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地価上昇で、見直しが迫られる相続対策

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2019年8月27日

地価上昇で、見直しが迫られる相続対策
橋本知己税理士

三大都市圏では地価の上昇が続いています。7月1日に発表された路線価は主要都府県で6年〜7年連続の上昇です。さすがに、これだけの上昇となると土地オーナーにとっての影響は否めません。地価上昇は、土地オーナーの相続にどんな影響をもたらすのでしょうか? 税理士法人第一経理の橋本知己税理士に伺いました。

CONTENTS
 ■土地オーナーは地価上昇に注意!
 ■公示地価と市場価格の差で遺産分割に落とし穴!?
 ■地価上昇局面での有効な相続対策とは?
 ■地価上昇を機に資産のポートフォリオを見直す

■土地オーナーは地価上昇に注意!

─地価が上昇しています。土地オーナーにとっては資産価値が上がるので、良い傾向と捉えてよいのでしょうか?

橋本:ご存じのように三大都市圏では地価が上昇しています。2019年の路線価は東京圏、大阪圏では6年連続の上昇、愛知県は7年連続の上昇です。これは、再開発の激しい商業地だけでなく、都市部の住宅地も確実に上昇しています。
もちろん、土地オーナーにとっては、資産価値が高まるのは喜ばしいことです。しかし、注意が必要です。相続税・贈与税は路線価をベースに算定されますので、当然、地価が上がれば、これらの負担は大きくなります。

■主要都府県の標準宅地の対前年変動率の平均値推移(単位:%)

─固定資産税や相続税にどの程度影響があるのでしょうか?

橋本:固定資産税については、3年に一度、固定資産税の評価替えが行われます。2018年度が評価替えの年でしたので、すでに固定資産税が上がったことを実感されている方もいるでしょう。次の評価替えまで、固定資産税は原則、据え置かれることになります。
ただ、固定資産税については、地価の急激な上昇、下落に納税負担が影響されないよう負担調整されていますので、土地の広さにもよりますが、今回の上昇の影響で大幅に負担が大きくなることはないでしょう。
問題は相続税です。この6年間で路線価が数千円値上がったというケースも少なくないでしょう。そうなると、広い土地であれば相続税評価額に大きく影響してきます。以前に計画した相続対策では、確保できていた納税資金が足りない、ということもありえます。

─オーナーのみなさんも、地価の上昇と相続税の影響について心配されていますか?
橋本知己税理士

橋本:まだそこまで危機感を持っているオーナーさんは少ない、というのが実感です。相続はいつ起こるか分かりませんし、地価がこの先も上がり続けるかどうかも分かりませんから、意識しづらいのかもしれません。
ただし、やはり注意は必要です。昨今は、地価の上昇だけではなく、相続税強化や相続法の改正など、さまざまな環境が急変しています。そこに対応できているか、しっかりとチェックしないと、結局、代々受け継いだ土地を手放さざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。

─相続税の相談に来られる方は増えていますか?

橋本:増えています。相続税増税の影響もありますし、昨今の年金2,000万円問題などをきっかけに相談に来られます。今後のご自身のライフプランを相続対策も含めてもう一度見直したいなどのご相談で、あらためて資産の査定をし直すと、以前の相続対策が地価上昇で効果がなくなっていることがあります。

■公示地価と市場価格の差で遺産分割に落とし穴!?

─10年前に行った相続対策は見直さなければなりませんか?

橋本:まず、2015年に相続税の基礎控除が大幅に引き下げられています。さらに、地価上昇で、土地オーナーの負担は大きくなっていることは確実です。2015年からの基礎控除の引き下げで、相続対策を見直した方も多いと思いますが、さらに、そこから地価が上昇していますので、あらためて資産の査定をし直すと相続税の納税額が大幅に増えている可能性があります。地価が上昇している局面では3〜4年に一度は資産の査定をし直した方がよいでしょう。

─見直す際に、気をつけたいポイントはありますか?

橋本:地価の上昇局面では、公示地価や路線価が市場価格に追いつかないという現象が起こります。つまり、公示地価や路線価よりも市場価格のほうが高いのです。特に駅近の土地などはもともと利用価値が高いので、いったん地価が上がり始めると、あっという間に上昇し、一年に一回の調査で行われる公示地価や路線価では追いつかないのです。そこで問題になるのが遺産分割の際の公平性です。
遺産分割を考えるときは、公示価格や路線価などをベースに決めることがあるのですが、それだと不公平感が出てしまうケースがあります。
例えば相続財産が、1億円の評価額の土地と現金1億円だったとします。相続人は2人で、それぞれ1億円の土地と1億円の現金で遺産分割するとします。しかし、土地は評価額で見ると1億円でも、市場価格で見ると1億2千万円だったということがあるのです。そうなると公平に分けたつもりが、そうではなくなってしまいます。
または、遺言書で公平に複数の不動産を遺産分割したつもりでも、地価の上昇は土地によって違うので公平でなくなっているかもしれません。地価の上昇局面では、こういうことがよく起こりますので、注意してください。不動産の遺産分割は市場価格で考えることがポイントなのです。
路線価が上昇に転じた6年の間に、地価上昇で納税資金の負担増と、遺産分割の不公平感が生じている可能性があることに注意しなければなりません。

■地価上昇局面での有効な相続対策とは?

─相続対策を見直した結果、再考が必要な場合、有効な対策はありますか?
橋本知己税理士

橋本:地価が上昇した分、納税額も増えているはずですから、まずは納税資金の確保です。王道ですが、こまめに生前贈与する方法があります。暦年贈与の110万円の非課税枠を使ってコツコツ毎年生前贈与するのです。土地オーナーなど資産家の場合は、贈与税を納税してでも、相続税より有利な場合が多く見られます。このあたりは、贈与税と相続税のどちらがよいか専門家に相談していただくのがよいでしょう。
また、相続税における生命保険の非課税枠は500万円×法定相続人の人数分です。意外とこれを活用されていない方が多いので、必ず活用するよう提案しています。個人事業主の方が利用できる小規模企業共済制度も掛け金は所得税の節税にもなりますし、死亡時には死亡退職金として同じように500万円の非課税枠がありますので、納税資金の確保にも役立ちます。
まずは、シミュレーションして総合的に判断することが肝要です。

─不動産を生前贈与することは有効ですか?

橋本:例えば、ヘーベルメゾンなどの賃貸住宅建物を生前贈与すれば、家賃収入を推定相続人に移転でき、それが納税資金にもなりますので、有効な場合もあります。不動産の生前贈与には相続時精算課税制度も活用できます。この制度は、2,500万円の特別控除額までは、贈与時に本来かかるはずの贈与税を先送りして、相続時に「贈与財産」と「相続財産」を合算し、あらためて相続税として課税する制度です(※注) 。
精算課税贈与財産については、贈与時点における評価額に対して相続税が課税計算されるので、将来値上がりが見込まれる有価証券や土地などに使うと有効です。よく、未上場法人の株式などの贈与で使います。業績が拡大すると、株価も急騰しますので、その分効果が高くなるからです。
不動産の場合は、投資用マンションに活用するケースがあります。しかし、土地付きの不動産を生前贈与する場合は注意が必要です。

※注:この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降全てこの制度が適用され、「暦年課税」へ変更することはできません。

─不動産を生前贈与する場合、どんな点に注意すればよいですか?
橋本知己税理士

橋本:先に話した、遺産分割の不公平感と同様の問題が起きます。相続時精算課税制度を使えば、そのときの評価額で税額は決まりますが、今回の地価上昇のように6年後、大きく値上がりすれば、贈与を受けた人はかなり有利に相続できたことになります。しかし他の相続人の不公平感につながり、トラブルになることがあります。最近は、相続人もそのことは分かっていますので、市場価格を不動産会社に聞いて調べていたりします。

それから、相続時精算課税制度を利用した土地は「小規模宅地等の特例」が使えません。本来、特定居住用の小規模宅地の特例は自宅土地の評価額を8割減額する特例ですが、家なき子規定の適用要件が厳しくなり、同居相続人がいない場合には自宅では使えないケースが増えています。しかし、賃貸住宅のオーナーなら、賃貸住宅の土地に貸付事業用の小規模宅地の特例が適用できますので、200㎡まで評価額が半分になります。それでも生前贈与したほうがよいのかは、他の資産との兼ね合いもありますし、やはりシミュレーションしてみるのがよいでしょう。

■地価上昇を機に資産のポートフォリオを見直す

─土地の資産価値が上がれば、活用方法の選択肢も増えると思うのですが?

橋本:はい、そのとおりです。積極的に資産運用することで、さらに資産を増やしたり、優良な資産に組み替えたりすることがしやすくなっています。私のお客様で、関東近郊の広大な土地を10億円で売って、都心の一等地のビルに買い換えた方がいらっしゃいます。このように、資産の組み替えをするにも、市場が活性化している今は、良いタイミングといえるでしょう。
不動産を組み替える場合は、広さが狭くなっても駅近など、より利便性の高い場所に組み替えるのがお勧めです。さきほど、公示価格と市場価格の乖離の話をしましたが、好立地な土地ほど上昇幅が大きく、乖離が大きくなる傾向にあります。税制面で見ると、乖離が大きいほど、節税効果が高いともいえます。土地の評価額が、実際の価格よりも低くなりますので、その分節税になるということです。

─やはり、不動産は資産としても有効ですか?

橋本:他の金融資産と比べても不動産はうまく活用すれば安定性があります。それに節税効果も高い。オーナーの中には現金を多く持ちすぎている方もいらっしゃいますが、相続税対策の観点からはお勧めできません。現金の評価は100%ですから、億単位で現金を持っている方は現金を不動産に換えたほうが節税効果は高く、資産運用としても高いパフォーマンスを引き出すことが可能です。
一度、資産のポートフォリオをしっかり作ってみるとよいでしょう。特定の金融資産に偏りすぎてないか、チェックするのです。これは、何が多ければよいというものではありませんが、ご自身のプランにあったポートフォリオを見つけ出せれば、その後の資産運用も計画が立てやすくなります。

税理士法人 第一経理 相続・資産税事業部
グループリーダー 税理士
橋本 知己 (はしもと ともみ)
第一経理グループは、60余年におよぶ経験と実績がある老舗の税理士法人です。相続税申告手続きはもとより、生前相続税対策、納税資金対策、事業承継、資産有効活用、将来のライフプランニングまで、相続税・資産税に特化した税理士集団が全力でサポートしてくれます。
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