第11回 装置の金属製の部材に、運転中に割れが発生しました。どのような割れの形態があるかや、どのような視点で検討したら良いか教えて下さい。
運転中に発生する割れに関して、き裂のつたわり方(伝播)の速さにより、大きく次の二つに分けられます。
- 不安定き裂伝播
- 安定き裂伝播
「不安定き裂伝播」とは、数秒以内程度の短期間に割れが伝播する現象で、この現象には「脆性破壊」と「延性破壊」の2種類があります。これらの現象は、機械的な(応力による)現象です。
「脆性破壊」は、ガラスの破壊と同様に、ほとんど変形をともなわない現象で、破壊の生じた面(破面と呼びます)は、平坦な特徴があります。
これに対して、「延性破壊」は、粘土を引きちぎるような破壊形態であり、大きな変形をともない、破面は大きな凹凸をともなう特徴があります。この場合、破面を電子顕微鏡で観察すると、ディンプルと呼ばれる模様が観察されることが多いです。
「安定き裂伝播」とは、運転中に徐々にき裂が進展する現象で、これには「疲労」、「腐食疲労」および「応力腐食割れ」があります。
「疲労破壊」は、部材に振動や応力振幅が負荷された場合に、き裂が発生し、徐々にき裂が進展する現象です。外観的には変形はほとんど認めらず、また破面も平坦ですが貝殻模様やビーチマークと呼ばれる模様が肉眼で観察されます。電子顕微鏡レベルで破面を観察すると、ストライエーションと呼ばれる波状の模様が観察される場合もあります。
「腐食疲労」は、腐食と疲労が重なってき裂が発生・伝播する現象です。単純な疲労との違いは、より小さい応力振幅でも腐食疲労は発生したり、き裂伝播のスピードがより速い場合があります。金属表面に腐食による凹凸が見られる場合が多いですが、き裂自体の特徴は疲労き裂を同様の特徴を示します。
「応力腐食割れ」は、引張の応力が作用し特定の環境条件および材料の組み合わせて発生する割れです。応力腐食割れには大きく以下の3種に分類されます。
- 活性経路腐食
- 変色皮膜破壊
- 水素脆化
「活性経路腐食」は、ステンレス鋼など不働態化して耐食性を示す材料を、塩化物イオン等の局部腐食性を示す成分を含む環境で使用した場合に生じます。割れは、多くの枝分かれをともなう特徴があります。従って破面は、大きな凹凸をともないます。
「変色皮膜破壊」は、炭素鋼など耐食性のあまり良くない材料が、環境中でサビなどの腐食生成物をともなう使用条件で発生します。き裂の枝分かれは少なく、また負荷される応力が高い場合に限定して発生する特徴があります。
「水素脆化」は、硬さの高い材料で、水素を吸収し、引張応力を負荷された場合に発生します。き裂の枝分かれは少なく、破面は比較的平坦な特徴があります。材料が水素を吸うのは、環境中での腐食反応による場合や、水素ガス中で材料が使用される場合などです。環境中に硫化水素が存在すると、材料中に水素が吸収され易くなります。
以上の各割れ形態の分類と特徴を表1に示します。実際に割れが生じた場合に、目視で変形の有無や破面の凹凸の有無や貝殻模様等の有無、割れ断面観察でき裂枝分かれの有無、および材料の種類や環境中に塩化物イオンの有無等を明らかにできれば割れ形態を確定することが可能となります。割れ形態は、その発生機構と関連付けられているので、これにより割れ抑制の対応策を明らかにすることができます。
なお、実際には、初期に応力腐食割れが発生し、その後に延性破壊するなど、現象が時間的に変化しながら最終破壊に至る場合があります。検討に当たっては、この種の時間的な変遷のあることを前提に損傷の特徴を検討する必要があります。
形態 | き裂 伝播 (速度) |
形態の特徴 | 要因や条件 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
変形 | 破面 { ( )内 電顕観察} |
割れ枝 分かれ |
模式図 | 主な要因 | 材料 | 環境 | ||
脆性破壊 | 不安定 (速い) |
なし | 平坦(リバー パターン) |
なし | ![]() |
機械的 | 脆い材料 | 鋼は低温で 発生し易い |
延性破壊 | 大 | 凹凸大 (ディンプル) |
少ない | ![]() |
機械的 | 延性材料 | - | |
疲労 | 安定 (遅い) |
なし | 平坦、 貝殻模様 (ストライ エーション) |
少ない | ![]() |
機械的 (変動) |
- | - |
腐食疲労 | なし | 平坦、 貝殻模様 (ストライ エーション) |
少ない | ![]() |
機械・ 化学複合 |
- | - | |
活性経路 腐食 |
なし | 凹凸大 (松葉模様) |
多い | ![]() |
化学的 (腐食) |
不働態化 する材料 |
Cl-等 特定の 成分含む |
|
変色皮膜 破壊 |
なし | 凹凸中 | 中程度 | ![]() |
化学的 (腐食) |
厚い皮膜 作る材料 |
全面 腐食性が 小さい |
|
水素脆化 | なし | 凹凸小 | 少ない | ![]() |
化学的 (腐食) |
硬い材料 | 軽度の 腐食性や 硫化水素 含む |