化学装置材料の基礎講座

第9回 美浜原発の事故などで「エロージョン・コロージョン」と言う現象が話題になっていますが、その特長を教えてください。

   エロージョン・コロージョン(Erosion-Corrosion)は、環境(液相や気相)の流動による「物理的な効果」と、環境の「化学的(腐食の)効果」が、複合して装置材料の減肉を加速する現象です。

    ほとんどの材料と環境の組み合わせで、金属材料が耐食性を示すのは、図1に模式的に示す様に表面に皮膜が生じ、それにより環境と金属の化学的な反応を抑制することによっています。

   鉄や銅合金などの金属では、多くの環境中で厚さが1μm(0.001mm)以上程度で、目で見ることができる厚い皮膜で「腐食生成物皮膜」と呼ばれる皮膜が生成されます。この皮膜は、脆く金属との密着性の低い場合が多いです。

   これに対し、ステンレス鋼やアルミ合金などでは、厚さが1nm(10-6mm)オーダで、目では確認できないほど薄い「不働態皮膜」と呼ばれる、耐食性と密着性の良い皮膜が生じます。

図1.溶液中で皮膜が生じた状態の模式図(⇒は流速の程度と方向を示す)

図1.溶液中で皮膜が生じた状態の模式図(⇒は流速の程度と方向を示す)

図2.「皮膜破壊型」エロージョン・コロージョンの模式図

図2.「皮膜破壊型」
エロージョン・コロージョンの模式図

図3.「皮膜減肉型」エロージョン・コロージョンの模式図

図3.「皮膜減肉型」
エロージョン・コロージョンの模式図

   エロージョン・コロージョンは、前者の「腐食生成物皮膜」を生じて耐食性を示す材料と環境の組み合わせで、生じ易い特徴があります。逆に「不働態皮膜」を形成する材料と環境の組み合わせでは、エロージョン・コロージョンは、一般に生じにくいです。

   このエロージョン・コロージョンには、二つのタイプがあります。その一つは、図2に模式的に示す様に、流速の効果により皮膜が破壊され、その部分で素地の金属が環境中に露出して腐食加速が生ずる形態です。このタイプを、ここでは「皮膜破壊型」と呼ぶことにします。他の一つのは、図3に模式的に示す様に、流速の上昇により皮膜が薄くなり、腐食反応が全面的に加速される形態です。このタイプは「皮膜減肉型」と呼ぶことにします。このタイプは、「流速加速腐食(Flow Accelerated Corrosion)」とも言われることもあります。

   このタイプにより、減肉の流速依存性や減肉形態に差が生じます。「皮膜破壊型」では、限界流速と呼ばれる流速までは、腐食加速はほとんど生じませんが、それを超えると急速に減肉加速が生じます。この場合、流速によりますが、局在化した特徴的な減肉形態を示すことが多いです。これに対して、「皮膜減肉型」では、流速の増加に応じて、徐々に減肉加速が生じ、また全面的な減肉形態を示します。これらの減肉の流速依存性を、模式的に図4に示します。

   流動による物理的な効果は、液相単相に比較して流れにスケールや触媒などの固形分を同搬する場合や、気液二相流の場合に大きい傾向にあります。また、液相単相でも、流速の低い場合の「層流部」より、流速の大きい場合や渦を巻く場合の「乱流部」で、物理的効果が大きくなる傾向があります。

   美浜原発で生じた、炭素鋼製の給水配管、オリフィス後流の乱流部で生じた減肉は、「皮膜減肉型」と考えられています。

図4.エロージョン・コロージョンのタイプによる流速と減肉速度の関係の模式図

図4.エロージョン・コロージョンのタイプによる流速と減肉速度の関係の模式図

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