化学装置材料の基礎講座

第7回 冷却水を使用しているステンレス鋼製多管式熱交換器では、 冷却水環境側から応力腐食割れが発生しますが、どのような特徴や発生機構により発生するのですか。

   SUS304やSUS316など汎用のステンレス鋼製の多管式熱交換器では、冷却水側環境より応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking、略してSCC)の発生することがあります。このSCCの特徴的な発生状況を、冷却水をシェル側に流した場合を模式的に図1および図2に、また管内側に流した場合を模式的に図3に示します。

   これらに示した様に、ステンレス鋼に冷却水環境から発生するSCCは、必ず「すきま部」を起点とする特徴があります。ここで「すきま部」とは、図1に示した管と管板との構造的に生ずるすきまや、図2に示した付着物(デポジット)によるすきまの2種類があります。

   なぜ冷却水環境でステンレス鋼に発生するSCCは、「すきま部を起点とするか」と言いますと、すきまのない状態で冷却水は、ほぼ中性で塩化物濃度も低い(数ppmから数十ppm)ため、ステンレス鋼にSCCを発生するほど腐食性が高くないためです。しかし、すきま部が存在し、環境条件(温度、塩化物イオン濃度、酸化性)が合わせて整うと、その下部で経時的に冷却水中の塩化物イオン(Cl)等の腐食性成分の濃縮とpHの低下が進行し、局部的な腐食性の過酷化が生じます。そして、すきま内での腐食性が臨界に達した段階で(例えばpHが約2、塩化物イオン濃度が1000ppm)、すきま部でステンレス鋼に「すきま腐食」が発生します。

   一旦すきま腐食が発生すると、更にすきま部での腐食性の過酷化が進行し、またすきま腐食発生による形状変化により応力集中部も生じますので、その部分からSCC発生に至ることになります。

   冷却水環境からのステンレス鋼のSCCは、以上の特徴を示すので、SCC発生を抑制するにはすきま腐食の発生を抑制することが有効な対策となります。SCC抑制策については、別の機会に紹介します。

図1.シェル側通水の縦置きステンレス鋼製熱交換器の上部における応力腐食割れ発生の模式図

図1.シェル側通水の縦置きステンレス鋼製熱交換器の上部における応力腐食割れ発生の模式図

図2.シェル側通水の横置きステンレス鋼製熱交換器における応力腐食割れ発生の模式図

図2.シェル側通水の横置きステンレス鋼製熱交換器における応力腐食割れ発生の模式図

図3.管側通水のステンレス鋼製熱交換器における応力腐食割れ発生の模式図

図3.管側通水のステンレス鋼製熱交換器における応力腐食割れ発生の模式図

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