開業初年度の確定申告では、初年度ならではの必要経費や注意すべき点がいくつかあります。初めての方にとっては、準備の段階から戸惑うことも多いと思います。確定申告書等を作成するにあたって、準備しなければならないことや全体の流れ、納税方法、また税務署でのコロナ対策などを解説します。
■スケジュールの確認
まずは、スケジュールの確認です。昨年(2020年)に開業した(=お引渡しを受けた)場合は、原則、2021年2月16日~3月15日の間に確定申告をしなければなりません(還付がある場合は1月1日以降に申告を提出することが可能)。例えば、4月1日に開業した場合は、4月1日から12月31日までの9カ月間の所得について確定申告することになります。
各種届け出も期限内に提出しなければなりませんが、特に注意したいのが「青色申告承認申請書」です。この承認申請書を出すタイミングは、開業後2カ月以内か、確定申告のタイミングのどちらかしかありません。開業後2カ月以内に提出していないのであれば、今回は白色申告になります。今回の確定申告と一緒に「青色申告承認申請書」を提出すれば、2021年分から青色申告になります。
また、開業から1カ月以内に「開業届」を提出しておかなければいけないのですが、まだ届け出をしていない場合は、今回の申告で一緒に提出するとよいでしょう。
青色申告承認申請書の書き方については、バックナンバー「確定申告実務編-青色申告承認申請書等の書き方」で解説しています。
■帳簿の確認
次に帳簿の確認です。計上漏れがないかチェックしてください。
チェックが終わったら決算処理をします。特に減価償却費の計上を忘れないようにしてください。会計ソフトでも、決算処理に合わせて仕訳、計上することになります。
帳簿に関しては、バックナンバー「アパート経営の節税対策-帳簿作成編」で解説しています。
■各種控除証明書の確認
確定申告では、社会保険料控除や生命保険料控除など、所得から差し引くことができる「所得控除」があり、金額を確定申告書に記載し、一部は控除証明書の提出が求められています。そのため、証明書などを事前に準備しておく必要があります。主には、以下のものがあります。
なお、電子申告の場合は、これらの証明書等の提示・提出は省略できます。ただし、通常の申告と同様に5年間の保存が義務づけられ、税務署等から書類の提示・提出を求められた場合は応じなければなりません。
スケジュール、各種届出書を確認。帳簿で計上モレがないか確認する。確定申告書の作成前に、マイナンバー、控除証明書などを準備しておくこと。
開業初年度の必要経費計上で、気をつけたいのが賃貸住宅の建設に伴う様々な経費です。
例えば、地鎮祭の費用や、登記費用、不動産取得税や印紙税といった租税公課などです。これらの経費については、建物の取得価格と合算して減価償却する場合と、その年の費用になるものがあります。
下の表にまとめましたので、参考にしてください。
もう一つ気をつけたいのが建物等の減価償却費の計算です。初年度の場合の減価償却費は、1年間の減価償却費を実際に使用した月割りで算出します。例えば1年間の減価償却費が120万円で7月から賃貸経営を始めた場合、使用期間は6カ月なので初年度の減価償却費は60万円となります。
減価償却費については、バックナンバー「アパート経営の節税対策-減価償却費編」をご覧ください。
初年度ならではの必要経費の処理を正確に。また初年度の減価償却費は月割りで計上する。
まず決算書を作成し、その内容を確定申告書に記載していくという流れになります。確定申告は、年に1回のことなので、経験者でもなかなか慣れません。多くの方が、税務署の「確定申告会場」に出向き、そこで職員に質問しながら確定申告書を作成し提出します。例年、「確定申告会場」はとても混雑しますが、今はコロナ禍で密を避けなければなりません。
今年の確定申告会場は、感染症対策のため「入場整理券」が発行されることになりました。入場整理券は確定申告会場で当日配布、または国税庁LINE公式アカウントからオンラインで事前取得できます。
国税庁では、電子申告の活用または郵送での申告を呼びかけています。
確定申告書の作成方法については以下の3つがあります。
(1)市販の会計ソフトで作成
会計ソフトを活用している方は、そのまま会計ソフトで決算書、確定申告書を作成することができます。電子申告もできますのでお勧めです。
(2)国税庁のサイトで作成
「国税庁 確定申告書等作成コーナー」のサイトで作成する方法です。作業の手順も詳しく解説されているので活用するとよいでしょう。そこで作成したデータで電子申告もできます。
(3)用紙を入手し、手書きで作成
確定申告書などの用紙は、国税庁のホームページでダウンロード、または税務署や確定申告会場のほか、市区町村の担当窓口や指導相談会場でも受け取ることができます。
作成した決算書、確定申告書の提出方法は3つあります。
(1)電子申告(e-Tax)※事前登録が必要、(2)郵送、(3)税務署に持参
税務署で相談せずに提出するだけでしたら、さほど混雑はしません。
また、持参した場合、決算書、確定申告書の控えに「収受日付印」を押印してくれます。この控えは、今回のコロナ禍で支給された持続化給付金の申請やローンの申請などの際、所得申告の証明として必要になることがあります。保存しておくことをお勧めします。
郵送の場合は、控えと一緒に返信用封筒に切手を貼って同封すれば、「収受日付印」を押印して返送してくれます。電子申告の場合は、データの送信後にメッセージボックスに「受信通知」が格納されますので、それが控えの代わりになります。
税務署に提出した申告書は、後日閲覧は可能ですがコピーはできないので、控えの保存は重要。確定申告の時期、税務署はとても混雑します。感染防止のためにも、電子申告か郵送での申告をお勧めします。
納税の期限は3月15日です。納税の方法は主に以下の5つです。
(1)預貯金口座から振替納税する方法
指定した金融機関の預貯金口座から自動で引き落とされる方法です。一度手続きをしてしまえば、その後は毎年自動で引き落とされるので便利です。納税期限までに、依頼書を税務署または金融機関に提出します。確定申告と同じタイミングで税務署に提出すればよいでしょう。実際に引き落とされるのは約1カ月後になります。
(2)現金で納付する方法
現金に納付書を添えて、税務署または金融機関で納付します。
(3)インターネット等を利用して電子納税する方法
利用には、事前に開始届出書の提出等が必要となります。預貯金口座からの納付方法(ダイレクト納付)やインターネットバンキングでの納付方法があります。
(4)クレジットカードで納付する方法
クレジットカード支払い専用のホームページから納付する方法です。手軽に納付できますが、決済手数料がかかります。
(5)コンビニエンスストアで納付する方法
納付金額が30万円以下であれば、コンビニで納付することもできます。国税庁ホームページで提供する作成システム等から納付に必要な情報をQRコードとして作成(印刷)し、納付します。
納税方法はいくつかあるが、手続きが一度で済み、口座から自動引き落としになる「振替納税」がお勧め。
今年の確定申告も昨年に続き、コロナ禍での対応となります。確定申告会場は、前述したとおり入場制限があります。
その他の相談方法としては、「電話」「チャットボット(ふたば)」があります。チャットボットとは、チャット形式で質問すれば、AI(人工知能)を活用して自動で回答されるものです。また、YouTube「国税庁動画チャンネル」も開設しています。確定申告書コーナーでの申告書類の作成の仕方やe-TAXの仕方など分かりやすく解説してくれます。
国税庁確定申告特集のサイトはコチラ。
昨年は確定申告及び納税の提出期限がコロナの影響で4月16日に延長され、その期間を過ぎても柔軟に対応することになりました。今年は、現時点では原則3月15日が期限となっています。
しかし、コロナに感染したり、濃厚接触者で自宅待機となったり、または依頼している税理士が感染し、申告・納付の手続きに必要な書類等の作成が遅れた等、その期限までに申告・納付等を行うことが困難な場合には、個別指定による期限延長が認められます。
「令和2年分確定申告における感染症対策に関するFAQ」を国税庁で発表していますので、ご覧ください。
国税庁の確定申告サイトは、動画やFAQなどが充実している。コロナ感染リスクに気をつけて、対応しましょう。