今春の賃貸市場は新型コロナ感染症が5類に移行して初めての繁忙期でした。家賃相場は昨年を上回り、物価上昇の波が家賃にも波及しはじめたとの報道もあります。消費者物価指数(CPI)で家賃を示す指数は2023年に前年比0.1%上昇しました。25年ぶりのプラスとのことです。三大都市圏の2024年繁忙期(1月~3月)の最新家賃動向を見ていきたいと思います。
分譲マンション価格の高騰により、ファミリー層が賃貸市場に流れ、家賃相場を牽引していることは何度かこのコーナーでも紹介しました。一方、都心回帰も進みシングル向きの家賃も上昇しています。
今春の平均家賃は、東京23区、東京都下、神奈川県、埼玉県、千葉県の全ての面積帯で昨年3月の繁忙期を上回りました。中には2015年1月以降、最高家賃を更新した面積帯もあります。
グラフは2015年1月を100とした指数の推移を示しています。
家賃は昨年一年でどの面積帯も大きく上昇したのですが、この繁忙期も上昇基調は衰えていません。ファミリー向きが1月をピークにやや下がりましたが、3月は前年同月比でプラス。ファミリー向きは5.3%上昇で家賃にすると11,017円のプラスです。
また、都心回帰の影響もありシングル向き、カップル向きは今年に入っても上昇を続けています。どちらも2015年1月以降最高値で、シングル向きは2020年3月以来48カ月ぶり、カップル向きは16カ月連続の最高値更新です。カップル向きの3月家賃の前年同月比は三大都市圏の中でもトップで7.6%上昇、家賃で見ると10,472円のプラスです。
コロナ禍での郊外人気が定着し、2021年からファミリー向きが家賃相場を牽引し、2022年には全世帯で家賃指数100を超えるようになりました。今年に入っても特にファミリー向きは上昇しています。
カップル向き、ファミリー向きは2015年1月以降最高値です。特にファミリー向きは昨年の秋から一段と上昇基調を強め7カ月連続の更新。3月の前年同月比は8.7%上昇、家賃は9,852円プラスです。
昨年は一年通じてどの面積帯も横ばいでしたが、昨年秋あたりから再び上昇を始めています。3月の平均家賃は全面積帯で前年同月比を上回りました。シングル向きが前月比で下がったものの、カップル向き、ファミリー向き、大型ファミリー向きは2015年1月以降最高値です。ファミリー向きの3月前年同月比は6.4%上昇、家賃は7,650円プラスです。
神奈川県では大型ファミリー向きが2020年始めから上昇し、ファミリー向きは2021年の後半から上昇と、郊外人気もあり東京圏では早くから家賃が上昇を始めたエリアです。
神奈川県同様、埼玉県も東京の郊外エリアとして、早くからファミリー向きを中心に家賃が上昇したエリアです。
3月の平均家賃は全面積帯で前年同月比を上回りました。また、ファミリー向きだけではなく、シングル向きが昨年から堅調に推移。3月前年同月比は6.0%上昇し、三大都市圏の中では最も上昇率が高くなりました。
カップル向きもファミリー向き同様に上昇し、3月の家賃は2015年1月以降最高値です。
2024年の公示地価では東京圏住宅地の変動率ベスト10のうち全てが千葉県でした。他の郊外エリア同様、2020年の早い段階で上昇を始め、昨年の秋から再び上昇基調が強まっています。
3月の家賃は全面積帯で前年同月比を上回りました。特に今春はカップル向き、ファミリー向きの上昇が著しく、3月家賃は2015年1月以降最高値となり、共に5カ月連続で最高値を更新しました。
名古屋市の職住近接など、職住環境が東京圏とは少し違いますが、平均家賃は名古屋市、大阪市ともに今年の繁忙期でさらに上昇しています。
名古屋市の特徴は、職住が近接しシングルの家賃指数が一番高く、他の大都市圏ではみられない家賃相場ということです。しかし、昨年あたりからファミリー向きがシングル向きの指数を上回るようになりました。ファミリー向きの3月家賃は2015年1月以降最高値で、前年同月比も4.5%と他の面積帯よりも大きく上昇しています。
家賃指数は全面積帯で2015年から上がったり下がったりを繰り返しながらも、総じて上昇しています。
平均家賃は全面積帯で上昇。他のエリアと同様に昨年秋から再び上昇基調を強めています。カップル向き、ファミリー向き、大型ファミリー向きの3月家賃は2015年1月以降最高値です。
特にファミリー向きが大きく上昇。前同月比で11.3%、家賃は14,698円プラスと二桁の上昇を見せ、三大都市圏の中では最も大きな上昇でした。大阪もインバウンドの回復の影響が公示地価などにようやく見られています。経済の回復も家賃上昇の一役となっていると思われます。
家賃上昇の要因の一つに、建築資材の高騰、人件費の上昇が挙げられます。また、2024年4月から始まった「時間外労働の上限規制」では、物流業界への影響がクローズアップされますが、建設業界も同じです。この状況は今後も続くと思われ、建築費自体が上昇すれば新築の家賃にも上昇圧力がかかります。
新築に影響され家賃相場全体が上昇すれば、既存の賃貸物件も家賃が上昇する可能が高くなります。実際、最近では更新時や入居者の入れ替えで家賃を上げる賃貸物件もあると聞きます。
もう一つ政策金利の問題があります。日銀は3月にマイナス金利政策を解除しました。これについては経済への影響は軽微でしたが、問題は物価上昇を見越して追加利上げがあるかどうかです。今の物価上昇については実質賃金の上昇が追いついていませんので、今後の追加利上げは考えにくいのですが、仮に利上げとなると高騰している分譲マンションがさらに買いにくくなり、今以上に賃貸市場に需要が流れることが予想され、ファミリー物件家賃上昇の圧力になります。
いずれにせよ、しばらくは家賃相場も上昇基調は間違いなさそうです。今後も様々な経済動向や周辺環境に留意し、家賃動向への影響を探っていきたいと思います。