化学装置材料の基礎講座

第8回 冷却水使用のステンレス鋼製熱交換器で発生する応力腐食割れ(SCC)の発生条件と防止法について教えてください。

   写真1、写真2および第7回の講座でご紹介したように、冷却水環境からのステンレス鋼のSCCは、管と管板の「構造的なすきま部」や、管表面の「付着物下のすきま部」で発生する「すきま腐食を起点として粒内型応力腐食割れの発生する特徴」があります。

写真1.ステンレス鋼製熱交換器の管外面の浸透探傷結果
(シェル側通水の熱交換器、バッフル部近傍)

写真1.ステンレス鋼製熱交換器の管外面の浸透探傷結果
(シェル側通水の熱交換器、バッフル部近傍)

写真2.割れ発生部の断面金属顕微鏡写真
(すきま腐食を起点として粒内型応力腐食割れが発生)

写真2.割れ発生部の断面金属顕微鏡写真
(すきま腐食を起点として粒内型応力腐食割れが発生)

   この種のSCCは、以下の各項を満たす場合に発生します。

  1. ①  SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L等のオーステナイト系ステンレス鋼
  2. ②  熱交換器のプロセス流体の入口温度が、50℃以上
    (SUS316系の場合に、発生の下限界温度が100℃以上とする説もあるが明確でない)
  3. ③  冷却水中に、塩化物イオン(Cl)を含む(一般的にClが数ppm以上と言われている)

   以上の3項が、冷却水環境からSCC発生の必須の条件ですが、これら以外に以下の各項が、SCCの発生を加速します。

  1. ⅰ  冷却水をシェル側に流す(チューブ側に流す場合は発生しにくい)
  2. ⅱ  冷却水の細菌の活性が高い
  3. ⅲ  冷却水の流速が低い(一般的に0.3m/sec以下と言われている)
  4. ⅳ  プロセス流体の温度がより高い

   以上の4項目は、いずれもステンレス鋼のすきま腐食を加速する要因です。以上の①項から③項、およびⅰ項からⅳ項を、SCCの生じにくい方向に変えることが、その発生抑制に繋がります。以下では、それを設計段階、運転段階に分けて紹介します。

設計段階のSCC抑制策

  1. a  冷却水をチューブ内側に流す
  2. b  冷却水の流速を運転状態で、1 m/sec程度に高く取れるように、伝熱面積等を決める
  3. c  SCCの発生可能性が高い(例えば温度が高く、冷却水をシェル側に流さざるを得ない)場合は、以下の材料面もしくは環境面の対応を取る
    1. (ア)  二相ステンレス鋼や高純度フェライト系ステンレス鋼などのSCCの生じにくい材料を選択する
    2. (イ)  冷却水として純水を採用する(例えば純水を閉ループで採用する)

運転段階のSCC抑制策

  1. d  以下の各項についての冷却水(開放循環系を想定)の管理を継続的に行う
    1. (ウ)  殺菌処理
    2. (エ)  塩化物イオン濃度、濁度、硬度等の水質
  2. e  冷却水の流速が、0.3 m/sec以上に維持されているか管理する

   以上の各項について留意しても、冷却水側からステンレス鋼にSCCの発生する場合があります。このため、定期的に検査を行い、SCC発生の有無を検証することも重要です。

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