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相続法改正の議論に見る"超高齢社会の相続問題"

相続

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2016年12月 6日

相続法改正の議論に見る

相続に関する法律は、民法の第五編「相続」で規定されています。現在、その「相続法」改正の議論が進められています。超高齢社会が進み、家族のあり方に対する人々の意識が変化している中、昨今の社会情勢に合致した相続法制に改正しようというものです。今回は、「相続法」の改正の議論の内容から、超高齢社会の相続問題について考えてみたいと思います。

配偶者の自宅居住権を保護

相続税の特例に小規模宅地の特例があります。これは、自宅の敷地の相続評価を330m2まで8割減額するというものですが、目的は相続人が相続税を払うのに自宅を手放してしまうことがないようにという配慮からできた特例です。

同じように、法規の面からも相続人である高齢の配偶者が自宅に住める権利を与えて保護しようという方策が議論されています。
例えば、相続した資産が自宅しかなく、お金に困っていた子どもが自分の相続分を主張した場合、自宅を売ってお金で分配するしかありません。そうなると、残された高齢の配偶者は住むところがなくなってしまいます。仮に、遺言で自宅を配偶者に相続させると書いてあっても、法定相続人が最低限相続できる遺留分を主張すれば、同じことになります。高齢の配偶者が住み慣れた家や地域から引っ越さなくてはならないのは、過酷な話です。

そこで、残された配偶者が居住権を取得できるようにするために、「短期居住権」と「長期居住権」の二つが検討されています。
短期居住権とは、遺産分割協議が成立するまでの間、無償で自宅に住める権利です。実は、遺産分割協議が終わるまでは、自宅は共有の状態にあり、その間、保護しようというものです。
長期居住権とは、遺産分割協議や遺言で自宅の所有権が配偶者以外に決まった場合であっても、配偶者が終身または一定期間、自宅に住み続けられる権利です。

核家族化が進み、実家の相続は様々な問題を含んでいます。また平成27年からの相続増税により、資産が実家だけであっても相続税が発生してしまうケースもあり、それも実家の相続を複雑にしている要因の一つとなっています。
超高齢社会では、相続人となった配偶者が80代、90代と高齢のケースも多いでしょう。そこで、実家を手放して他に移り住むには無理があります。もっと早いうちに、夫婦が元気なうちに引っ越すとか自宅を建替えるなどの対策が必要です。
また仮に、高齢の配偶者が自宅を無事相続したとしても、次の相続で子どもが自宅の処理に困ってしまうケースがあり、空き家問題に発展してしまうこともあります。

法務省が募集したパブリックコメントでは、配偶者の居住権は「短期居住権」については賛成が多数を占めましたが、「長期居住権」については賛否が拮抗しました。一方で、子どもの立場では、実家に関しては、二次相続後も見据えた早めの対策が必要です。
実家の対策については、バックナンバー「知っておきたい実家の活用法〜空き家になる前に考える〜」でも解説しています。

相続人である高齢の配偶者が自宅に住み続けられる権利を与えようという方策が議論されている。老老相続に限らず、実家の相続は二次相続を含めて複雑化している。早めの対策が必要。

配偶者の相続分の見直し

今の「相続法」では、相続人となる配偶者は死亡時の配偶者で婚姻年数を問いません。しかし、婚姻期間が長い夫婦や老齢で再婚した夫婦など、配偶者の財産形成への寄与度は様々です。他方、離婚の場合は、実質的な寄与度に合わせて資産は分配されます。これでは、不公平感があります。
そこで、実質公平性の確保、また高齢配偶者の生活保障のために、配偶者の法定相続分を寄与度に合わせた割合に改正しようという議論がなされています。

配偶者の相続分をどう増やすかは、2つの案があるようです。現状、配偶者の相続分は2分の1です。これを婚姻期間が20年、もしくは30年を超えている場合は3分の2にするという案。もう一つは、婚姻後に増加した資産の割合に応じて、相続分を増やすという案です。

どちらも、一長一短があるようですが、この議論は高齢配偶者の生活保障が重視されています。しかし、資産家の場合は、相続をさらに複雑にする危険性もあります。

現在も、節税対策のために配偶者に資産の多くを相続させるケースがあります。配偶者には税額の軽減があり、1億6千万円まで、またはそれを超えても法定相続の2分の1なら、無税になります。これを活用して、配偶者に多くを相続させるというものです。しかし、二次相続で相続税がふくれ上がり、かえって負担が大きくなってしまうケースもあります。
また、高齢配偶者が認知症のケースもあるでしょう。その場合は、成年後見人を立てるなど相続手続きに手間が掛かりますし、その後の二次相続の対策は事実上できなくなるでしょう。資産家の場合、配偶者の法定相続分が増えると、このような問題が出てきます。いずれにせよ相続対策は、実家問題も含め、二次相続を踏まえた対策が必要不可欠です。
二次相続についてはバックナンバー「二次相続に備えた相続税対策とは?」で解説しています。

配偶者の相続分を資産形成の寄与度に合わせて増やすことが、議論されている。課題は二次相続で、あらゆるシナリオを想定して、対策を講じる必要がある。

相続人以外でも、寄与があれば遺産を分配する

超高齢社会では介護が社会的な問題となりますが、相続の現場でも被相続人の介護を誰がしたのかが問題になるケースがあります。例えば、「長男の妻」が介護するケース、また子どもが遠方にいるため、近くの兄弟姉妹が介護をするケースなどがあります。しかし、「長男の妻」も兄弟姉妹も相続人ではありませんので、いくら献身的に被相続人の介護をしたとしても資産は相続されません。寄与分制度というのがありますが、あくまで相続人での分配制度であって、この場合は適応されません。また、相続人であっても寄与分は認められにくいのが現実です。

そこで、相続人ではない二親等以内の親族、つまり被相続人の孫、兄弟姉妹、祖父母が療養看護をした場合に、その人は相続人に金銭の支払いを請求できるとする案。また、親族でなくても療養看護をした場合、その人は相続人に金銭の支払いを請求できるとする案。この2つが議論されています。

核家族化が進んだ超高齢社会では、様々な人と関わるようになる可能性があります。親族でない者が、被相続人の人生に深く関わることもあるでしょう。寄与分制度の対象が広がってもおかしくはありません。しかし、あまりに広がりすぎると、思わぬ人が寄与分を主張するようなことも起きるでしょう。相続人の間でも紛争があるのに、さらに相続を複雑化、長期化してしまう恐れがあります。

超高齢社会では、相続時に親世代も子ども世代も高齢になる可能性が高くなります。場合によっては、病気などにより子どもが先に他界することも考えられ、相続人の数が代襲相続を含めて、その都度変わっていきます。今回の改正の議論の先行きはまだ分かりませんが、実現されれば相続人以外の寄与分も考慮した対策も必要になってくるでしょう。バックナンバー「相続が争族になる!こんなケースは要注意 その2ー家族状況編」でも解説しています。

相続人でなくても、被相続人の療養看護をした場合には、寄与分制度のように金銭を請求できるようにする制度が議論されている。相続人以外の寄与分も含めた対策も必要になってくる。

被相続人も相続人も高齢者という相続現場の課題

今回の議論は、超高齢社会だからこそ起きる相続の課題を是正するものです。超高齢社会では、被相続人が90代、相続人が70代という老老相続も珍しくありません。
そこで、気を付けたいのが健康面、特に認知症です。2025年には認知症患者数は700万人前後に達し、65歳以上の高齢者の約5人に1人を占める見込みです。つまり、被相続人、その配偶者、また子ども世代も含めて認知症になる可能性があるのです。
認知症になると一般的には成年後見制度を活用することになりますが、資産は保全が最優先となり、事実上相続対策はできなくなってしまいます。

今回の「相続法」改正の議論では、そこの部分は争点にはなっていませんが、これからの相続対策では十分に考慮すべき問題です。老老相続で資産承継がスムーズにいかないと、困るのは子ども世代、孫世代です。また相続自体が、大きな負担となってしまいます。

「相続法」改正の議論は、その他、自筆証書遺言の簡素化、遺留分の見直しなどがあります。前述の改正案も含め、まだまだ賛否があり、今後さらに議論を重ねる予定です。また、相続税制に関しては、数年前に増税や小規模宅地の評価減の適用基準の変更がありました。
超高齢社会の進展に従って、「相続法」や「相続税制」は、まだまだいろいろな見直しがされると思われます。相続対策は、土地活用など気力や体力が必要なこともあります。家族みんなが元気なうちに、先を見越した対策を立てることが大切です。また家族の状況や社会情勢、法律・税制の改正に合わせて、定期的に見直すことも重要です。

超高齢社会では、老老相続が問題になっている。将来の様々な家族状況の変化を想定して、家族が元気なうちに相続対策をすること、定期的に見直すことが大切。

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