化学装置材料の基礎講座

第28回 配管用ステンレス鋼管のJIS規格には、SUS304TPとSUS304LTPとSUS304HTPがあります。これらの違いと使い分け方を教えてください。

   JIS G 3459の配管用ステンレス鋼管には、SUS304系として、SUS304TP、SUS304LTP、SUS304HTPが規定されています。また、JIS G 3463のボイラ・熱交換器用ステンレス鋼管には、SUS304TB、SUS304LTB、SUS304HTBが規定されています。末尾のTPは配管用(Pipe)、TBはボイラ及び熱交換器用(Boiler and Heat Exchanger)と用途を示す付番で、材料としては、SUS304、SUS304L、SUS304Hの3種類が規定されていることになります。以下、SUS304、SUS304L、SUS304Hの違いと使い分けについて述べます。

   表にSUS304、SUS304L、SUS304Hの主な違いを示します。成分の主な違いは、鋼材中に含まれる炭素含有量の違いです。SUS304LはSUS304に比較して炭素含有量の上限値が低く、一方、SUS304Hは炭素含有量の下限値が規定されているとともに、上限値がSUS304より高く定められています。

   炭素含有量の違いによって、大きく異なるのは以下の2項です。

  1. 1.
    使用限界温度
  2. 2.
    鋭敏化のしやすさ

   炭素量の違いによって常温の引張強さも異なりますが、機械的な性質で最も大きく違うのは高温における強度(クリープ強度を含め)です。炭素含有量が高いほど高温の強度が高く、その結果、使用限界温度が異なります。たとえば、JIS B 8265「圧力容器の構造-一般事項」の付表2.1.1の「鉄鋼材料の許容引張応力」において、許容引張応力の与えられている最高温度を表中に示しますが、これによるとSUS304は525℃(炭素含有量が0.04%以上の場合は800℃)、SUS304Lは425℃、SUS304Hは800℃となっています。高温強度の観点でSUS304HはSUS304やSUS304Lに比較して、より高い温度での使用が可能です。

   一方、炭素量の違いにより鋭敏化のしやすさが異なります。鋭敏化については、本講座の第10回をご覧ください。そこにも記載したとおり、炭素含有量が高いほど鋭敏化が生じやすい傾向があり、SUS304やSUS304Hに比較して、炭素含有量の上限の低いSUS304Lは鋭敏化しにくい特徴があります。鋭敏化が生じると湿潤大気中で粒界腐食や粒界型の応力腐食割れが生じるほど耐食性が低下します。厚肉の溶接構造物など鋭敏化の可能性があり、鋭敏化による腐食が懸念される場合にはSUS304Lを選択することによって腐食が回避できる場合があります。

   なお、高温、高濃度の硝酸水溶液など一部の環境では、鋭敏化が生じていなくてもSUS304に粒界腐食が生じ、これを抑制するため、SUS304Lが選択される場合があります。ただし、このような環境はまれであり、一般には鋭敏化が生じていないSUS304とSUS304Lの耐食性は同等です。したがって、鋭敏化していないSUS304に腐食が生じたからといって、SUS304Lに材料変更してもほとんどのケースでは、改善されませんので注意が必要です。鋭敏化の確認方法については、回を改めて紹介します。

   以上、SUS304について述べましたが、SUS316にもSUS316、SUS316L、SUS316Hがあります。SUS316もSUS304と同様の特徴があり、使い分けられています。

表 SUS304、SUS304L、SUS304Hの主な違い(SUS316系も同様の傾向)

表 SUS304、SUS304L、SUS304Hの主な違い(SUS316系も同様の傾向)

*1:JIS B8265の付表において、許容引張応力が記載されている上限温度
        SUS304は800℃まで記載されているが、550℃以上は炭素含有量が0.04%以上の場合
        (SUS304H相当)との注釈があるため、525℃とした。

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