、任意後見制度、家族信託などを活用して相続対策に取り組むのがよいと思います。

■相続人以外の寄与分が認められる

─相続人以外の親族でも特別寄与料として金銭が請求できるようになりました。

辻󠄀:これまでも、相続人の間でのみ主張できる「寄与分」というものはありました。例えば長女が最期まで介護をしたので、その分、多く相続したいという主張です。ただし、実際に寄与分が認められるには非常にハードルが高いのが実情でした。家族が介護するのは、当然だという認識があったからです。ましてや、法定相続人でなければ蚊帳の外です。例えば亡くなった長男のお嫁さんが長年介護していた、というケースです。お嫁さんには相続権はありません。

しかし、これからの超高齢社会ではそういったケースは増えるでしょう。これを放置することは公平や被相続人の通常の意思からも妥当とは言えません。そこで、法定相続人以外でも、「特別寄与料」として金銭を請求できるようになったのです。実際、いくら請求できるのかは今後の課題です。介護に値する労働の対価をいくらに設定するのか、時間にしてどれだけかなど、細かく計算する必要があるでしょう。
このような権利ができたことで、今後は遺産分割を考える場合、特別寄与者のことも考慮した上で、遺産分割するということになってくるでしょう。同様に、法定相続人の間での寄与分も認められやすくなってくるのではないでしょうか。

■遺産分割前に生活費が引き出せる

─預貯金が引き出せる仮払制度について、活用方法を教えてください
山下税理士

山下:これまで、相続が発生すると被相続人の預金口座は凍結され、遺言書が無ければ、遺産分割協議が終わるまで預金を引き出すことができませんでした。
これが、葬儀費用や生活費などについては、遺産分割協議が終わってなくても引き出せるようになります。遺産分割協議は5年、10年と長引くことがあります。残された高齢の配偶者の場合は生活費に困窮することが想定されますので、この制度があれば安心です。

できれば、当面の生活費などは、従来どおり、生命保険でカバーするのが良いと思います。生命保険は、あらかじめ指定した受取人が、保険会社に必要書類を提出することにより、早く現金化することできます。
また、賃貸経営している場合は、相続発生時でも法人の口座は凍結しませんので、家賃収入を受け取り、諸経費の支払いも可能ですから、法人化するという手はあります。節税対策としての法人化はよく語られますが、これも法人のメリットです。仮払制度は、遺産分割協議が長引いた時の保険と考えた方がよいでしょう。

■遺留分制度の見直しで事業承継がスムーズに

─遺留分制度の見直しでは、どういうメリットがあるのですか?

山下:特に事業承継にメリットがあります。遺留分制度の見直しについて、まずは遺留分の金銭債権化です。現行では、遺留分が侵害されたと遺留分減殺請求をした場合は、遺留分侵害の現物でしか返還を求めることができませんでした。例えば、それが不動産だった場合、共有不動産にするしかなかったのです。
事業承継の場合は、自社株がそれにあたります。後継者として長男に自社株を集中して承継させても、自社株が遺留分を侵害していたのであれば、自社株が分散してしまい、経営上はよくありません。改正により、現物ではなく金銭で支払うことができるようになりました。

また、遺留分の算定には被相続人の兄弟姉妹以外の相続人に対する過去の生前贈与について、期限なく対象となっていました。つまり、20年前、30年前の贈与も遺留分額算定の基礎となる財産に算入されていたのです。実務レベルではこの証明が非常に難しかったのです。今回の改正によって、期間が相続開始前の10年間に限定されました。

中小企業の事業承継に関しては、自社株の評価が高い会社は、以前から相続による事業承継が難しいと問題になっていましたが、今年の4月1日から中小企業の株式の相続税を実質ゼロにする新しい事業承継税制の特例が始まっています。加えて、今回の遺留分の見直しで、早めの自社株の生前贈与などにより、かなり事業承継がしやすくなったと言えるでしょう。

■自筆証書遺言の作成などが簡素化

─自筆証書遺言が作りやすくなったのですか?
辻󠄀弁護士

辻󠄀:自筆証書遺言は全文を手書きで書く必要があるのですが、財産目録についてはパソコンでの作成が可能になります。また、自筆証書遺言をどこかに隠してある場合、誰にも発見されないということが起こります。そのため法務局で保管する制度が創設されます。もう一つ、自筆証書遺言が見つかった場合、原則、家庭裁判所に相続人全員が集まって検認するという手続きが必要でした。この検認が不要になり、手続きがスムーズになります。

いずれも、自筆証書遺言のデメリットだった部分が緩和され、利用しやすくなったと言えます。遺言は、相続対策の第一歩とも言える重要な対策です。今回の改正も遺言の必要性を重視したことの表れです。

ただし弁護士としては、自筆証書遺言そのものは、あまりお勧めできません。やはり、遺言書自体要件が厳格なため、無効になったり争いの余地を残すケースが少なくないからです。いくら、法務局に預けて検認が不要になったといっても、肝心の中身が無効のものであれば意味がありません。やはり、遺言は公正証書遺言にすべきだと思います。無効でないか専門家のチェックも入りますので、安心です。実際、公正証書遺言を作成する人は年々増えています。

■超高齢社会での相続対策の基本は、遺言、任意後見制度、家族信託

─今回の改正を踏まえて、改めて超高齢社会の相続対策について気をつけるポイントを教えてください。

辻󠄀:今回解説した改正以外にも細かい改正がいくつかありましたが、いずれにせよ今回の改正は、超高齢社会を見据えて最低限の権利を確保するために法整備したという意味合いが強いです。言い換えると、改正内容は超高齢社会で起こりうる相続トラブルへの対応だということです。この問題意識を念頭に置いて、各人が自分に合った相続対策を立てればよいと思います。
改正内容は万民向けの最大公約数的なものにすぎません。法に頼らずとも個別の家庭事情に応じ、ご自身の意志を酌んだ遺言書作成、認知症対策としての任意後見契約、家族信託の活用などで十分対応が可能です。特に任意後見契約は公証役場での手続きが必須になりますので、この機会を公正証書遺言作成と任意後見契約をセットで検討する契機とされた方がよいでしょう。

山下:税制的には、どうなるかまだはっきりしていませんが、改正内容で相続税対策に影響のあるものは少ないと思います。ただ、繰り返しになりますが遺留分制度の見直しについては事業承継で有利に働くでしょう。
相続税制に関しては、平成27年から基礎控除が減額になり、大増税となりました。最近では、小規模宅地等の特例の要件が厳格化されるなど、相続税は負担が増える傾向にあります。ただ、これ以上の増税の方向にはいかないのではと思っています。

昨今の相続税対策としては、小規模宅地等の特例をどう使うかが大きなポイントになってきます。一次相続では、今回の配偶者居住権を使うまでもなく、配偶者が相続すれば自宅の敷地評価は8割減となります。しかし、二次相続で同居していた子どもがいない場合に、複雑な要件を満たした「家なき子」が自宅を継がないとなると、小規模宅地等の特例が使えませんので、相続税は大幅にアップします。他に賃貸住宅を保有していれば、そこの敷地は5割減になりますので負担は軽減されます。この「貸付用宅地等」の要件について、さきほどの「家なき子」の要件とともに、平成30年の税制改正で厳しくなっているので注意が必要です。

もう一つ超高齢社会で気をつけたいのは、死亡後の相続ではなく、認知症など意思能力がなくなったときのための対策です。意思能力がなくなると、事実上資産は凍結してしまいます。また、相続人である配偶者が認知症ということもありえるでしょう。これも非常に煩雑な手続きが必要になります。
やはり、賃貸経営の法人化や遺言、任意後見制度、家族信託で万が一に備えた上で、テクニカルな節税対策、例えば土地活用、生命保険の活用、資産の組み替えなどを検討するのがよいでしょう。

※公布の内容の詳細については、法務省ホームペーシのコチラを参照ください。

■相続に関する主な民法の改正(一部概要)

アクロス法律事務所 弁護士
辻󠄀 広司 (つじ ひろし)写真左
渋谷税理士法人 代表社員 税理士
山下 健人 (やました たけひと)写真右
これからの相続対策に関しては、法務、税務の両方の観点が欠かせません。

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辻󠄀 広司 (つじ ひろし)写真左/山下 健人 (やました たけひと)写真右

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