自然災害の多発により、賃貸住宅であっても防災力が求められるようになっています。新耐震基準では大地震での倒壊の心配はないものの、停電や避難生活など万が一の備えの対応が求められています。防災力のニーズに、賃貸住宅はどのように対応できるのか、最新の賃貸住宅の例で考えてみたいと思います。
度重なる自然災害に、防災への意識は高まりを見せています。それは賃貸住宅の部屋探しでも同じです。不動産情報サイトのアットホームによる「ユーザー動向調査 UNDER30 2021 賃貸編」にその傾向が現れています。
「部屋を探した際に防災について意識したか?」の質問に、学生は46.2%、社会人は43.5%も意識したと答えています。2019年と2021年の比較で見ると、学生が3.4ポイント、社会人で11.4ポイント増加しました。
また、「ハザードマップなどの情報がほしいか?」聞いたところ、学生が71.6%、社会人が64.9%がほしいと答えています。ハザードマップの提供は契約時に義務づけられたこともあり、意識が高まっています。
今回の調査では、防災意識は社会人より学生のほうがやや高いという結果になっています。学生も数年経てば社会人ですので、今後も防災への意識は高まっていくものと思われます。
若い人の防災意識が高まっている。今後は賃貸住宅の防災力が、部屋選びのアピールポイントになる。
入居者は賃貸住宅の具体的な防災機能として、どのようなものを求めているのでしょうか。ヘーベルメゾン入居者アンケート(旭化成ホームズ調べ2018年10月)によると、1位は「停電時に電気が使える」でした。調査した2018年は、平成になって最も大きな被害をもたらした「西日本豪雨」が起きた年です。以来、毎年水害は発生しています。先の調査にもあったように、年々防災意識が高まり、具体的なニーズとして浮上してくるのが分かります。
現状、「停電時に電気が使える」設備があるのは、戸建てや分譲マンションでも少ないでしょう。しかし、賃貸住宅でもこの設備を備えることは可能です。
まずは、太陽光発電です。停電時、太陽光発電設備供給住戸は、昼間であれば各戸で電気が使えます。太陽光発電の設置は、今後新築の賃貸住宅でも義務化の方向で検討が進んでいます。
高断熱・省エネ・創エネにより、1年間で消費する住宅のエネルギー量が正味(ネット)でおおむねゼロ以下を目指す住宅、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準の賃貸住宅ZEH-M(ゼッチ・マンション)は増えていくでしょう。
さらに蓄電池を備え、共用部に非常用コンセントを設置すれば、夜間の停電時でもそこから電気を使え、スマートフォンの充電や、電気ポットによるお湯の確保などができます。
現在、災害時は在宅避難が推奨されています。特に乳児やペットがいる場合は、長期間停電が続いた場合でも電力の備えがあれば安心です。
防災への意識が高まる中、太陽光発電や蓄電池による共用部の非常用コンセントは、大きなアピールポイントとなるでしょう。
ZEH-Mについては、バックナンバー「防災力で賃貸住宅の付加価値を高める」でも解説しています。
防災意識の高まりは「停電時に電気が使える」といったニーズを生む。太陽光発電と蓄電池による非常用コンセントを共用部に設置することで対応できる。
前述のヘーベルメゾン入居者アンケートで、賃貸住宅に求められる具体的な防災機能の第2位と第3位は「保存食・水等の備蓄」「部屋の壁への家具固定」です。
「保存食・水等の備蓄」については、収納が必要になります。備蓄ができる大きめの収納「パントリー」を設けることで、日頃食べ慣れている食材を備蓄し、食べたら買い足す「ローリングストック」が可能となります。
また、ウォークインクローゼットなどの集中収納があれば、転倒や下落の恐れのあるタンスや衣装ケースを収納できることができます。生活空間と収納空間を分離することで、人的・物的被害を減らす方法です。
「家具の固定」については、賃貸住宅では基本的に壁に釘を打つことは禁止されていますので、悩ましいところです。そこで、冷蔵庫や家具を置くことが想定される壁面には、固定用の下地を設置し、壁面に「家具固定OK」のプレートを掲示します。これで入居者も安心して、家具の固定ができます。
大きな収納、家具固定できる壁面は、入居者の自助努力を促す。これも大きな防災力の一つとしてアピールできる。
その他、細かいけれど意外と大切な防災力アップのポイントを紹介します。
震度5強以上の地震を感知するとブレーカーを強制遮断し、電気を自動的にストップします。大地震の減災で気をつけなければならないのが二次災害の火災です。その原因の一つが、停電から復旧した際に起こる通電火災です。阪神・淡路大震災の火災原因で最も多かったのがこの通電火災です。「感震ユニット付分電盤」があれば、避難時にブレーカーを切り忘れても、通電火災を防ぎます。
この数年、豪雨や台風、竜巻による被害が多発しています。特に台風や竜巻は飛来物の心配があります。飛来物から室内を守るためにもできるだけシャッターは設置したい設備です。
入居者への注意喚起に防災パンフレットを配布したり、掲示板に貼り紙をしたりすることも大切です。
また、定期的に入居者向けの防災イベントを行うことでも防災力を高めます。子育て共感賃貸住宅「母力」やペット共生型賃貸住宅「+わん+にゃん」では、自助意識と入居者同士のコミュニティによる共助意識を育むため、入居者向けの防災イベントを開催し、お互いに交流を図りながら防災を学べる機会をつくっています。(現在はコロナ禍で開催していません)
防災力の高さを細かくアピールすることも大切。防災力を高め、「ここなら安心」と思ってもらうことで、長期入居、長期安定経営につながる。