確定申告をはじめ、税務の実務はいざ始めようと思っても慣れていないだけに、なかなか作業が進まないものです。たった一枚の申請書類を書くにも、専門用語が並び、はたして記入したことが合っているのかどうかも判断に迷ってしまいます。今回は、いくつかの提出書類の書き方も含め実務レベルで解説します。
新しく賃貸住宅経営を始めた場合は、個人事業主として不動産所得の確定申告をすることになります。1月1日から12月31日までの1年間に得た所得を、その次の年の2月15日から3月15日までに確定申告し納税します。例えば、開業が4月の場合、初年度は4月から12月までの9カ月間の所得について確定申告することになります。
開業にあたっては、いくつかの届出書を提出しなければなりません。
まず「個人事業の開業・廃業等届出書」。これは必須です。
そして、青色申告をする場合は「所得税の青色申告承認申請書」、そして配偶者などに給与を出す場合は「青色事業専従者給与に関する届出書」が必須になります。
提出期限は、開業届は開業してから1カ月以内、青色申告関係の書類が2カ月以内です。
また、白色申告から青色申告に変更する場合は、青色申告を採用する年の3月15日までに、関係書類を提出しなければなりません。今年から、青色申告にする場合は、確定申告書と一緒に提出するのがよいでしょう。
特に節税効果が高い青色申告については、関係書類の提出日をしっかりと把握する。今年から青色申告に切り替える場合は、確定申告書と同時に申請書類等を提出するとよい。
「所得税の青色申告承認申請書」の記入例のポイントを解説します。たった1枚の用紙に記入するだけなのですが、知識や経験がない場合は戸惑ってしまうと思います。
① 所轄の税務署を調べて記入します。税務署は市区町村に一つあるわけではありません。東京都の場合、新宿区や渋谷区、世田谷区、杉並区などはエリアによって税務署が分かれています。また、立川税務署のように立川市、国立市、国分寺市ほか、複数の市を一括して管轄しているケースもあります。
所轄の税務署を調べるのはコチラ。
② 納税者の住所地で申請します。
③ 職業:自営業、不動産貸付業、不動産賃貸業など。特にこだわらなくてもかまいません。
④ 屋号:個人事業をする上での名前のことですが、特に書く必要はありません。お店を開業している方はお店の名前を書きますが、賃貸住宅経営の場合は物件名を書く方もいます。それでもかまいません。
⑤ 物件名と物件の所在地を記入します。
⑥ 所得の種類:「不動産所得」にチェックを入れます。
⑦ 開業日は、物件の引き渡し日が一般的です。引き渡しを受けた日から入居が可能となり、事業を始めることになります。ただし、引き渡されても募集していない場合は、開業したことになりませんので注意してください。
⑧ 簿記方式:青色申告特別控除65万円を受けるには、複式簿記が条件ですので「複式簿記」にチェックを入れます。「簡易簿記」「その他」をチェックした場合は青色申告特別控除は10万円になります。
⑨ 備付帳簿名:青色申告特別控除65万円を受けるには、複式簿記の帳簿である「総勘定元帳」にチェックを入れます。その他「現金出納帳」「売掛帳」「経費帳」「固定資産台帳」「預金出納帳」にチェックを入れます。
申請書の中には、知識がないと記入できないところもありますが、不安な場合は税務署に行って、聞きながら作成するのもよいでしょう。
簿記方式、帳簿の箇所はよく確認の上、チェックする。ここのチェックを間違えると青色申告特別控除65万円が10万円になってしまう。
配偶者などに青色申告専従者給与を支払う場合(事業的規模のみ)は、青色申告の申請書と一緒に、「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出しますが、このときにいくら給与を支払うかを決めて記入しなければなりません。
支払った給与は、全額、必要経費に計上できますので、所得分散を図ることができ大きな節税効果が期待できます。では、いくらぐらい支払うのが妥当なのか。よく質問に上がるテーマです。賃貸住宅の規模や仕事の内容、経験などを加味して、一般的な給与水準と照らし合わせながら決めていくことになります。
記入のポイントを解説します。
① 経験年数:会社員、パート等でその実務に携わった経験があれば、具体的に記入します。経験も給与を決める要因の一つです。給与の金額の妥当性を主張するためにも、しっかり記入します。
② 仕事の内容・従事の程度:清掃管理、経理業務、入居者管理など具体的な仕事内容を書きます。また、日に「何時間程度従事」なども記入します。
③ 資格等:簿記などの資格があれば記入します。一般的に考えても仕事をプロに頼む場合と素人に頼む場合では、プロのほうが専門性があり報酬は高いものです。
④ 給料 金額(月額):記載した金額通りに支払うことになります。変更する場合は、変更届が必要になります。また、月額8万8,000円以上になると源泉徴収しなければなりませんので、経理業務が煩雑になります。
⑤ その他参考事項(他の職業の保有等):他にパートを掛け持ちしている場合は、ここにその旨を記入します。ただし、専従者給与は、文字通り専従でなければなりません。専従者給与を上回るようなパートがあると、専従者給与は認められませんので、注意してください。
⑥ 青色事業専従者の他に従業員がいる場合のみ記入します。
この届け出を提出した段階で、否認されるということはありません。ただし、税務調査が入った場合は、清掃は何時間しているのか、時給にするといくらになるのか、など詳しくチェックされます。
もう一つ注意したいのが、給与は確実に本人に支払うということです。帳簿上だけで、実際には支払われていないとなると認められません。専従者の口座に振り込むなど証拠を残しておくことが必要です。
一括借上げの場合などは、日常的に経営業務自体がありませんので、あまり高額な給与は認められないでしょう。
届出書の書き方も注意しないと、正確な労働内容とそれに見合った給与かどうか、つじつまが合わないことになりますので注意が必要です。
支給額、仕事の内容に加え、本人の経歴や資格を記入して、金額の妥当性を主張する。
帳簿の作成は会計ソフトを利用している方も多いと思います。青色申告特別控除65万円を受けるには複式簿記での帳簿作成が条件ですから、知識がない場合は会計ソフトに頼らざるを得ないでしょう。
ほとんどの会計ソフトの場合は、確定申告書、決算書も会計ソフトで作れます。また、そうでない場合は、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で作ることもできます。
作成した確定申告書類等の提出方法は次の3つ。
今年から、電子申告の方法が少し簡単になりました。また、2020年分より電子申告しないと青色申告特別控除が65万円から55万円になるので、今後は検討したいところです。
詳しくはバックナンバー「電子申告が簡単に!進化する経理業務のIT化」で。
所轄の税務署に持参します。提出するだけなら、さほど並ばないと思います。その場で、控えに受領印(受付印)を押してもらえます。ただし、あくまで受付の事実を確認するもので、申告内容についての証明ではありません。それでも、ローンの申請などでは、所得の証明として提出を求められることもありますので、保管しておいてください。
所轄の税務署に郵送します。控えに受領印(受付印)を押して返送してもらうために、切手を貼った返信用の封筒も同封します。国税庁のサイトには「信書」でとありますが、荷物扱いになる宅配便は受け付けないということです。記録の残る「特定記録郵便」「簡易書留」「レターパック」などがよいでしょう。
会計ソフトで、帳簿作成から確定申告書等作成し、電子申告するのが節税につながる。