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不動産を活用した相続税対策とその注意点

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2022年8月 4日

不動産を活用した相続税対策とその注意点
北岡修一税理士

相続税対策には賃貸住宅の建築や不動産の購入など、いくつかの対策があります。しかし、本当にそれが有効なのかはケースバイケースです。また、先日の最高裁判決に見られるように行き過ぎた相続税対策が認められないケースも出てきました。不動産を活用した相続税対策とその注意点について、東京メトロポリタン税理士法人の北岡修一税理士・グループ代表に伺いました。

CONTENTS
 ■不動産購入による相続税対策。効果は高いが行き過ぎた対策はNG
 ■生前贈与は急ぐべき? その効果は?
 ■賃貸住宅建築の相続税対策効果は本当に高い?
 ■何から始めればいい? 相続税対策の一歩

■不動産購入による相続税対策。効果は高いが行き過ぎた対策はNG

─投資用にワンルームマンションやタワーマンションの一室を購入するのは、どのような相続税対策効果があるのですか?また購入の際の注意点はありますか?

北岡:相続税対策で大きな効果があるのは、時価と相続税評価額の価格差を利用した対策です。仮に現金1億円を相続した場合は、1億円の評価ですが、タワーマンションの一室を1億円で購入し、賃貸した場合の相続税評価額は3,000万円から4,000万円あるいはそれ以下になります。

土地を評価する際に使う路線価は、公示地価の8割を目安に設定されていますので、まずこの時点で時価よりも低くなります。路線価は1月1日時点の公示地価をベースにしますので、今のように地価が上がっている時はさらに価格差が広がることになります。
またマンションの場合、土地の面積は戸数で割りますので、タワーマンションのように戸数が多いと一戸あたりの土地面積は小さくなり、結果、相続税評価額が低くなるのです。
さらに、賃貸することで貸家建付地の評価減も受けられます。建物も固定資産税評価額で評価した上、賃貸することで貸家評価となり評価額が下がります。結果、投資用マンションの場合、時価の約3割から4割ほどの評価額となります。

注意したいのは、相続発生直前に慌てて、相続税対策だけを目的に購入しないことです。

─先日、最高裁で路線価評価が否定されたと聞きました。そのことと関係がありますか?
北岡修一税理士

北岡:はい。2022年4月に相続税評価額について、マンションの路線価による評価が最高裁で否認されました。業界でも注目の高かった判決です。

概要は次の通りです。
被相続人の男性は94歳で亡くなり相続となりましたが、問題となったのは男性が亡くなる3年半前の90歳の時に購入した8億3,700万円のマンション、そして亡くなる2年半前の91歳の時に購入した5億5,000万円のマンションです。
2棟合わせて13億8,700万円で購入しましたが、相続税評価額を路線価に基づき約3億3,400万円と評価し、借入金等もあったことから相続税は0円と申告しました。しかし、税務署は路線価による評価が著しく不適当とし、不動産鑑定評価額により2棟のマンションを12億7,300万円と評価、約2億4,000万円の追徴課税をしました。相続人が課税処分の取消を求めた訴訟で、最高裁は相続人の上告を退け、国税庁の処分を妥当とする判決が確定しました。

先ほども言ったとおり、不動産の場合は、時価と相続税評価額に大きな価格差があります。しかし、その乖離が非常に大きいという理由だけで否認されたのではありませんし、路線価評価自体が否認されたわけでもありません。

今回の場合は、相続税の節税だけの意図があまりにも極端で、相続税の租税回避行為があったということです。マンションの購入時期が90歳、91歳と高齢ですし、金融機関の稟議書を見れば、その意図は明らかだった。そして、それを覆すような経済合理性のある理由がその不動産の購入にはなかった、ということです。

─租税回避行為と認定されないためにはどのような注意が必要ですか?

北岡:租税回避行為と認定されてしまうのは、高齢の方が相続直前(3年程度)に金融機関から多額の借入れによりマンションを購入し、相続後すぐに売却するなど節税対策以外の目的がないと認められるような場合です。
ちなみに、今回の場合は2棟あるマンションのうち、売却したのは1棟だけですが、売却していないマンションも路線価評価否認の対象になっています。売却しなければ良い、というものでもないことも、注意しなければなりません。

たしかに不動産の購入は相続税対策になりますが、その目的だけによる購入は今回のように否認される可能性が高く、遺産分割や資産運用の一環であるということを明確にする必要があります。不動産への投資は、資産運用としてもよくある手法の一つです。資産運用として計画し、早めに実行することが大切です。

■生前贈与は急ぐべき? その効果は?

─生前贈与を急いでしたほうが良いと雑誌にありました。効果はあるのでしょうか?
北岡修一税理士

北岡:急いでする必要はありません、後述する相続・贈与の一体課税の関係から雑誌等で話題にしていましたが、まだ何も決まっていません。焦る必要はないと思います。税制が決まった上で、どうするか考えればよいでしょう。

生前贈与自体については、とても効果の大きい相続税対策です。ポイントは、「時間と人数と金額」です。つまり、長い時間(年)をかけて、複数の人に、相続税率よりも低い税率の範囲内で多くの金額を贈与していく、ということです。仮に贈与税を支払ったとしても、相続税より税率が低ければ効果があるということになります。
ただし、あくまで相続税対策という観点からです。

─生前贈与の注意点について教えてください。

北岡:不動産の購入もそうですが、生前贈与も相続税対策ばかりにとらわれていると、失敗してしまいます。
生前贈与はあくまで贈与する方の意志で行うものです。相続税対策になるからと、子どものほうから生前贈与をしてほしいとか、親が自分の意志とは違うところで生前贈与をせざるを得なくなるのは、本末転倒だと思います。
親が作り上げてきた財産ですから、まずは自分たちが生活を楽しむために使ってほしいですね。一番の相続税対策として、相続の時に何も残さないということもありますから(笑)。

親が生前贈与をしていくのであれば、まずはしっかり贈与契約を結ぶことです。身内であったとしても、しっかりそれぞれが自署をして契約書を残します。さらに現金贈与の場合には振り込みをして、通帳に名前を残す。通帳は贈与を受けた方が所持し管理をする、そして暦年贈与であれば年110万円を超えたら、贈与を受けた方が贈与税の申告をすることです。

─今後、相続・贈与の一体課税はどうなるのでしょうか? 今でも相続開始前の3年しばりがありますが。
北岡修一税理士

北岡:先ほども少し触れた相続・贈与の一体課税は、毎年、年末に発表される税制改正大綱にその方向性が記されてから、数年先送りになっているものです。
資産家にとっては、相続税の税率より、贈与税の税率のほうが低くなり有利に働くことも多く、是正が求められていました。現在、税制審議会や税制調査会などで検討されているところです。今年末に発表される来年度の税制改正大綱の中に具体的な改正として出てくると見られています。

方向性としては、現行制度をベースとして、それを見直していくと思われます。例えば、ご質問のように現在、相続開始前3年以内の贈与は相続財産として課税するという、いわゆる3年しばりがありますが、これを5年ないし7年に延長していくことが考えられています。
また、現在もある相続時精算課税制度ですが、この制度を選択した場合、2,500万円までは贈与時には非課税で、相続時に改めて精算することになります。この制度は、相続・贈与の一体課税なのですが、あまり利用されていません。この制度を使いやすく見直していくことにより、一体課税を実現していくという考えもあります。

─生前贈与の節税効果がなくなり、メリットがなくなるということでしょうか。

北岡:一概にはそうとは言えません。もう一つの目的として、若い世代に早期に資産移転を促すというものがあります。若い世代が受け継いだほうが、資産が消費にまわり日本経済の活性化に期待が持てます。
そのための税制で、住宅取得資金贈与の非課税制度、また、教育に使う費用なら1,500万円まで非課税となる教育資金一括贈与の非課税制度などがあり、孫への贈与によく使われています。ただ、この制度はなくなるかもしれません。そもそも、教育資金の都度の贈与は非課税だからです。

この方向性に沿った改正が行われるのであれば、生前贈与がしやすくなり、何らかのメリットが生まれる可能性はあります。基礎控除額110万円まで非課税となる暦年贈与がなくなるとの懸念も聞きますが、若い世代への資産移転のために、むしろ基礎控除額が上がったり、贈与税率が下がったりする可能性もあります。
ただ、節税だけに気を取られていては、正しい判断ができなくなることもあります。税制改正の内容によっては、資産運用のあり方も再考しなくてはいけないかもしれません。
いずれにせよ、年末の税制改正大綱は注視する必要があります。

■賃貸住宅建築の相続税対策効果は本当に高い?

─賃貸住宅の建築はどのような相続税対策効果がありますか?

北岡:相続税対策の一つは、財産の相続税評価額を下げることです。冒頭の不動産の購入もその一つです。賃貸住宅の建築も同じですが、さらに土地を有効活用することで土地が持っている本来の価値を最大限に高めるという、資産運用にとっても非常に大きな効果があります。

財産の引き下げ効果について、仮に評価額1億円の更地に、1億円(全額ローン)で賃貸住宅を建築した場合でシミュレーションしてみましょう。下の図を見てください。
まず、土地についての評価は貸家建付地となり、概ね20%評価が下がります。次に建物は、固定資産税評価額で概ね40%下がり、さらに貸家評価として固定資産税評価額の70%で評価されることになり、結果概ね60%下がります。
建築費のローンが1億円ですので、土地、建物、ローンを相殺すると2,100万円の評価になります。更地のままだと1億円ですから、約80%も資産の評価が下がったことになります。

[例]更地評価額1億円、借地権割合70%、借家権割合30%の土地に、1億円(全額ローン)で賃貸住宅を建設

また、賃貸住宅が建っている土地は、相続の時に小規模宅地等の特例の対象となり、最大200㎡まで50%もの評価減をすることも可能で、さらに高い節税効果が期待できます。
通常、小規模宅地等の特例は、自宅(最大330㎡まで80%評価減)で活用することが多いのですが、二次相続で自宅を継ぐ相続人がいないと特例は使えません。その場合は、賃貸住宅が建っている土地で特例が使えるわけです。また、面積制限はありますが、自宅と併用することもできます。地価の高いほうに適用させるほうが有効ですので、専門家とよく相談して活用するのがよいでしょう。

─賃貸住宅建築の相続税対策効果としてのデメリットはありますか?
北岡修一税理士

北岡:多額のローンを組むことに躊躇される方も多いと思いますが、一括借上げを活用すれば、長期間安定した収益が期待できます。逆に言うと、収益性が悪ければ資金繰りに窮してしまいます。賃貸住宅を建てたはいいが、入居者がいないのでは意味がありません。エリアのニーズに合った、賃貸住宅を建てることは言うまでもありません。

相続税対策としても、入居率が悪いと評価減に影響することになります。というのは貸家建付地評価や小規模宅地等の特例などにおいては、相続時に空室があるとその分、評価減ができなくなってしまう可能性があるのです。この点も一括借上げであれば、空室があっても借上げ業者との契約なので、影響はありません。

また、借入金で建てた場合、相続人が借入金を引き継ぐ可能性もありますので、その点も事前に話しておく必要があります。

■何から始めればいい? 相続税対策の一歩

─あらためてお聞きします。相続税対策は、まず何から始めればよいのでしょうか?

北岡:やはり、まずは自分の財産の棚卸しですね。その上で、その財産を概算でも相続税評価をして、自分の相続財産がいくらあるのかを把握することです。土地の評価も路線価をもとに計算すれば概算で分かると思います。建物も固定資産税評価額がベースですので、毎年の固定資産税の納税通知書を見ればわかります。その上で、相続税がいくらかかるのかを知ることです。対策はそれからです。

重要なのは、相続税のことばかり考えず、自分たちの生活を楽しむことを優先したほうがよいと思いますね。その上で、子どもたち相続人にどのように残してあげるのかを考えてみてください。子どもたちがもめないように、遺言も考えていくことが必要です。

そして、お盆やお正月の時期など、家族が集まる時にみんなに相続のことを話してみてはいかがでしょうか。親がしっかりと決めていれば、そう反論も出ないと思います。また、子どもたちにもどうしたいのか、聞いてみてもよいでしょう。経験上、この家族間のコミュニケーションがあるかないかで、相続か争続かの分かれ道になるように思います。

東京メトロポリタン税理士法人
グループ代表/税理士
北岡 修一(きたおか しゅういち)
「明るく、チームワークのいい税理士法人を目指しています!」という北岡代表の理念のもと、チーム一丸となって対応してくれます。いざというときの相続税の申告はもちろん、生前の対策や贈与税の申告もサポート。依頼者と考えた対策をレポートにして残し、その実践をサポートしてくれます。東京メトロポリタン税理士法人のホームページはコチラ
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