この数年、家賃相場は上昇していますが、全ての賃貸住宅が上昇しているわけではありません。好立地にあっても老朽アパートの場合、家賃が下落してしまうこともあります。この先の相続も踏まえ、建て替えを検討しているオーナーも少なくないでしょう。しかし、立ち退きがスムーズにいくか、建て替え後の採算は大丈夫か、といった不安要素もあります。今回は、老朽アパートを建て替えるにあたって押さえておきたい4つのポイントを解説します。
老朽アパートの建て替えで、最も大きな壁が入居者の「立ち退き」と言ってもよいでしょう。まずはスケジュールですが、賃貸借契約の解約申し入れは最低でも6カ月前までにしなければなりません。半年から1年、余裕を持って計画することが大切です。
解約の申し入れで大事なのは、なぜ建て替えるのかという理由です。これを借地借家法で「正当事由」と言います。借地借家法では入居者保護の観点から、余程の理由がなければ、正当事由とは認められません。正当事由には明確な基準はありませんが、例えば1981年以前の建物は古い耐震基準のため「建物の築年数が古く耐震基準を満たしておらず、倒壊の危険がある」となれば正当事由として認められる可能性は高いでしょう。
立ち退き料については、ケースバイケースです。一般的には、転居費+アルファや賃料の3~6カ月分と言われています。それよりも大きな問題は、転居先が見つからないというケースです。老朽アパートの場合、入居者も高齢の方が多く、家賃も低く抑えられています。特に都心部では、耐震性や耐火性の不安から老朽アパートの建て替えが進んでいるため、同程度の家賃では転居先が見つからないというケースが増えています。いくら入居者が了承しても、引っ越し先が見つからなければ転居できません。その場合は、不動産会社と連携して、まず転居先を見つけるのが先決です。
高齢の入居者にとって、住み慣れた部屋から引っ越しするのは、大変な労力を強いられるものです。入居者の転居の負担を少しでも軽減できるよう、さまざまなフォローを考えることもスムーズな立ち退きを進める上で大切です。
立ち退きをスムーズに進めるには転居先の斡旋も必要。不動産会社と連携してフォローする。
賃貸住宅経営は20年、30年と続く長期事業です。プランニングで大切なのは、エリアのニーズを反映し、いかに差別化を図るかです。ニーズの把握にあたっては、以下の3つポイントに注意が必要です。
この数年、都市部ではいたるところで再開発が行われています。再開発によって、街のイメージががらりと変わることもあり、これまでと違う入居者層が増えることもあります。例えば、大学の誘致により学生の街となったり、行政の子育て支援によりファミリー層に人気が出たりすることもあります。将来も見据えたニーズの把握が大切になります。
単身者向けでもそのエリアで求められているのは、学生か、サラリーマンか、女性向けか。またサラリーマンでも、若手のサラリーマンか、中堅のサラリーマンか。入居者ニーズを細分化してプランニングすることで差別化を図ることができます。例えば女性に人気の街であれば、セキュリティを強化した単身女性向けの賃貸住宅で差別化を図ることができます。
エリアの特性を見極めた上で、付加価値の高いプランニングを行うにはコンセプトを明確にすることです。単身女性向けもそうですが、その他人気のコンセプトがペット共生型、子育て世帯向け、高齢者向けなどです。これらの賃貸住宅には、入居者同士のゆるやかなコミュニティがあるのが特長です。
また今後のスタンダードとして、ZEH対応賃貸住宅も注目されています。省エネ性能が高く、光熱費が抑えられるZEH対応賃貸住宅にすることで付加価値がさらに高まります。
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プランニングにあたってはエリアのニーズを見極め、コンセプトを明確にして付加価値をつける。
建て替えにあたって、一つの不安材料が建築費の高騰による採算性の低下です。金利上昇の懸念もありますが、それでも長期的に見れば、まだ低金利であることは間違いありません。
採算性に関しては、収支計画をしっかりと見通し、ご自身で納得することが大切です。ポイントは無理のない範囲でプランニングし、長期にわたり収支を安定させることです。
収支はプランニングでも決まってきますが、単に収入を増やすために設備・仕様のクオリティを落としたり、住戸数を多くするために使い勝手の悪い間取りにするのは、長期で見た場合に空室を招くなどの悪影響を及ぼします。
また、敷地面積や容積率いっぱいに活用するだけが得策ともいえません。建物が大きくなれば建築費が増え、借入金の負担が大きくなります。4階建てが可能でも、あえて3階建てで検討するほうがよいケースもあります。
収支計画を立てる際のポイントは(1)賃料、(2)空室率、(3)修繕費です。
入居者入れ替え時に賃料を上げるケースもありますが、築年数が経った物件では家賃は下落するものです。付加価値の高いプランほど安定的に推移しますが、賃料が下がらないパターン、数%下がったパターンなど複数のシミュレーションで検討してみるのがよいでしょう。
長期的には空室も出る前提で空室率を設定したほうがよいでしょう。特に繁忙期を過ぎて空室になると空室期間が長引く可能性があります。
「空室」は一括借上げを採用することで回避でき、安定した収支計画が可能です。ただし、2年毎に賃料の見直しがあり、賃料自体は下がることもあります。
入居者の入れ替え時の原状回復費用、設備の寿命による取り換え費用などを見越しておく必要があります。さらに、大規模修繕についても、当初から修繕費用を積み立てるなど、メンテナンス計画にのっとって収支計画を立てていくとよいでしょう。
長期にわたり安定した収支計画にする。相続対策も踏まえ、無理のない範囲でプランニングする。
老朽アパートの場合、ご自身で管理しているオーナーもいらっしゃるかもしれません。しかし今の賃貸管理は専門性が高く、プロに任せる時代です。管理の良し悪しが、長期にわたる安定経営を左右するといっても過言ではありません。
賃貸管理のパターンは次の3つがあります。
・自主管理:オーナーが全て管理、24時間・365日対応しなくてはいけない。
・管理委託:一部を管理会社に委託、管理内容は数パターン用意されていることが多い。
・一括借上げ:管理会社がオーナーから一棟借上げて、全ての管理業務を行う。
最近は「管理委託」か「一括借上げ」のどちらかを選択していることが多いです。
収支計画の項でもポイントとしてあげましたが、「空室」や「家賃滞納」は賃貸経営の大きなリスクの一つです。これらのリスクを回避できるのが「一括借上げ」です。
また、「一括借上げ」の場合は、管理の一切を任せられることもメリットの一つです。所有と管理を分離させることで、将来の事業承継においてもメリットがあります。引き継ぐ子ども世代は会社員であることが多く、一括借上げであれば日々の管理・運営をしなくてよいため、会社員との兼業でも賃貸経営が十分可能で、事業承継がスムーズに運びます。土地オーナーにとっては「一括借上げ」のメリットは大きいでしょう。
賃貸管理はプロに任せる時代。土地オーナーにとっては、事業承継も踏まえると賃貸管理は「一括借上げ」のメリットが大きい。