節税対策の代表的手法といってもよいのが青色申告です。どんな節税メリットがあるのか、そのメリットを活用するための要件は何か、また、要件に満たない場合の対応策や、白色から青色に切り替える方法について解説します。
確定申告には、青色申告と白色申告があります。その大きな違いは、節税効果が高いかどうかです。もちろん、青色申告のほうが高い節税効果があります。賃貸オーナーの中には、アパートの規模が小さいから白色申告のままにしているという方も少なくありません。しかし、規模が小さくても青色申告は選択できますし、節税効果は十分得られます。アパート経営での主な節税メリットは以下の3つです。
所得控除として「青色申告特別控除」があります。所得控除に関しては、前回、前々回のマンスリーレポートで解説しています。節税効果としては、必要経費と同じです。所得控除の分、必要経費が増えると考えてください。
65万円の青色申告特別控除を受けるためには、いくつかの要件があります。まず、複式簿記による記帳が必要なこと。貸借対照表及び損益計算書を確定申告書に添付すること。そして、事業的規模であることです。
これらの要件を満たしていない場合は、控除額は10万円となります。額は小さいですが、コツコツと経費を積み上げていくことが節税対策の王道ですので、青色申告をする意味はあると言えます。
配偶者などの親族にアパート経営を手伝ってもらい、給与を支払った場合、専従者給与として経費に算入できます。労働の対価として認められれば、全額必要経費にできます。ご家族などに給与を支払うことで、所得の分散効果が得られますので、大きなメリットになります。
ただし、注意したいのは本業として6カ月を超えて、従事していることが要件になります。他でパートタイムで働く傍らに少しだけ専従者の仕事をしている、などという場合は認められません。
支給額はいくらが妥当なのかが、よく話題にのぼります。あくまで労働の対価としてふさわしいかどうかですが、節税対策としては103万円を超えると支給した配偶者などに所得税がかかってきます(扶養家族でなくなる)ので、そのあたりが目安と考える人が多いようです。
また、青色専従者給与を配偶者に支払うと、配偶者控除が受けられなくなります。配偶者控除は廃止の方向で税制改正の検討が進んでいますので、その対策としても今後メリットになっていくでしょう。青色事業専従者給与については、マンスリーレポート「アパート経営の節税対策ー専従者給与編」で詳しく解説しています。
設備投資など減価償却しなければならないものでも、30万円未満(年間の合計が300万円まで)であれば、一括で必要経費に算入できます。これは、期限が決まっていますが、平成28年度の税制改正で2年間期限が延長され、平成30年3月31日までとなっています。
青色申告特別控除65万円、青色専従者給与、30万円未満の一括償却を最大限活かせば、大きな節税効果が生まれる。
青色申告の節税メリットを最大限に活用するためには、先ほど見てきたようにいくつかの要件があります。白色申告のオーナーが、最も敬遠するのが青色申告特別控除65万円の要件である複式簿記での記帳、そして貸借対照表及び損益計算書の作成です。ただ、白色申告も今は記帳の義務がありますので、さほど労力は変わりません。
確かに、簿記の知識がないと複式簿記での記帳、貸借対照表及び損益計算書の作成はハードルが高すぎます。しかし、今は、会計ソフトを活用すれば簿記の知識がなくても、これらの問題は克服できます。入力は、簡易帳簿に記入するのと同じで、費目ごとに入力していけば、自動で複式簿記の帳簿である「総勘定元帳」の作成、「貸借対照表及び損益計算書を含む決算書」は自動で作成してくれます。確定申告書類まで作れるソフトもあるのでとても便利です。
会計ソフトは初心者でも扱えるように、「家賃が振り込まれた」「管理費を支払った」「電気代を支払った」といった、アパート経営によくある項目もあらかじめ用意され、それを選択して金額を入力すれば、費目も自動に記録されるソフトもあります。
ちなみに、Amazonでの確定申告・青色申告ソフトの売れ筋ランキング、ベスト3を見ると以下のようになっています。(2016年2月4日時点)
1. やよいの青色申告 16 通常版
2. みんなの青色申告17
3. やるぞ! 青色申告2016
会計ソフトを選ぶポイントですが、アパート経営なら高機能の会計ソフトである必要はありません。高機能なものは、かえって使いづらいでしょう。事業用ではなく、個人事業主用のものを選んでください。会計ソフトというより青色申告ソフトで、価格も1万円程度のもので十分です。
簿記の知識がなくても、会計ソフトを活用すれば青色申告特別控除65万円の要件「複式簿記での記帳、貸借対照表及び損益計算書の作成」に対応できる。
青色申告特別控除65万円、専従者給与の経費算入の要件に「事業的規模」があります。
事業的規模とは、5棟10室基準とよく言われます。しかし、これに達していない場合、この判断が難しいケースがあります。国税庁のホームページでの記載は以下のとおりです。
(1)貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。
(2)独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
どちらも「おおむね」という表現があります。まずは5棟または10室という形式基準に従って判断し、次に「おおむね」を考慮した実質基準で考えます。
例えば、同じ立地でワンルームが10室の場合と1LDKが9室の場合を比較すると、全体の賃料は明らかに1LDKが9室の場合が多いでしょう。この場合は、10室に満たなくても、事業的規模と認められるケースもあります。
また、8室、9室の場合、賃貸用として中古のワンルームマンションを買い足すという方法もあります。こちらは、新たな不動産投資を行うということですので、あくまで投資としてのパフォーマンスを見極めることが重要です。結果として、事業的規模になれば、節税対策の効果を受けることができます。
貸駐車場も併設している場合、駐車場5台分で貸室1室程度と判断できる場合もあります。
自分の場合も事業的規模になるのではと思われる方は、税務署や税理士に相談してみると良いでしょう。
事業的規模の5棟10室基準は、形式基準と実質基準で考える。また、部屋数が足りない場合は、中古のワンルームマンションへの投資なども検討の余地がある。駐車場も台数によって検討できる場合がある。
最後に、白色申告から青色申告に切り替える実務を解説します。青色申告にするには、事前に申請しなくてはいけません。
平成28年度分から青色申告に切り替えるには、平成28年の3月15日までに、「所得税の青色申告承認申請書」を所轄の税務署に提出します。つまり、今の時期が青色申告に切り替えるベストなタイミングです。今回、白色申告書類の提出と一緒に提出するのがよいでしょう。申請書は国税庁のホームページからダウンロードできます。申請書は一枚で、記入する欄も少ないのですが、どう書いてよいか分からず迷ってしまうかもしれません。その場合は、税務署で相談しながら記入するのが早道です。
申請書の記入で一つ注意するとすれば、青色申告特別控除65万円を適用させるのであれば、簿記方式の欄は「複式簿記」に丸をつけ、備付帳簿名は「現金出納帳」「売掛帳」「経費帳」「固定資産台帳」「預金出納帳」「総勘定元帳」には最低でも丸をつけるようにしましょう。なお、申請書の提出後、何も返信がなければ自動承認されます。
また、青色事業専従者給与を支払う場合は「青色事業専従者給与に関する届出書」も提出しましょう。この届出書には、支払う給与の額などを記載するようになっています。各種届出書に関しては、「確定申告の基礎知識:実務編」でも解説しています。
今年の確定申告は、3月15日(火)が締め切りです。これを過ぎると青色申告特別控除65万円の適用もなくなってしまいますので、ご注意ください。また、締め切り間際は、税務署も大変混み合いますので、相談のある方は早めの申告をお勧めします。
平成28年分から青色申告に切り替える場合は、今年の3月15日までに「所得税の青色申告承認申請書」を提出する。