建築費高騰や金利上昇により、不動産市場には逆風が吹いているようにも見えます。しかし、不動産投資の市場規模は拡大傾向にあり、中でも「賃貸住宅」は資産規模も大きく伸びています。今回は、賃貸住宅市場を不動産投資の視点で見ていきます。
ニッセイ基礎研究所と価値総合研究所の共同調査による「わが国の不動産投資市場規模(2024年)」では、「収益不動産(一定水準以上の面積基準や築年基準を満たす)」の資産規模は、約315.1兆円となり、前回比で25.7兆円のプラス。不動産投資市場は好調を維持しています。
用途別に見ても全用途で拡大しており、「オフィス」が約109.7兆円と最も大きく、次いで大きいのが「賃貸住宅」約83.2兆円です。前回調査から最も拡大したのは、インバウンドの回復により急速に回復した「ホテル」でプラス71%で、次に拡大したのが「賃貸住宅」でプラス8%です。
「収益不動産」の資産規模における用途別の割合は、「オフィス」が35%と最も大きく、次に大きいのが「賃貸住宅」で26%です。
「賃貸住宅」は、不動産投資市場の観点から見ると、資産規模が大きく、拡大傾向にあることが分かります。
賃貸住宅の「投資適格不動産(機関投資家の投資意欲が特に強いスペックや立地要件を満たす)」の資産規模をエリア別に見ると特別区部(東京23区)が約24.1兆円と全体の58%にあたり、集中していることが分かります。
不動産投資の視点で見ると、賃貸住宅の市場規模はオフィスに次いで大きく、資産規模は特に東京23区で拡大している。
不動産投資市場は拡大傾向にありますが、リスクについても警戒しておく必要があります。
市場関係者はどのようなリスクを懸念しているのでしょうか。「不動産市況アンケート(第21回・2025年1月調査 ニッセイ基礎研究所)」によると、最も懸念されるリスクは「国内金利」、次いで「建築コスト」、「米国政治・外交」でした。
前回調査から大きく増加したリスク要因は「米国政治・外交」22%増(22%→44%)で、トランプ政権の政策が国内の不動産市場に影響を与えていると見ているようです。「国内金利」も前回調査から12%増(59%→71%)で、次の利上げに警戒感を示しています。「建築費コスト」については前回調査から6%減(68%→62%)ですが、リスク要因としてはまだまだ高いと見ています。
不動産投資市場のリスク要因はあるものの、現在の景況感についてはプラスの回答(「良い」と「やや良い」の合計)が約7割になり、前回調査から大きく増加しました。7割以上を占めたのは5年ぶりです。
また、「今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資セクター(証券化商品含む)」については、最も多かったのが「ホテル」(73%)、次いで「産業関係施設(データセンターなど)」(61%)、3位が「賃貸マンション」(35%)で4位が「オフィスビル」(30%)でした。
不動産投資市場は、「国内金利」、「建築コスト」などのリスク要因を警戒しつつも、景況感は市場関係者の約7割がプラスと回答。
不動産投資市場では「賃貸住宅」も他のセクター同様、堅調に推移すると見られています。
資産規模が集中している東京23区の家賃は実際どうなのか、推移を見てみます。グラフは、2015年1月を100とした家賃指数の推移です(不動産情報サービス・アットホーム 全国主要都市の「賃貸マンション・アパート」募集家賃動向 2024年12月 より)。
コロナ禍を経て、2022年頃から大型ファミリー向き(70㎡超)を除く全面積帯で上昇傾向です。特にカップル向き(30〜50㎡)、ファミリー向き(50〜70㎡)の上昇が著しく、シングルも都心回帰の影響もあり、上昇しています。
平均家賃にすると2024年12月は、カップル156,831円(前年同月比+12,253円)、ファミリー231,726円(前年同月比+9,914円)と、1年前と比べて1万円前後家賃が上昇しています。
家賃がこれだけ上昇すると、入居者の支払い能力との需給バランスが懸念されます。一方、東京23区の新築分譲マンション平均価格は2年連続で1億1千万円を超えました(不動産経済研究所調べ)。東京23区の「夫婦と子ども世帯から成る世帯」のうち、世帯所得が1千万円以上の世帯は56.2%と過半数を超えています(総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」より)。
分譲マンション購入と比べると賃貸住宅の家賃は高騰しているとはいえ割安感があり、買い控えているファミリー世帯が高価格帯家賃の賃貸住宅市場に流れてきていると思われます。
家賃はファミリー世帯を中心に上昇傾向。東京23区のファミリー世帯は経済力があり、高価格帯家賃の賃貸住宅でもニーズがある。
もう一つ、賃貸住宅市場に関する調査を紹介します。三菱UFJ信託銀行の「2024年度賃貸住宅市場調査」です。この調査は「不動産市場において、賃貸住宅は企業の不動産活用、不動産投資の投資対象としても重要な位置づけにある」として、「賃貸住宅の在り方を捉えること」を目的としています。
首都圏の成約賃料については、シングル、ファミリーともにいずれのエリアでも、1年後も賃料上昇が続くことが見込まれ、都心に近いほど上昇率が大きく、部屋タイプ別ではファミリータイプの上昇率が大きいと見られています。
また、「注目すべきと考える賃貸住宅市場の変化」として、次のようなコメントが寄せられています。
今回紹介したどの調査を見ても、賃貸住宅市場は活況を呈しています。ただし、それだけ競争の激化が始まっているのも事実です。特に新築物件の品質は高く、中には分譲マンションにも備わっていない付加価値を持ったコンセプト賃貸住宅もあります。賃貸住宅は、ターゲットのニーズを見極めた適切なプランニング・運営が必要不可欠になっています。
賃貸市場はニーズが旺盛で活況を呈しているが、競争も激化。ニーズを見極めたプランニング・運営が必要。