今年は世界的なインフレ傾向、地価上昇などにより賃貸市場にも変化が見られました。特に家賃は上昇トレンドが続き、新しいファミリーニーズが台頭しています。また土地オーナーに影響がある相続関係の法制度の施行が始まりました。土地オーナーに関連する賃貸市場のトピックスを振り返りたいと思います。
2024年賃貸市場トピックス
1-ファミリー向きを中心に家賃は上昇傾向続く
2-地価・路線価はさらに上昇
3-生前贈与の大改正始まる
4-分譲マンションの相続税評価額のルール改定
5-初の南海トラフ巨大地震注意発令、防災意識高まる
6-省エネ表示制度スタート
7-賃貸住宅メンテナンス主任者に注目
昨年に続き、今年も家賃が上昇しました。
直近の全国主要都市の「賃貸マンション・アパート」募集家賃動向(2024年10月・不動産情報サービス・アットホーム)では、賃貸マンションについて、東京都下・神奈川県・埼玉県・千葉県・札幌市・京都市・大阪市・福岡市の平均募集家賃が全面積帯で前年同月を上回りました。特にファミリー(50~70m2)が引き続き好調で、東京23区・埼玉県・千葉県・札幌市・福岡市は2015年1月以降最高値を更新。また、在宅勤務は一部定着したものの、完全出社に切り替える企業も増え、都心回帰が見られます。東京23区のシングル、カップル、ファミリーの募集家賃は2015年1月以降最高値を更新しました。
分譲マンションの価格高騰によるファミリー層の賃貸市場への流入は、まだ続きそうです。東京23区のカップル(30~50m2)の平均募集家賃は153,100円、前年同月比で+7.3%(+10,469円)、ファミリーは226,597円、前年同月比で+4.6%(+9,993円)です。共に1万円前後上昇しています。
元々、ファミリー物件は不足していて、新しいファミリー層が求める良質な賃貸ニーズに応えた、グレードの高い物件が増えたことが平均家賃を押し上げていることも家賃上昇の一因と考えられます。
マンスリーレポートでは、家賃相場について賃貸市場の繁忙期(1月~3月)と9月時点を取り上げました。
「家賃がさらに上昇!!2024年"春"の家賃動向」
「2024年の家賃相場を振り返る」
地価の上昇に伴い、路線価も上昇しています。
路線価の全国平均は前年比2.3%増で3年連続の上昇。上昇幅が2%を超えるのは16年ぶりのことです。インバウンドの回復や各地の再開発が地価を押し上げ、路線価は上昇基調を強めています。東京都の5.3%上昇を始め、いずれもコロナ前の水準を超える上昇率です。千葉県にいたってはコロナ禍でも下落せず11年連続して上昇しました。
路線価は、相続税・贈与税の土地評価の算定基準となりますので、土地オーナーは特に注意が必要です。コロナ禍で一旦は前年比マイナスになりましたが、再び上昇し、ほぼ10年近く上昇を続けていることになります。10年前に相続対策として、土地を資産評価し公平に遺産分割を考えた場合でも、今では不公平になっているかもしれません。適宜、見直しが必要です。
マンスリーレポートでは、地価動向について公示地価、路線価、基準地価について取り上げました。
「2024年「公示地価」と賃貸市場の景況感」
「2024年「路線価」、コロナ前の水準を超える」
「2024年「基準地価」、今後の地価と家賃相場」
生前贈与に関する大きな税制改正が今年の1月1日以後の贈与から始まりました。「暦年課税」と「相続時精算課税」です。
「暦年課税」には、これまで3年以内の贈与分は基礎控除の110万円も含めて相続財産に持ち戻す、いわゆる"3年縛り"がありましたが、持ち戻しの期間が3年以内から7年以内になりました。
「相続時精算課税」は、新たに110万円の基礎控除が新設されました。この基礎控除分は相続時の精算に加算する必要はありません。
どちらが有利かは、家族や資産の状況によりケースバイケースです。この二つの制度は併用することはできません。相続時精算課税を選択すると暦年課税に戻れませんので、注意してください。
マンスリーレポートでは、暦年課税と相続時精算課税について専門家に解説していただきました。
「暦年贈与or相続時精算課税、どちらを選択すべきか?」
今年の1月1日以後の相続、遺贈・贈与から、分譲マンションの相続税の評価額算定ルールが変わりました。昨今のタワーマンションによる行き過ぎた節税対策を是正するためです。
一戸建ての場合、相続税評価額は実勢価格の約6割ですが、タワーマンションの場合はこれまで約4割にまで評価が下がるといわれていました。そこで、相続税評価額が市場価格の6割に満たない場合は、最低でも市場価格の6割になるように評価額を調整して、一戸建ての評価水準と同等にします。
このルールは、タワーマンションだけではなく、3階建て以上の分譲マンションが対象です。8階建ての2階の部屋も対象となりますので、分譲マンションを所有の方は注意してください。
今年も自然災害による被害が多発しました。8月8日には、日向灘を震源とする最大震度6弱、マグニチュード7.1の地震が発生したことを受け、政府は初めて「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表しました。初めてのことで驚いた方も多かったと思いますが、おのずと防災への意識が高まったことは言うまでもありません。賃貸住宅のニーズにも防災意識への高まりが表れています。
"魅力を感じるコンセプト賃貸住宅"では、「防災賃貸住宅」が3年連続の1位となりました(賃貸契約者動向調査(首都圏版)」/株式会社リクルート SUUMOリサーチセンター)。賃貸住宅でも、防災力の高さが付加価値を生むことになります。備蓄倉庫・蓄電池などで自助、共助を促す設備が必要とされています。
マンスリーレポートでは、賃貸住宅の「防災力」について取り上げました。
「入居者が求める"自然災害に強い"賃貸住宅とは」
「入居者ニーズの最新トレンド≪防災・ZEH≫」
入居者募集の際に、省エネ性能を表示する「省エネルギー性能表示制度」が、4月から始まりました。努力義務ではありますが、最近の光熱費の値上がりなどで入居者の省エネ意識も高まっています。省エネ性能の項目は、「エネルギー消費性能」「断熱性能」「目安光熱費」の3つです。
賃貸住宅もZEH仕様の普及が進んでいます。東京都、神奈川県川崎市などでは2025年から、賃貸住宅を含めた新築住宅の太陽光発電設置を義務化する予定です。今後は、ZEH賃貸住宅がスタンダードとなっていくと思われます。
マンスリーレポートでは、「ZEH賃貸住宅」について取り上げました。
「省エネ性能表示がスタート! 注目を集める環境共生賃貸住宅」
「入居者ニーズの最新トレンド≪防災・ZEH≫」
賃貸経営を長期安定させるためには、空室リスクを回避し、日々の入居者管理、建物管理が欠かせません。この賃貸管理業務は、入居者ニーズの多様化により高度化・専門化が進んでいます。2020年には「賃貸管理適正化法」ができ、一括借上げ業者には、国家資格「賃貸不動産経営管理士」等の設置が義務づけられました。
そして、昨年また新たな認定資格が誕生しました。建物や設備のメンテナンスの基礎知識を持った「賃貸住宅メンテナンス主任者」です。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が創設した認定資格です。国民センターに寄せられる賃貸住宅に関する相談の内、約4割は原状回復に関するトラブルです。トラブルを防止するには、適切なメンテナンスの知識が必要となります。また、先の賃貸管理適正化法では賃貸住宅管理業務として定義づけられたことから、賃貸住宅管理業者は建物設備や建物に必要な修繕等を行い、メンテナンスすることが求められるようになりました。
まだ、誕生したばかりの資格ですが、2024年2月までに有資格者は13,000人を超えています。賃貸管理はますます専門家に任せる時代になってきました。
マンスリーレポートでは、「賃貸管理」について取り上げました。
「『一括借上げ』vs『管理委託』、どちらを選択すべき?」