新型コロナウイルス対策に伴う緊急事態宣言は、全ての地域で解除されました(2020年5月26日現在)が、まだまだ予断を許しません。はたして賃貸市場には、どのような影響が出ているのか?賃貸市場の繁忙期(1月〜3月)の最新家賃動向が、不動産情報サービスのアットホームより発表されました。家賃相場そのものには影響はなかったものの、現場の仲介業者からは先行きの不透明感が不安視されています。また、今後は景気悪化による家賃滞納も危惧され、様々な支援策が講じられています。
緊急事態宣言が発令されたのが4月7日でしたが、3月の上旬あたりから主要都市圏ではテレワークや外出自粛のムードが強まり、繁忙期の賃貸市場にも日を追うごとに影響が出はじめていました。当初は、転勤が取りやめになった、部材の納入遅延により新築物件の完成が遅れているといった声が聞かれました。全体の傾向としては、新社会人、新大学生以外の新規の問い合わせが減少したといいます。
家賃相場への影響として、大きな要因の一つに挙げられるのが、住み替えずに「更新」するケースが増えていることです。不要不急の転居は控えられたと見ることもできますが、これは今春だけの傾向ではなく、昨年から続いている傾向です。更新が増えれば、市場に出る空き部屋も少なくなります。新築物件も減少していることから、市場は供給不足になりました。そうなると市場原理で売り手市場となり、家賃は上昇傾向になります。
実際、今春の三大主要都市の家賃は、ほぼすべての面積帯で上昇しました。不動産情報サービスのアットホームが発表した、三大主要都市のマンション平均家賃指数の推移を掲載します。2015年を100とした家賃指数です。
■東京23区-マンション平均家賃指数の推移(2015年=100としたもの)
1月から堅調に推移し、3月は前年同月比で、すべての面積帯で上昇し、平均家賃指数は最高値を更新しました。特にカップル向けは11 カ月連続、ファミリー向けは9 カ月連続でプラスとなっています。
■愛知県名古屋市-マンション平均家賃指数の推移(2015年=100としたもの)
昨年夏から秋にかけて落ち込んだものの、その後プラス傾向が4 カ月以上続いており、3月はすべての面積帯で前月比・前年同月比ともに上昇、カップル向けを除く3 タイプで過去最高値を更新しました。
■大阪府大阪市-マンション平均家賃指数の推移(2015年=100としたもの)
大阪も昨年11月以降上昇傾向、3月は、すべての面積帯で前年同月比より上昇。平均家賃指数でも、シングル向けを除く3 タイプで最高値となりました。特にカップル向けは11 カ月連続でプラスが続いています。
今後の家賃相場がどう動くかは、景気後退の影響がどう響くかによると思います。4月、5月と、企業の決算発表が相次いで行われていましたが、2020年度の業績は予測不可能としている企業が増えています。それだけ、現時点で先を見通すのは難しいということです。今後の動向は、その都度注視していくしかありません。
今春の繁忙期の家賃相場は三大都市圏で上昇傾向にある。今後、景気後退の影響がどこまで出るかは未知数。
今春の家賃相場は上昇傾向となりましたが、現場の賃貸仲介業者の業績としては、新型コロナ影響を大きく受けました。不動産情報サービスのアットホームは「地場の不動産仲介業における景況感調査(2020 年1~3 月期)」による業況DI(判断指数)を発表しました。この業況DIは、前年同期に対する動向判断を指数化したもので、50ポイントが前年並みということになります。
賃貸仲介業者にとって利益となる成約数は、昨年から減少傾向にありました。賃貸仲介業者としては、新規契約者数が伸びないと業績に影響してしまいます。調査では、首都圏、近畿圏ともに、1~3月期は業況DIは緩やかに低下し、4~6月期は大幅に落ち込むと予想しています。やはり、新規問い合わせの減少が響いているようです。
現在、賃貸仲介業者もほとんどが在宅ワークを強いられ、対面接客は最小限で対応しています。今後は、一部法整備も必要ですが、「相談」「内見」「重要事項説明」「契約」といったプロセスをすべてリモートで行う、非対面のニーズにどこまで対応できるかがポイントになってくるでしょう。このコーナーでも「変わる部屋探しと賃貸住宅への満足度」で紹介しましたが、これを機会に賃貸仲介業者の店舗に行くことなく、オンラインで済ませる部屋探しが加速するかもしれません。
賃貸仲介業者は業績悪化が懸念される。オンラインで内見から契約まで済ませる部屋探しがカギ。
今後の懸念事項の一つは、景気悪化による入居者・テナントの家賃の滞納です。報道されているように、特に休業を余儀なくされた飲食店などは経営が厳しく、固定費の家賃が大きな負担となっています。また、入居者がフリーランス、いわゆる個人事業主の場合も同様に厳しい状況にあります。そんな中、家賃の減額を迫られているオーナーもいると思いますが、オーナーも借入金の返済があり、そう簡単には応じられないでしょう。
今後は家賃補助の支援策がどこまで、拡大されるかが鍵となります。支援策は、オーナー向け、入居者向け、テナント(事業者)向け、があります。また、国の支援策の他、地方自治体独自のものもあり、まだ予定の支援策もありますが、いくつか主なものを紹介します。
・各自治体によるオーナーへの「家賃減額助成」
各自治体が独自に家賃減額に応じたオーナーに対して助成する制度です。
例えば新宿区では、減額した家賃の2分の1を上限とし、助成額は1物件につき月5万円を上限、5物件まで助成を受けることができます。期間は4月~9月までの最大6カ月。
千葉市では、減額、免除した賃料の8割を補助。上限額は1テナントあたり50万円。期間は、緊急事態宣言発令期間中に発生する1カ月分としています。この他にも、自治体で独自の助成策を打ち出しているところがあります。
・固定資産税等の減免、その他税金等の支払い猶予
固定資産税・都市計画税について、オーナーが賃料の減額・猶予に応じた結果、収入が減少した場合に減免されます。2020年2~10月の任意の3カ月の売上が前年同期比30%以上50%未満減少した場合は1/2に軽減し、50%以上減少した場合は全額免除になります。(2021年度分のみ)
また、同様に賃料の減額・猶予に応じた場合、国税や地方税、社会保険料の納税が1年間猶予されます。
・賃料を免除した場合、その減額分の損金算入
これは、法人で賃貸経営している場合に関係するものです。法人経営の場合、理由なく家賃を減額した場合、減額分は税法上、寄付金として処理します。つまり、全額損金にはなりません。これを全額損金として扱うことができるようになります。個人事業主として賃貸経営している場合は、減額後の家賃をそのまま売上に計上すればよいので、この支援策は影響ありません。
・特別家賃支援給付金
第2次補正予算で注目される支援策の一つ。6月17日までの国会中に成立される見通しです。入居者がフリーランス・個人事業主の場合、売上が前年同月比で50%以上減ったか、3カ月平均で30%以上減ると、家賃の3分の2(上限25万円)、6カ月分の給付金が支給されます。
・住居確保給付金
以前からあった制度で、離職・廃業後2年以内の人が対象でしたが、離職等していなくてもそれと同程度の状況にあれば対象者になります。支給額は自治体によって変わりますが、東京都の場合、単身世帯:53,700円、2人世帯:64,000円、3人世帯:69,800円。原則3カ月、最長9カ月支給されます。給付金はオーナーやサブリース業者に直接振り込まれます。
・持続化給付金
家賃に対してではありませんが、フリーランス・個人事業主の場合、今年の1月~12月の間、一月でも前年同月比で売上が50%以上減少していれば、最大100万円の給付金が支給されます。今のところ、手早く支給される給付金の一つが持続化給付金でしょう。賃貸オーナーも個人事業主ですが、不動産所得のため対象外です。
・持続化給付金
フリーランス同様の要件で、中小企業の場合は最大200万円が支給されます。5月1日より申請が始まっており、早いところではすでに支給されています。
・特別家賃支援給付金
フリーランス・個人事業主同様の要件で、中小企業の場合は家賃の3分の2(上限50万円)を6カ月分支給されます。詳細は未定の部分もありますが、持続化給付金とともに大きな支援策となります。
支援策は、日々更新され、これからのものもあります。要件などは注意が必要です。国土交通省のサイトにもいくつか紹介されていますので、参考にして下さい。詳しくはコチラ。
家賃等に関する大きな支援策は「特別家賃支援給付金」「持続化給金」。それ以外にも、自治体独自のものがある。