賃貸住宅は築年数が経つと競争力が弱まることもありますが、その要因の一つが設備です。最新の賃貸住宅は分譲マンションにも劣らない設備を備えていて、リフォームなどをしていない築古の物件とはどうしても家賃の差が開いてしまいます。今回は不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)」が発表した、「家賃の差額が大きい条件ランキング」を参考に、設備と家賃の関係について考えてみたいと思います。
調査の対象物件は首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)のLIFULL HOME'Sに掲載された築40年以内、15m2以上40m2未満の居住用賃貸物件です(対象期間は2022年4月~2023年3月、家賃は月額賃料の中央値)。
検索条件に設備を加えた場合と加えない場合で、家賃にどれだけ差があるかを示したものです。ランキングを見ると設備の「ある」「なし」でかなりの家賃の差額があることが分かります。特定の設備がないということは相対的に築年数が古いと想定できますので、家賃は特定の設備だけが要因ではないと思われますが、これまでにない視点の参考になる面白いデータです。
最近の新築物件であれば、ランキングに入っている設備はほぼ完備していますので、築古の賃貸住宅に設備投資やリフォームをする際の参考になるでしょう。1位から3位は構造的な問題ですので、リフォーム可能な設備の観点で、次の項で4位以下を注目して見たいと思います。
設備の「ある」「なし」で、家賃に大きな違いが出る。設備投資やリフォームをする際はまず、このランキングを参考に検討するのがよい。
まず注目したいのが、4位の「独立洗面台」「宅配ボックス」です。
特に最近ニーズが高まっているのが「独立洗面台」。Z世代(およそ25歳以下)に人気の設備で、不動産情報サービスのアットホーム株式会社が行った「Z世代のライフスタイルに関する調査」の重視する設備の1位が「独立洗面台」です。Z世代は女性だけではなく男性も美容に気を遣う世代で、男女ともにニーズが高いことを表しています。
7位に「バス・トイレ別」がランキングされていますが、いわゆる3点ユニットをリフォームしてバス・トイレを別にするリフォームはよく聞きます。これからは、さらに洗面台を独立させることがプランニングやリフォームの費用対効果を高くすると考えられます。
リフォームでは難しいと思われがちですが、工夫次第で洗面台を独立させることが可能です。昨今のように上昇トレンドの家賃相場であれば、リフォーム後に家賃がアップできる可能性もあります。
家賃の差額は21,000円。この差額は新築と一世代前の3点ユニットの物件の差額と言えそうです。水廻り全般をリフォームすれば、家賃設定に有利になるでしょう。
「宅配ボックス」はネットショッピングが日常的に行われるようになった数年前から、ニーズが高まっていました。コロナ禍では非対面での受け取りが重視され、さらにニーズが高まりました。省スペースで設置できるものもありますので、ぜひ検討したいところです。
■リノベーションで玄関横に独立した洗面台を設置した例
「バス・トイレ別」だけではなく「独立洗面台」のニーズが高い。「宅配ボックス」も合わせて、プランニング・リフォームすれば家賃を高く設定できる可能性が高い。
次に注目したいのが6位「追焚機能付き」、7位「コンロ2口以上」です。
今、賃貸市場環境にも大きな影響を与えていると思われるのが、資源高、エネルギー高によるインフレです。これにより節約志向が高まり、「追焚機能付き」、「コンロ2口以上」といった節約に結びつく設備のニーズが高まっています。
「追焚機能付き」はファミリー向けでは必須設備でしたが、シングル向けでもニーズは高まっています。ここでもZ世代の特徴が表れているのですが、Z世代は堅実な経済観念を持っています。一人暮らしでも「追焚機能付き」があれば水道代、ガス代の節約になります。
全国賃貸住宅新聞の「この設備があれば周辺相場より家賃が高くても決まる設備2022」ランキングのシングル向けでも10位にランクアップしています。
また、Z世代一人暮らしの夕飯は全体で75%が自炊と答えています。性別で見ても女性82%、男性68%と男性でも多く、「コンロ2口以上」のニーズが高まるのも分かります。
全国賃貸住宅新聞の「この設備がなければ入居が決まらない設備2022」ランキングのシングル向けでは「ガスコンロ2口/3口」が10位にランキングされ、「独立洗面台」とともに定番の設備となりそうです。
家賃の差額は「追焚機能付き」で19,000円、「コンロ2口以上」で18,000円となっています。「独立洗面台」同様、水廻り全般のプランニングやリフォームでこれらの設備を設置すれば、家賃設定に有利になるでしょう。
インフレによる節約志向が高まり、「追焚機能付き」「コンロ2口以上」のニーズが高まる。Z世代を中心とした単身者向けでもニーズは高い。
条件で差額がなかったのが、「南向き」でした。一般的には日当たり良好の南向きは人気が高いと思われていますが、「春から秋にかけて毎日暑く遮光・遮熱カーテンが必須」「家具が日に焼けてしまった」などマイナスな意見もあります。確かに昨今の夏の猛暑などは耐えがたいものがあります。結果、「南向き以外」のほうが家賃は高くなっています。
今後は方角よりも、建物自体の断熱性や省エネ性能が問われる時代になると考えられます。断熱性・省エネ性を高める方法の一つに、窓ガラスをペアガラスにする、内窓を付けるといった方法があります。遮音効果も高まりますので、設備のアピールポイントになるでしょう。
さらに、設備投資として行うには難しいのですが、太陽光発電による省エネ・創エネ・断熱等を実現したZEH-M(ゼッチマンション)などの普及が進んでいます。こちらの動向も今後は注意する必要があるでしょう。
もう一つ差額が出なかったのが「フローリング」です。これは和室がよいということではなく、フローリングにこだわる必要はなく、クッションフロアやカーペットなど素材が多様化しているということです。
和室のある2DKの間取りを、1LDKにリノベーションすることで、家賃がアップした例もよく聞きます。その際、必ずしもフローリングにこだわらず、費用対効果を考えた素材を選んでも良さそうです。
「南向き」「フローリング」は意外と家賃の差がない。方角より断熱性・省エネ性を高めること、フローリングに限らず費用対効果を考えた設備投資を。