国土交通省から、今年の7月1日時点の基準地価が発表されました。上昇基調を強めている地価動向を三大都市圏のエリア別に解説します。一方、景気後退や利上げなど、地価に影響を及ぼす懸念事項も注目されています。地価や賃貸市場への影響を考えてみたいと思います。
三大都市圏を中心に地価の上昇基調が強まっています。三大都市圏の住宅地は3年連続、商業地は12年連続で上昇。全国平均でも住宅地・商業地のいずれも3年連続で上昇し、上昇幅は拡大しました。景気が緩やかに回復する中、再開発、インバウンド、不動産投資が地価上昇の要因と考えられています。
エリア別に見ると「住宅地」は、東京圏、名古屋圏が4年連続上昇、大阪圏は3年連続の上昇。いずれも上昇率は年々拡大しています。低金利環境の継続により、住宅需要は大都市圏を中心に堅調です。
加えて、人気の高いリゾート地でも、別荘や移住の需要が増大し地価が上昇しています。全国の上昇率トップ10は沖縄県7地点、北海道3地点で占められています。
「商業地」は、東京圏が12年連続上昇、名古屋圏4年連続上昇、大阪圏3年連続上昇。いずれも上昇率は大きく拡大しています。主要都市では、店舗・ホテルなどの需要が堅調で、オフィスの空室率低下や賃料上昇により収益が高まり、地価上昇が継続しています。
加えて再開発エリア、インバウンド需要の高い観光地・リゾート地の上昇が目立ちます。全国の上昇率トップ10は半導体工場が誘致された熊本県が5地点、その他、観光地・リゾート地の長野県白馬、岐阜県高山、東京都浅草、北海道千歳がランキングに入っています。
東京圏の住宅地は4年連続で上昇し、商業地は12年連続の上昇でした。
「住宅地」をエリア別に見ると、最も上昇率が高かったのが東京都23区の都心部(千代田区、中央区等)で9.2%の上昇、昨年の5%から上昇幅も大きく拡大しています。
何度も報道されていますが、東京23区の分譲マンションは高騰を続けています。直近のデータ2024年8月の東京23区新築分譲マンション平均価格は1億3,948万円です(不動産経済研究所)。特に海外の富裕層から見ると円安が進み買いやすく、中には投機的な売買もあり、地価上昇の要因となっています。
都心部の住宅は一般の会社員が買える水準を超え、ファミリー層は都外に出て行く傾向にあるようです。東京都によると2023年は0~10歳と33歳以上の全年齢で転出超過となっています。
住宅地変動率2位と4位の「つくばエクスプレスおおたかの森」は、昨年も上位にランキングされていましたが、子育て世帯に人気の注目のエリアです。この他、ベスト10の中には同じ「つくばエクスプレスみらい平駅」近くのつくばみらい市や千葉県市川市のエリアがランクイン。首都圏全体で見ても、利便性や住環境に優れた地域では、マンション、戸建住宅ともに需要が旺盛で、上昇幅が拡大しています。
「商業地」では東京圏の上昇率トップ10は、2位「神奈川県みなとみらい」の他は全て東京都のエリアです。インバウンド需要の高い浅草のエリアが4エリアもランクインしています。1位は「つくばエクスプレス浅草駅」近くの商業地で、前年から25%もの上昇です。全国で見ても8位の上昇率で、価格にすると1㎡あたり184万円から230万円に上昇しています。特に浅草では店舗の需要が高く地価の上昇拡大の要因となっているようです。
その他100年に一度と言われている再開発が進行中の渋谷周辺、同様に大規模再開発が進む中野周辺の地価が上昇しています。
名古屋圏では商業地、住宅地ともに4年連続で上昇しました。
商業地の上昇率ランキングを見ると、昨年は名古屋市中心部がほとんどでしたが、今年は周辺のエリアのランクインが目立ちました。上位4位までは名古屋中心部に隣接する千種区です。1位の「千種区末盛通」は地下鉄東山線本山駅から約17分のエリア。周辺には大学キャンパスや飲食店で賑わっています。千種区はマンション需要が高く、タワーマンションの建設が相次ぎ、地価を押し上げています。千種区以外にも都心部周辺の割安感がある地点、一宮市や熱田区の地価が上昇しています。
一方、都心部でいつもランキングに入っている栄区は既に地価が高く、今回はベスト10には入りませんでした。ただし、名駅周辺や栄・伏見地区では、オフィス・店舗等の需要は堅調であるとともに、大規模開発計画等の進展もあり、中村区で7.8%、中区で5.7%上昇しています。
また、名古屋圏は東京圏・大阪圏と比べインバウンドの影響は少ないようです。アクセスの影響もあり、訪日外国人の人数が少ないのが現状で、商業地の地価上昇率は東京圏7%、大阪圏6%に比べ、名古屋圏3.8%の上昇にとどまっています。
住宅地の上昇率1位も本山駅に近い千種区橋本町です。ベスト10の7位~9位も千種区でした。また、上位10地点のうち、5地点を愛知県大府市、一宮市、長久手市が占めています。大府市は自動車関連従事者の住宅需要が高く、地価上昇の要因となっています。
大阪で注目の大規模再開発が、JR大阪駅北側の旧貨物駅跡地の再開発計画で「南街区」「北街区」「都市公園」の3つのエリアに分かれるグラングリーン大阪(うめきた2期)です。先月、一部が先行オープンし、完成は2027年度の予定です。
大阪圏の商業地の最高価格地点は、全国6位となったJR大阪駅(大阪市北区)周辺のキタに位置する商業施設「グランフロント大阪南館」。3.9%上昇し1㎡あたり2,390万円、全国で6位でした。全国7位はインバウンドが回復したミナミの「デカ戎橋ビル」。14.9%上昇し1㎡あたり2,240万円でした。
うめきたエリアに近い福島区にも再開発の影響が波及し、タワーマンションなどの住宅需要が旺盛で、上昇率21.6%と3位に入り、注目のエリアとなっています。
また、インバウンド需要の回復により大阪、京都の観光地で店舗の需要が急回復し、地価が上昇しています。ベスト10を見ると1位、2位、4位が京都です。ベスト7位まで20%を超える上昇率です。
住宅地でも商業地と同様、JR大阪駅周辺の再開発の影響で、その周辺地域の上昇幅が大きく、うめきたエリアに近い福島区が、上昇率3位、9位、10位に入っています。福島区は大阪府の市区町村別での上昇率で見ても1位で7.6%上昇です。
上昇率1位は京都の地下鉄東西線東山駅近くで8.6%上昇、2位は京都の地下鉄烏丸線九条駅近くで8.4%上昇。京都市中心部の利便性の高い住宅地の住宅需要は底堅いようです。
数年前まで、東京都心の地価上昇はミニバブルと言われ、東京オリンピックが終われば地価は下がるとも言われていました。しかし、地価は一段と上昇トレンドを強めているようにも見えます。
懸念されるのは今後の景気動向です。今後は日本に続き米国もトップが交代、円安から円高へ進行しつつあり、株価は乱高下を繰り返しています。
また、日銀による追加利上げも話題になっています。既に住宅ローン価格はわずかながら上昇しつつあります。東京都都心では既に新築分譲マンションは一般消費者に手が届かない水準になっていますが、金利が上がればさらに購入は難しくなるでしょう。
賃貸住宅オーナーにとって気になるのは、地価や景気の影響が家賃にどのように影響するかです。短期的に見れば、この数年、インフレに伴い家賃は上昇しています。しかし、この後株価の暴落や地価の下落があるかもしれません。その影響がないとは言い切れませんが、賃貸経営は20年、30年以上続く長期の事業ですから、長期の視点で見る必要があるでしょう。
下記のグラフは過去約30年の日経平均株価、公示地価、民営家賃(東京都区部)を指数化したものです。景気動向を表す日経平均や地価は、社会環境の大きな変化によって変動しているのが分かります。一方の民営家賃は景気や地価の変化に左右されることになく、安定しています。これが、賃貸経営は長期安定経営が期待できる要因の大きなポイントです。
ただし、注意も必要です。今回採用した民営家賃は東京都区部という需要のあるエリアの指数です。都市部以外の賃貸需要が弱含みのエリアや賃貸需要があっても入居者ターゲットを間違えるなどすれば家賃を維持することは難しく、ニーズを的確に捉えたプランニングは必要不可欠です。付加価値のあるプランニングの賃貸住宅であれば、長期にわたり安定経営が期待できるでしょう。