相続税・贈与税の土地評価の算定基準となる路線価が、7月1日国税庁より発表されました。昨年の路線価は新型コロナウイルスの影響を受けて下落基調でしたが、早くも地価は上昇基調となり、今年の路線価は全国平均で0.5%上昇です。ただし、コロナ禍はまだ収束しておらず、商業地で下落が続いているところもあります。三大都市圏を中心に傾向を見ていきたいと思います。
昨年は全国平均で0.5%の下落でしたが、今年(2022年1月1日時点)の路線価は0.5%の上昇でした。都道府県別に見ても、20都道府県で上昇しています。
三大都市圏の主要都府県では、昨年下落した東京都、神奈川県、埼玉県、愛知県、大阪府、京都府が上昇に転じました。千葉県は2014年以来、9年連続の上昇です。都道府県庁所在都市の中で最も上昇率が高かったのは、駅前再開発が進む「千葉駅前大通り」で5.1%の上昇でした。
地方では、公示地価でも高い上昇率を見せていた、北海道、福岡県、宮城県、沖縄県、愛知県が、都道府県別の上昇率上位トップ5で、いずれも大型の再開発が続いています。これらのエリアでは、周辺エリアで住宅ニーズが高まり、ファミリー層の流入があるようです。福岡県や愛知県では世帯数が増加しているとのことです。
一方、インバウンド需要消失の銀座や大阪ミナミの繁華街は下落が続いています。コロナ禍もまだまだ収束には至っていません。6月から外国人観光客の受け入れが始まりましたが、まだ数は少なく先行きは見通せません。
またテレワークの普及により東京都心のオフィス街も下落しています。テレワーク普及で注目されているのが郊外ですが、最近では「コロナ移住」も少なからずあり、軽井沢では転入者が増え、「旧軽井沢銀座通り」の路線価は前年の横ばいから2.1%上昇しています。
コロナ禍からの回復という点では、まだまだ地域差があるのが現状のようです。
東京国税局内で、上昇率トップ10を見ると、神奈川県が5地点、千葉県が3地点、東京都が3地点です。1位は横浜駅西口エリアの「鶴屋橋北側」で6.2%、2位は「川崎駅東口広場通り」5.9%、3位は「千葉駅前大通り」5.1%で、いずれも駅周辺でタワーマンションや複合施設などの再開発が進んでいるエリアです。
近年の郊外人気で、昨年の上昇率上位は神奈川県、千葉県が多くを占めていました。その傾向は続いていますが、再開発の進む東京都内のエリアも上昇した地点が増えています。
東京都内の税務署管内ごとの最高路線価は30地点で上昇。昨年の3地点から見ると、大幅に増加しました。ただし上昇率は緩やかで、都内で最も高い上昇率は5%の「北千住駅西口駅前広場通り」です。
北千住は、東京メトロやJR常磐線など5路線が乗り入れアクセス良好。また足立区は2006年から大学誘致に積極的に動き、今では東京芸大など5大学を有する学生の街のイメージが定着しつつあります。路線価も2012年以降、10年連続で上昇しています。
次に上昇率が高かったのが「中野駅北口駅前広場前」で4.9%上昇です。中野も再開発が約15年前から行われていて、約10年で人口が2万人増加。今後の大きな再開発としては、中野サンプラザの建替えが控えています。
一方、東京都心の丸の内や八重洲といったオフィス街は下落が続いています。5月の東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィス空室率は6.37%で、供給過剰の目安となる5%を上回っています。こちらは、まだ回復の兆しは見えません。
インバウンド需要の影響のあるエリアでは、回復に地域差が表れています。
全国最高価格で話題の銀座中央通り「鳩居堂前は」1.1%の下落で2年連続下落となりました。ただし、価格自体はすでにバブル期を超えていますので、需要の高さが伺えます。
銀座エリアは下落していますが、国内観光客が戻った浅草は昨年の11.9%下落から1.1%上昇に転じています。
名古屋国税局管内では、0.2%の上昇でした。昨年は愛知県をはじめ大きく下落しましたが、大規模開発が進む名古屋市を中心に回復傾向にあります。
名古屋市内では、全ての税務署管内で最高路線価が上昇しました。
特に上昇率が高かったのが、栄地区に隣接する東区久屋街「久屋大通り」の8.7%です。街の再開発が進み、2020年には公園と店舗が一体となった「Hisaya-odori Park(ヒサヤオオドオリパーク)」が開業。栄には、今年の3月には百貨店「丸栄」跡地に商業施設「マルエイ ガレリア」がオープン。さらに2026年には栄最大の高層タワーが完成し、ホテル大手ヒルトンの最上級ブランド「コンラッド」が開業予定です。
上昇率2位の「江川線通り」8.5%は、名古屋駅から2kmほどに位置し利便性が高く、賃貸住宅の需要が見込まれているとのことです。
また、4位の熱海「平和通り」は、昨年の横ばいから5.9%の上昇に。浅草同様、国内観光客が戻っているようです。
大阪圏も路線価はプラスに転じ、回復傾向にあります。2025年には国際博覧会(大阪・関西万博)が控えていることもあり、オフィスビルや住宅のニーズは高まっているようです。
万博会場の人工島・夢洲(ゆめしま)への中継ポイントとなる大阪市港区弁天1丁目「中央大通」は3.4%の上昇でした。弁天町駅前では、マンションや商業施設の開発競争が起きています。
ただし、インバウンド需要が消失した大阪の商業地は下落が続いています。最も下落が大きかったのが、大阪ミナミの「心斎橋筋」で10.6%下落。全国でも2年連続で最大の下落でした。
また、今回の路線価で特徴的だったのは郊外の上昇率が高かったことです。上昇率1位は「JR芦屋駅前」で5.7%上昇。大阪市内へのアクセスが良い堺市の「南海堺東駅前」は3.3%の上昇でした。この他、大阪府吹田市豊津町(2.1%上昇)や大阪市西成区花園南1丁目(2.7%上昇)といった郊外地点も上昇しました。
路線価は公示地価の8割を目安に、売買事例や不動産鑑定士の意見を参考にして国税庁が算出します。3月に発表された2022年1月1日時点の公示地価から、今回の路線価はある程度予測ができていました。
コロナ禍の影響が大きく出たのは、インバウンド需要が旺盛だった東京・銀座や大阪・ミナミなどの繁華街、またテレワーク普及が要因と言われる東京都心のオフィス街で路線価は下落しています。
一方、再開発エリア、住宅ニーズの高いエリアはコロナ禍の影響は少なく、路線価も上昇を続けています。特に住宅ニーズは、コロナ禍やインフレによる景気後退が懸念される中でも衰えていません。それが顕著に表れているのが新築分譲マンション価格です。
直近2022年5月の首都圏新築分譲マンションの平均価格は6,088万円(不動産経済研究所発表)。前月比では下がったものの、前年同月比では3.0%(180万円)の上昇です。近畿圏も4,853万円で、前年同月比26.8%(1,025万円)もの上昇です。
地価や分譲マンション価格は、コロナ前からミニバブルでオリンピック後に下落するという予測もありましたが、今のところはまだその傾向は見られません。
しかし、地価を取り巻く環境はコロナ第7波の懸念、インフレによる景気後退など、先行きは非常に不透明です。
路線価は、アパート・土地オーナーにとって、将来の相続税の負担に大きく影響するものです。地価や経済状況の変化にうまく対応し、資産管理をしていく必要があります。今後も地価動向、経済動向に注視していきたいと思います。